73.直感とカウントダウン
「優人はいつか元の世界に戻っちゃうの……?」
セレスの言葉に、優人は慌てた。
「いや、そんな事は……! 戻るっていっても、多分この世界で一生を過ごした後で……」
優人はセレスにそう言いながら、どんどん自信は無くなっていた。
そもそも自分がソルになったのだって、この世界でソルが生まれてからではない。突然入ったのだ。それならば、突然元の世界に戻っても、おかしいことなどなかった。
「……ごめん。わかんない。俺が勝手にそう思ってただけかも」
「そう……。わからない、のね……」
そう言って、セレスは俯いた。
「叶うなら、優人とずっと、何年も何十年も一緒にいたいわ」
「それは、俺も……」
同じ気持ちだ。そう言おうとした瞬間だった。突然、大地は大きく揺れた。
それと同時に、空は赤く染まり、植物は枯れ始める。その光景を、優人は見たことは無いけれど知っていた。
「魔王の、復活」
別におかしな話ではなかった。ベヘ達が優人にした手順を踏めば、赤い血を持つ人間でも魔王の生贄になることができる。けれどもすぐにベヘ達が魔王を復活させなかったのは、この手順で復活させた魔王が理由もなく消えたと思われていたからだった。
「優人の存在がバレたのかしら」
セレスが優人の手を握りながら言う。
「確か優人を死者蘇生した瞬間、魔王は消失したのでしたっけ。けれども、存在がバレただけであり得るでしょうか。それだけで魔王が消失した原因を突き止められるとは思えませんが」
セレスの言葉に、レピオスは考え込みながらそう言った。けれども、優人は別の胸騒ぎが消えなかった。静かに、優人は魔王の復活したであろう方向を見る。
「……べへが、生贄になったのかも」
「その根拠は?」
「それが、本来のシナリオだから」
そう言いながらも、優人の中でも自分の発言に対する疑問は消えなかった。
今までだって、物語は同じ方向に向かっても、優人が違う行動を取れば別の人が取ることは沢山あった。セレスではなくレピオスが死者蘇生の禁術の件で国に呼ばれたように。そして、べへではなくセレスが四天王を復活させていたように。
けれども、どうして今、確信を持ってべへだと思ったのだろうか。別にレヴィアが生贄になっていても、他の人間が生贄になっていてもおかしくないのに。
と、レピオスが通信のための魔道具を取り出した。
「……少なくとも、べへかレヴィアが生贄になったことは間違いなさそうですね。以前の魔王復活の後、使われた禁術は2件。1つは優人ですから、人を魔族にした後に生贄に使ったわけではなさそうです」
自分の直感が現実に近付いたことで、胸騒ぎは大きくなっていった。優人は、エメラルドグリーンの玉をポケットから取り出して、セレスに渡す。
「ごめん、今だけこれ、持っといて」
「えっ」
「頼む。今だけは、どうしても聞かれたくない」
真剣な顔でそう言えば、セレスは困ったように笑いながら、わかったわと言った。その言葉を聞いて、優人は悟をセレス達から少し離れた所に連れて行く。
「……なあ悟。俺の場所、どうしてわかった」
「えっ……? ええっと、なんとなく、直観というか……。絶対ここ、みたいな、なんとなく確信があって……」
そして、その悟の直感は当たった。きっと、自分の直感も当たるのだろうと優人は思う。
「神様みたいな声が言ってたんだ。この世界には強制力ってもんがあるんだって。この世界は、あくまで物語なんだと思う。あくまでここは、俺達の魂の傷を癒すための世界らしい」
その言葉に、悟は驚いたように優人を見た。けれども、きっと悟も察したのだろう。真剣な顔をして、優人を見た。
「僕は、優人君の選択に任せるよ。僕はこの世界に、未練は無いから」
「俺は……、どうしたいんだろうな」
そう言って、優人はセレスの所に戻った。
「ありがと。それ、返して」
優人は、エメラルドグリーンの玉をセレスから受け取る。どんな理由があったとしても、これはセレスからの初めてのプレゼント。今ではこの玉の存在すら、愛おしかった。
「あの、さ。セレス」
優人は、セレスに伝えなければと口を開く。けれども、伝える勇気は、まだなかった。
「あ、あのさ。これ、直に持ってんの、やっぱ寂しくてさ。セレスが作ってくれたあの袋、どこにある?」
「……私が持ってるわ。それに入れて付けていい自信が無かったの」
「魔王倒し終わったらでいいから、またくれないか? 見えるとこに、付けたいから」
「わかったわ。必ず渡す。せっかくなら、新しいものを作り直してもいいわ」
「それは楽しみだな! セレスがいいなら、新しいの作って欲しい」
そう言いながらも、優人の胸はズキズキと痛む。きっと、これは叶わない。いや、せめて最後にそれが叶って終われば良いと思って言った台詞だった。
優人は小さく息を吸う。
「早く、魔王、倒しに行こう。じゃないと、この世界がぐちゃぐちゃになっちゃう」
「優人……? ねえ、大丈夫なの……?」
セレスが、優人の手を引いて心配そうに言った。
「何、が? 別に、何も……」
「教えて! お願い……! もう一人で抱え込まないで……!」
セレスの言葉に、一瞬、息が止まった。ああ、まただ。また同じ失敗を繰り返すところだった。一人で勝手に自分に思いついたハッピーエンドを描こうとして、それで沢山の人を傷つけたと知ったばかりではないか。
皆で分けよう。大丈夫。ここは皆、自分が悩んでて迷惑に思う人はいない。寧ろ、手を差し伸べたいと思ってくれる人ばかりなのだ。
「直感。ほんとこれは、根拠のない直感だけど、どうしてか確信があるんだ。魔王を倒したら、きっとこの世界はエンディングを迎えて、終わる」




