74.物語と最後の作戦
この世界が終わる。そう口に出した瞬間から、震えが止まらなくなった。
本当の自分を受け入れて貰えた。大嫌いだった自分を、寧ろ好きだと言ってくれた。幸せで幸せで仕方なかった。自分が主人公の物語の、一つの結末を迎えた気分だった。
そして、物語の世界だからこそ、いつかは終わりが来る。
「声が……、神様みたいな声が言ったんだ……。ハッピーエンドで終われって……。それが俺の役目だって……。どうしよう、俺が幸せになっちゃったから、物語は終わりに向かっちゃったのかな……」
「ねえ、それなら、魔王を倒さなかったら!? それならハッピーエンドにはならないわ!」
「それは嫌だ!」
セレスの言葉に、優人は首を振った。
勿論、優人自信もその考えが頭をよぎった。けれども、考えれば考えるほど、それが良いとは思えなかった。
「俺、勿論セレスや皆と、これからも一緒にいたい。だけど、同時にこの世界が大好きなんだ。魔王を倒さなきゃ、どんな形でも決着を付けなきゃ、皆も、今までに出会った沢山の人が苦しみ続ける。そんな世界を見ながらこの世界で生き続けるなんて、俺、耐えられない……」
「……そうよね。それが、優人よね」
セレスも諦めたように肩の力を抜き、悲しげにほほ笑んだ。
「でも、あんまりだわ。だってせっかく優人と分かり合えたのだもの。その瞬間にさよならなんて。これから、色んな幸せを過ごしていくものではないの……?」
現実の世界なら、これからの平凡な時間を過ごして行けたのだろう。けれども、この世界があくまで物語だと言うのならば、終わった後の平凡な世界をダラダラとは描かれない。ハッピーエンドを迎えたなら、その後は幸せに暮らしました、その一文で終わりだ。
「どうにかして、神様に会えないのかしら」
と、セレスはぽつりと呟いた。
「言いたいわ。優人を連れて行かないでって。そして優人の望んだ幸せな世界のまま、この世界を終わらせないでって」
セレスの言葉に、優人は顔を上げた。今度は何も確証があるわけではない。けれども、会える可能性がある方法を、優人は一つだけ知っていた。
「神様は言ってた。主人公は、俺だって。俺が主人公なら、主人公が死んでる間はハッピーエンドにはならないよな」
優人の言葉に、セレスはゾッとした顔で優人を見る。
「駄目よ! そんなの意味が……」
「でもこの世界では、生き返らせることもできるだろ? 会えるんだ。俺が死んだら、その神様に。そしたら伝えられる。俺の思いを」
その言葉に、セレスは一度目を閉じて考え込んだ。そして、もう一度目を開けて、まっすぐ優人を見て頷く。
「……わかったわ。念のため、死者蘇生の方法を皆に伝えてもいいかしら。そうしたら、きっと誰に何があっても優人を……、ううん、誰も欠けずに進めるわ」
そう言って、セレスはレピオスとカーラの方を見た。レピオスとカーラも、真面目な顔で頷く。
「こういう状況であれば、いいでしょう。世界が終わるのであれば、罪など関係ないですから」
「そうだね! もしこの世界がちゃんと続いたら、皆で怒られよう!」
二人の言葉に、優人は思わず笑みがこぼれた。
自分が死ぬための作戦は、この世界に来て2回目だ。けれども、これから死ぬというのに、前とは違う安心感があった。
今回は、ひとりよがりの作戦ではない。皆で決めた、皆で幸せになるための作戦だ。
「念のため確認しておきたいんだけど、今までの戦いで、魔王の体力が……、ううん、魔王が倒れる少し前、紫色のオーラをまとって、ビームみたいなやつ放ってこないか?」
「確かに、ありましたね。避けることは難しくありませんが」
レピオスの言葉に、優人はほほ笑む。
「あれ、魔王の即死技。俺、それを受けて死のうと思う。だから、誰も俺を助けないで」
流石に、死ぬといってもあまり痛みは感じたくなかった。きっとその技なら、あまり苦しまずに死ねるだろう。
そんな事を考えている優人を、セレスは見つめた。
「ねえ、優人。その技を放ってきた時は、もう体力が少ないのは間違いないのね」
「少なくともゲームではそうだった。流石にそこに違いは無いと思うし、三人だけでも楽に勝てると思う」
「そう、わかったわ」
そうして四人は、最後の作戦会議を始めた。死者蘇生の方法と、魔王との戦い方の共有。せっかくなので、ゲームでの攻略方法を優人は三人に伝えた。きっとこれで、負けることはないだろう。
「優人はあんま無茶しちゃ駄目だよ! 少し動いたらしんどくなっちゃうんだから!」
「そうよ! まあ私のせいなのだけど……。絶対に前に出て戦わないで。意識しないと、絶対に優人は前に出ようとするわ」
「あはは……。後方支援に徹します……」
本当は最後ぐらい前に出て戦いたいけれど、それは仕方ないかと優人は笑った。ゲームでもソルの動かし方は後方支援だから仕方ない。
「恐らく生きているであろうレヴィア……、ベヘの可能性も捨てきれはしませんが、その二人からの奇襲攻撃には気を付けましょう。私も確認しますが、定期的に後ろの確認をお願いします」
レピオスの言葉に他の三人も頷いて、そして立ち上がる。
優人は、少し離れた所で見ている悟の所に駆け寄った。
「悟は、パシオニアに戻って安全なとこにいて」
その言葉に、悟も頷く。
「わかった。僕は祈る事しかできないけど、応援してる」
「ありがとな。頑張ってくる」
そう言って、優人は一歩悟から離れる。本当は、悟とももっといろいろな事を話したかった。けれども、それが叶うのも、全部終わってからだ。
そんなことを優人が考えていると、きっと不安そうな顔をしていたのだろう、悟は、一歩優人に近付き優人の肩を掴む。
「大丈夫。きっと成功する。だって優人君が主人公の物語があるのなら、僕が主人公の物語もあるはずだから。僕にとってのハッピーエンドは、優人君が全部成功して戻ってきて、また一緒に過ごせること。今、決めた」
悟の言葉に、優人は一瞬目を見開き、そして心に決めたように笑った。
「ありがとな! 俺も、俺の本当のハッピーエンド、見つけてくる!」
そう言って、優人は自分の拳を、悟の胸にくっつけた。




