72.友達と生きる意味
「なんで優人君にそんな酷い事したんですか!」
突然セレスに向かってそう言った悟に、優人は動揺して言いたかった言葉が全て引っ込んでしまった。その隣で、セレスがムッとした顔で悟を睨む。
「その件はもう優人と話して解決したわ! それに、守る力もない、状況も知らないあなたが外野からとやかく言わないで!」
「僕は自分に力が無いとしっかり理解しているからこそ、あなたに託したんです! それに、何もできないからと問題を野放しにしてはいけない理由にはならないでしょう! そもそも、あんなに偉そうに自分なら優人君を守れると言っておいて、一度死なせるってどういうことですか!?」
「それは……。そんな事言ったら、あなただって前世で……!」
「待って!」
セレスが言おうとした言葉を、優人は慌てて止めた。
「それは、俺が自分の言葉で伝えたいから」
「……わかったわ」
優人の言葉にセレスはまだ不機嫌そうな顔をしていたが、それでも言葉を止めてくれた。そんなセレスに少しホッとしながら、今度は悟の方を見た。
「えっと……」
優人が話しかけようとすれば、悟も流石にセレスを睨むことをやめて、優人を見た。そんな悟を見て、少しだけ不安になる。
確かに以前話した時、トルサは悟に似ていると思った事はあった。けれども、こんなにハッキリ何かを言う性格だったっけと優人は思う。前世では、嫌な事を言われても何も言い返せず笑顔で誤魔化しているイメージがあった。
「本当に、悟なんだよな……?」
「そうじゃないと、優人君の名前、知ってるはずなんてないでしょ?」
「そう、だよな……。なんか、雰囲気ちょっと変わったな、って」
優人がそう言うと、悟は困ったように笑った。
「この世界に来て、冷静になって、やっぱり変わらなきゃいけないって思ったんだ。僕がもっとちゃんと、はっきり自分の思った事を伝えてたらって。虐めてきた人達だけじゃなくて、優人君にも」
そう言った悟の体はよく見たら震えていて、きっと悟の性格を考えたら、まだこれだけ意見を言うのは怖いのだろうと優人は思う。
けれども、悟も変わろうとしているのだ。だから、自分も変わらなければいけない。そう思って優人は悟を見た。
「……前世では、ごめんな。悟の気持ち考えずに、勝手に突っ走って」
その言葉に、一瞬悟は驚いた顔をして優人を見た。
「ううん。僕を庇ってくれた事、嬉しかったよ。……でも、やっぱり、僕の代わりに優人君が虐められたって思ったら、それが一番辛かった」
「……そうだよな。ほんとごめん」
「できるなら、僕達二人で解決したかったよ。僕だけ幸せな場所にいて、優人君が苦しんでる姿を見るのは辛かった」
「うん。悟の気持ち全然わかってなくて、本当にごめん」
「もう気にしないで。前世の事だし。これからは、昔みたいにまた友達になれたら……」
悟の言葉を聞きながら、優人は小さく息を吸った。これだけで終わらせたくないことが、一つだけあった。
「……悟も、なんで勝手に死んだんだよ」
「えっ、あ……」
「わかってるよ! 俺のせいだって! 俺が相談すらさせなかったって! でも、なんで勝手に死んじゃうんだよ! 死んだらもう全部終わっちゃうんだって……!」
優人の叫びに、悟は震える手で優人に手を伸ばした。
「……ごめん。あの時は、その方法でしか優人君を……」
「なんも変わんなかった」
「え」
「なんも変わんなかった……! 今は虐めは無かったって、それで終わり……! 俺だけが学校に行けなくなって終わり……! 虐めたやつらは、俺達と違ってのうのうと生きてんだよ!」
優人の言葉に、悟は目を見開いた。
「なん、で。ニュースでは、死んだら、虐めた人、皆責められて……」
「そんなの、たまたま、偶然そうなっただけ……! きっと、寧ろ、大事にならないように隠されて……。……俺、なんかまだ未練があって、夢の中で前世の世界に戻ってんだって。あいつら、俺の事すら忘れて生きてた。そんなもんなんだよ、現実の世界は。物語とは違うから」
「そんな、じゃあ、僕は……、なんのために……」
崩れ落ちる悟を、優人はじっと見つめた。
「悟が死んで、本当に辛かった。苦しかった。何度も自分を責めた。悟を守り切れてなかったんだって。悟の思いを知ったのも、こっちの世界来てから、夢で手紙を読んでからで全然知らなくて……」
「待って! じゃあ優人君が死んだ理由って……」
「俺の場合は交通事故。自分で死んだわけじゃない。まっ、学校に行けなくなるぐらいは辛かったけど」
「……ごめん」
少しの間。優人と悟の間に、ずっと隣で見ていたレピオスが入り、口を開いた。
「一つだけ、間違えないでくださいね。そもそも、悪いのは優人でも悟さんでもない、虐めていた人達なのですから。彼らさえいなければ、二人とも苦しむことは無かった。それだけは事実ですから」
その言葉に、優人は少しだけ楽に呼吸が出来るようになった。そうだ、それだけは間違えてはいけない。それだけは、紛れもない事実だ。
「そうだな。悪いのは、虐めてきたやつら。あいつらの事は、もし呪えるなら呪いたいし、もし同じ苦しみを味合わせられるなら味合わせたい。けど、それはできないんだよな。もう俺も悟も、死んじゃったし」
「そう……、だね……」
悟は、まだ後悔しているのか俯いたままだった。そんな悟の肩に、優人は触れる。
「でもさ、言っただろ? 俺、今幸せだって! 俺、この世界に転生して、ものすごく幸せなんだ! 悟は……?」
「僕も……、幸せ……、だよ? ここでは、好きな本沢山読めるし、優人君にも会えて……。でも、幸せだからって、全てが消えるわけじゃ……」
「消さなくてもいいじゃん! 俺だって消えないし! でも、なんか俺達の魂、いつか元の世界に戻るんだって! なんか神様っぽい声が言ってた! だからこの世界で沢山幸せになってこの世界楽しんで、それでもしあいつらが生きている間に戻れたら、沢山呪ってやろうぜ!」
優人の言葉に、悟はようやく笑顔を見せた。
「確かに、せっかくこの世界に来たなら、この世界を楽しまなきゃ損かも。寧ろ魂が転生できるなら、あの人たちは地獄の世界に落ちろって今から願っとく?」
「そうだな! 俺達がこの世界に転生できたなら、きっと地獄もあるよな! 賛成!」
悟とのやり取りに、優人の心はどんどん軽くなっていく。
わかってる。自分に呪える力なんて無いことも。地獄なんてある保証もないことも。けれども、同じ経験をして、共感しあえる悟という存在が、不思議と生きる力になるのだ。
「待って」
と、優人の袖を、隣にいるセレスが掴んだ。隣を見ると、何故か不安そうな目をして、優人を見ていた。
「ねえ、元の世界に戻るってどういうこと……? 優人はいつか元の世界に戻っちゃうの……?」




