69.狭い世界と広がる世界
暫くセレスの胸で沢山泣いて、その後顔を上げれば、三人とも優しい目をして優人を見ていた。そんな三人の姿にまた涙が出てきそうになったが、流石にそろそろ恥ずかしくなってきて、優人は必死に涙を拭った。
「皆、ありがとな。俺を受け入れてくれて」
「ボク達が受け入れたとか言わないでよ! 言ったでしょ!? ボク達は最初から優人の事が大好きだったんだって!」
「寧ろ、勝手に壁を作っていたのはあなたですよ」
レピオスの言葉に、優人は苦笑いするしかなかった。確かに、勝手に自分の存在は受け入れられるはずなんかないと決めつけていた。
「なんだか幸せだな。俺の大好きな世界に転生できたことだけでも幸せだったのに、大好きな皆から本当の自分を好きだと言ってもらえるなんて。前世では思ってもみなかった」
「……ねえ、優人。前世では何があったの? 私、優人が皆から疎まれてたなんて、信じられないわ」
セレスの質問に、優人は少し困ったように笑った。実際、過去の話は黒歴史で、知られたくない話ばかりだった。けれども、同時に知っても受け入れてくれるんじゃないかと、知って欲しい気持ちも顔を覗かせていた。
「……実はさ」
もしかしたら、三人は呆れたとしても受け入れてくれるのではないか。そんな期待が、優人の中で勝って、思わず優人は口を開いた。
ずっとひとりぼっちだったこと。何も上手くできない自分は、家族にすらお荷物のような存在だったこと。そんな時、悟と友達になったこと。悟の気持ちを無視して突っ走って、そして結局悟を殺してしまった事。
話しながら、優人は話した事を後悔した。話せば話すほど、三人の顔は険しくなっていく。ああ、やっぱりこんなこと、話すべきではなかった。優人がそう思った時だった。
「……どうして、誰にも助けを求めなかったのですか? ご家族とか、助けを求める相手はいたでしょうに」
レピオスは、低い声で優人にそう尋ねた。
「あはは。確かに俺じゃ何にもできなかったから、助けを求めるべきだったよな。あの時は、ただでさえ家族に迷惑ばっかかけてたから、これ以上困らせたくなくて……。でも、悟を死なせたんじゃ、意味ないよな。結局悟が死んでからは、学校に行こうとしたら体が動かなくなって、引き籠って、余計に迷惑かけたし……」
「迷惑とかお荷物とかさっきから言っていますが、家族にそう言われたのですか?」
「言われたというか、俺、一人じゃなんもできなくて、失敗したり怪我したりするたびに、面倒くさそうな顔されてたし……。兄さんはそんなことなかったのにな。そのくせ、努力すらできなくて、ほんとダメな人間だよな。悟や俺を虐めてきた奴らからも、死んだ方がいいとかこの世のごみとか散々言われて、あいつらの事は嫌いだったけど、それだけはその通りかなって」
優人の言葉に、レピオスは大きくため息をついた。流石に呆れられてしまったか。そう思って、優人は目を伏せた。
「……どうしてあなたは人に頼らないのかと思っていましたが、そんな人しか周りに居なかったら、そりゃあ人に頼ってはいけないと思い込むようにもなりますか」
「いや、それはそもそも俺が……」
「怪我をすれば、普通は面倒に思う前に心配するでしょう。失敗も、することで学んでいくものです。学ばずに繰り返すのであればそりゃあ面倒にも思いますが、私が見る限り、あなたは自分の失敗を理解すれば、変えようとしていたでしょう。私から言わせれば、あなたにそう思わせた周りが悪い」
そんなレピオスの言葉に、優人の胸の中は熱くなる。
「やっぱりこの世界は優しいな。こんな世界だから、俺は恩返しがしたくて、少しでもこの世界の役に立ちたくて……。結局、余計に迷惑かけちゃったけど」
「けれども、この世界が物語なのだとしたら、この世界を作ったのも前世の世界の方では? 私からみたら、たまたまあなたの周りがおかしかっただけにしか見えませんけどね」
「そう、かな」
確かに、この優しい世界を作ったのは前世の誰かだ。そして、そんな世界をいいねと言ってくれる人がいて、『リアンズ』ができたのだろう。
もしかしたら、想像以上に狭い世界しか知らなかっただけなのだろうか。優人はそんな事を思う。
「……私、もし優人の前世の世界に行けるなら、今すぐ行って優人にそう思わせた人を痛い目に合わせたいわ」
と、突然セレスが低い声でそう言った。セレスなら本当に言った通りのことをしそうで、優人は慌てる。
「ま、待って! 前世の世界でそれやったらしゃれになんないから!」
「だってあり得ないわ! 私なら優人に怪我なんかさせたくないと常に思ってるし、そもそもたとえ何もできなくても、優人という存在がいてくれるだけでいいじゃない! その人達は何が不満だったというの……?」
「ほんと、セレスがそう思ってくれるだけで嬉しいから! な? それに、流石に何もできないままっていうのは……」
「優人はそう言って頑張り過ぎちゃうのよ! だから周りが止めないと……。そもそも優人は自分に対する理想が高すぎるのよ! 既に私は沢山優人に助けられて来たのに、本人には全然その自覚は無いし! 優人は、もう何も頑張らなくても既に素晴らしいの! もっと甘えて欲しいぐらい!」
「わかった! わかったから、落ち着いて! セレスの気持ちは十分に伝わったから!」
不思議な感覚だった。前世の話を聞いて、まさか自分ではなく周りに怒ってくれる人がいるなんて。
全部自分が悪いと思っていた。けれども、皆の言葉を聞いていると、もっと自分の思いをぶつけても良かったのかもしれないと思えるようになっていた。
「俺も、もっと周りに怒っても良かったのかもな」
「そうだよ! 優人は、セレスにだってもっと怒っていいんだからね!」
と、突然のカーラの言葉に、優人の思考は固まった。




