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70.愛の形と二人の世界

「セレスにだってもっと怒っていいんだからね!」


 そう言ったカーラの言葉に、優人の思考は固まった。

 確かに、セレスのした事は世間一般的には良くないことなのかもしれない。けれども、そうさせた原因が自分にあると思うと、自分には怒る資格などないと思ってしまうのだ。


「だって、それは俺が……」

「そういうところですよ。ついさっき、自分はもっと怒っていいと言ったばかりではないですか」

「それは、そう、だけど……。今回のは、もし俺が変なことしなかったらって……」


 もしこれで怒ったとしたら、ただの我儘ではないだろうか? 自分の間違いで引き起こしたことで、怒っていいのだろうか。どうしても、そう思ってしまうのだ。

 優人がそう思っていると、カーラがすこし怒ったように言った。


「優人はほんと難しい事考えすぎ! それとこれとは別なの! なんで優人は人のためには怒れるのに、自分のためには怒れないの!? それに、セレスは優人の事、大大大好きなんだよ! 優人が大好きだからこそ、優人が嫌なことだって知りたいに決まってるじゃん! それに、優人に酷いことして怒られてセレスが傷付いても、それはセレスの自業自得!」


 その言葉に、優人は恐る恐るセレスの方を見た。セレスは困ったように眉を下げながらも、微笑んで優人を見た。


「知りたいわ。優人の事ならなんでも。優人が辛いって思ってることも、嫌だって思ってることも、全部。優人には、嘘偽りない笑顔でいて欲しいの。だから、誰のためでもない、あなたの気持ちを知りたいわ」


 セレスの言葉に、ああこれが愛されるということかと優人はぼんやりと思う。辛いって言っても、嫌だって言っても、それを受け止めようとしてくれるのだ。

 好きな人の事なら何でも知りたい。昔同じことをラーレにも言われたなと、優人は思う。頭では理解してからも、怖かった。本音を言ったら自分から離れていくのではないかと怖かった。

 けれども、ソルではなく優人を愛してくれていると知った今、きっと離れて行かないのだろうと思える安心感があった。


「おれ、俺は……」


 実際、どうだったのだろうかと優人は思う。

 確かに最初盗聴されていると知った時は気持ち悪さすら感じたし、悪なら何をしても良いと言い切るセレスには得体の知れない恐怖を覚えた。自由を奪われて監禁された時も、多分きっと、怖かった。だってレピオスやカーラが来た時は、どうしてか安心したから。

 けれども、今はどうだろうか。全てを知られても、自分を愛してくれた。禁忌を犯してまで、自分を生き返らせた。閉じ込めたのも、ソルではなく自分を危険な目に合わせたくないからだった。


「どうしよう……。俺、皆が望んでくれるように怒れない……」


 きっと自分は何かがおかしいのだろう。セレスのしてくれたことが、今では全部嬉しいと思ってしまうのだから。そして皆が思うよりも、幼稚で我儘な感情が溢れてきてしまうのだ。


「セレス」

「なあに?」


 縋るようにセレスを呼べば、セレスは優人の手を優しく握った。


「なんで……、なんで……、俺から離れないって言ったのに……! ベヘ達に連れて行かれた時、怖かった……! 俺の体、おかしくされて、痛くて、わけわかんなくて、怖かった……!」

「そうね、守れなくてごめんなさい」

「洞窟の中でも、なんで俺を一人にしたの……!? 俺、一緒に行きたいって言ったのに……! 俺だってセレスと一緒にいたかった……! セレスと離れたくなかった……! なんでも俺の事知りたいって言うくせに、全部セレスが勝手に決めないで!」

「……っ。そうね……。私もどこかで、優人の言葉を信じ切れていなかったのかもしれないわ。これからは、絶対に離れないわ」


 そう言って、セレスは優人を優しく抱きしめた。

 わかっている。こんなの、まるで幼い子供が言う我儘だ。結局どうにもならない事だってあることを、もう知っている年齢だ。

 けれども、こんな我儘すらセレスは受け止めてくれると言うならば。


「なあ、セレス。セレスもこんな我儘、もっと俺に言って欲しい。俺の事全部聞きたいとか、勝手にどこにもいかないようにこの腕輪付けて欲しいとか。無理な事もあるかもしれないけど、俺、セレスの事全部知りたい。俺だって、セレスの事助けたいし、セレスの願いは叶えたい」


 そう言えば、セレスは驚いたように優人を見た。


「いいの、かしら……? 私の願いって、その……」

「それがどうかを決めるのは俺。とりあえず、言うだけ言ってみて欲しい。何度も言っただろ? 俺はどんなセレスも大好きだって」

「そうね。私も優人に、何も言ってくれない、なんて言えないわね」


 そう言って、セレスはじっと優人を見た。


「流石に、これは外すわ。逆に優人を危険に晒してしまうって、わかったから」


 そう言って、セレスは優人に付いていた首輪と腕輪を外した。そして、セレスは少し不安そうな顔でポケットを見つめた。そこには、全てを聞けるエメラルドグリーンの玉が入っていた。


「セレスはこれ、俺に持っていて欲しいんだよな」

「えっと、いいの……?」

「別にいいよ。これぐらいなら」


 優人はそう言いながら、ふと一つ思いついたことがあった。


「これ、もう一つあったら、俺もセレスの事いつでも聞ける……?」

「……! 確かにそうね! そうすれば、優人といつでも繋がっていられるわ……!」

「だな! でも、どこにあるんだ? こんなの、見たことも聞いたこともないけど……」


 そう言えば、セレスは少し気まずそうに優人から目を逸らした。


「あっ、えっと……、一般には流通してない、普通は国の捜査班が使ってるようなものだけど、べへを探すためって融通してもらって……」

「マジか」


 優人は驚きつつも、セレスらしいと思ってしまう自分がいた。今のセレスは、真面目でもなければ正義感もない。そもそも死者蘇生のために簡単に人の命を奪う人間だ。そして、今の自分はそんなセレスの行動を嬉しいと思ってしまうのだ。


「じゃあ、頼もうかな」

「任せて……!」


 そんな話をしていると、一つの影が二人に近づいて来た。


「お二人の世界に入っていることは大いに結構ですが。ここにいる以外でもう一人、優人、あなたを心配している人を忘れていませんか?」


 レピオスの言葉に、優人は首を傾げる。


「もう一人……?」

「悟さんです。彼もまた、あなたに話したい事があるそうです」


 悟。その名前に、優人は一気に現実に引き戻され、思わず背筋を伸ばした。

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