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63.手紙とバッドエンド

 また、あの場所にいた。不安も感じない、温かくて心地よい何かに包まれているような場所。ここは死後の世界なのだと、理解するには十分な材料が揃っていた。


 あれから、あの世界はどうなったのだろうかとソルは思う。原作では、魔王が復活したとしても三人で倒せただろう。けれども、べへとレヴィアが生きている状態で魔王と戦うのならば、三人は無事勝てるのだろうか。


 そういえばと、ソルはここで、謎の声にハッピーエンドで終われと言われた事思い出す。それが自分の役目だと。自分が主人公という意味は未だに理解できないが、少なくともこの世界の役目すら果たせなかった事は理解できた。


『安心せい。もうあの世界は、お主が何度蘇ってもおかしくない世界だ』


 と、あの声がまた聞こえた。


『ハッピーエンドというのも、そこまで気負う必要はない。ただおまえの傷だらけの魂が癒やされ、元の世界に返せるほど回復すれば良い話だからの。おまえが主人公というのもそういう意味だ。物語のハッピーエンドは、主人公が重要だろう』


 魂。元の世界。主人公。

 ああ確かに、そんな事も言っていたなとソルは思う。けれども、その言葉を深く考えられる空間ではなかった。どうしても、頭がぼんやりとしてしまうのだ。


『大抵は自分の希望した転生先での暮らしで傷は癒えるものなのだが、おまえはそうでもないようだ。興味深い事例だ』


 謎の声は、まるで独り言のようにそう言った。

 ソルに転生したいと言った記憶は無い。けれども以前、記憶を消す消さないの話を言っていたなとソルは思う。

 きっと、記憶は消されたのだろう。もし転生できるなら、『リアンズ』に転生したいと言っただろうから。そして四人の中であれば、ソルを選んでいただろう。


 そんな事を思っていたら、また声がした。


『……なるほど、そうか。おまえは元の世界への後悔と未練で、定期的に元の世界に戻っているのか。……ふむ。少々荒治療ではあるが、もう向き合わなければいけない時でもあろうな。せっかくのタイミングだ。一度戻るといい』


 その声と共に、ソルの意識は溶けていった。







 目を開ければ、ソルは優人の体で前世の自分の家にいた。時計の針は午前3時を指していて、誰もいなかった。

 なんとなく、兄が仏壇に置いた悟からであろう手紙が気になって、優人は仏壇の方を見た。そこにはまだ、手紙が置いてあった。


 優人は思わず手紙に手を伸ばす。取ることはできないかと思ったけれども、あっさりと手に取ることができた。何が書かれているのだろうか。優人は想像もつかなくて、震える手で手紙を開いた。


 中身は、紛れもなく悟から優人に宛てた手紙だった。手紙の一枚目に書いてあったのは、悟目線から見た自分との思い出だった。

 優人としては、友達のいない自分にも話しかけてくれた、感謝しかない思い出だった。けれども、悟目線では違った。


『優人君と一緒にいる時だけは、初めて素の自分でいられました。本当に、本当に楽しい時間でした』


 知らなかった。悟がそんな事を思っていたなんて。

 ずっと、悟に助けられてばかりだと思っていた。誰からも疎まれていたはずの自分が、誰かの救いになっていたなんて、知らなかった。

 自分を、優人を必要としてくれた人がいた。それだけで心が温かくなった。


 何か優しいものに包まれる感覚になりながら、優人は手紙の2枚目を読み始めた。そこに書いてあったのは、虐めが始まった時の事だった。


 優人にとっては、前世の、しかも今は完全に別の世界で暮らしているから昔の事。けれども、胸のざわつきだけはどうしても消えない。

 痛みも、心を抉られるような言葉も、未だに鮮明に覚えている。何度も死ねと言われ、殴られ、そして笑われた。実際、本当に自分は生きている価値はないとも思っていた。けれども、唯一悟を守っているという気持ちだけが、生きて立っていられた。


『優人君は僕を庇って助けてくれたのに、僕は何もできなくてごめんなさい。何も言えなくてごめんなさい。見て見ぬふりをして過ごしていてごめんなさい』


 そんな悟の言葉に、優人はほほ笑む。そんな事、気にしなくて良かったのに、やっぱり悟は優しい。

 何もしていないなんて嘘だ。実際は、悟が先生に訴えてくれたことも知っている。そして、一度先生に注意してもらったこともあった。悟に飛び火しないように、自分が言った体にして。結局、チクっただのなんだの、先生の見えないところで更に虐めは酷くなったけれども。


 それに、悟は何度も話しかけてくれた。また自分に飛び火するかもしれないのに。あの時の自分は悟と離れるしか守れなかったけれども、けれども味方がいたというだけで、何度も救われていた。


 また、悟に会いたいな。優人はぼんやりと思う。悟も、自分と同じようにどこかに転生していないだろうか。そして、今度は幸せに暮らせていたらいい。


 そんな事を思いながら、三枚目を開いた。


「え」


 ヒュッ、っと、血の気が引くような感覚がした。何かのいたずらか、ドッキリか、けれどもこの手紙にそんなことがあるはずないことも、優人はわかっていた。


「な、に、これ」


 目に映ったのは、乱れた、けれども紛れなく悟の字で書かれた無数の同じ言葉。


『僕がいなければ、優人君は虐められなかった。僕と友達にならなかったら、僕が声なんてかけなければ、僕がいなければ。

 優人君、本当に、ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい』

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