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6.再会と隠し事

「あのね。レピオスとカーラには、ソルが目を覚ましたことをまだ言っていないの。せっかくなら驚かせたいと思って」


 待ち合わせ場所に向かう前、セレスはそう言った。普段は見ない悪戯っ子のような表情を見せたセレスに内心驚きながらも、純粋に面白そうだとソルは思った。

 ソルは本来、誰からも好かれるキャラだった。だから、もしソルが元気になった事を知れば、驚きながらも喜んでくれそうだとソルは思った。あくまで“ソル”の人生を疑似体験しているのだとしても、自分が生きているだけで喜ばれることは嬉しかった。


 待ち合わせ場所の橋までは一瞬だった。ゲームではお馴染のワープ機能のように、この世界でも生活魔法クラスでしかない転移魔法で誰でも簡単に移動できるのだ。しかもゲームでのワープは街やダンジョンなどの主要スポットに限られたが、この世界では一度訪れてさえいれば、特徴を思い浮かべることでどこにでも移動できた。

 勿論、制限はある。屋根がある場所は、たとえ半屋外でも転移魔法が発動しないし、屋根のある場所に行くこともできない。誰かが着替えている部屋に誤って転移、なんてことは残念ながら起こり得ない。


 ソルとセレスが待ち合わせ場所に着けば、そこには既にレピオスとカーラがいた。まだソルに気付いていない二人の姿に、どんな反応をするのだろうかとソルは息を潜めた。


「ようやく来ましたか。まったく、やっと連絡が取れたと思ったら、何故街ではなくこのような所に集合を……。……っ」


 セレスが来たと思って話し始めたレピオスは、こちらを見た瞬間、大きく目を見開いた。それはカーラも同じようで、けれども二人の反応は、ソルの期待と少し違った。二人とも、信じられないものを見るような目でソルを見ていた。


「セレス……! あなた、まさか……!」

「ねえ、聞いて! ソルがやっと目を覚ましたの! 二人とも、ソルのことずっと気にしていたでしょう? 見て? もうすっかり前と同じように元気なの!」


 セレスはレピオスの言葉を遮って、そう言った。レピオスの目はセレスを責めているようで、自分は歓迎されていないのだとソルは察した。

 元々、瘴気の影響による仲間同士の亀裂は乗り越えられるものとして原作でも描かれていた。もしかしたらセレスが乗り越えただけなのかもしれないと、ソルは思う。まだ取り込んだ瘴気が体内に残っているのであれば、ソルがここにいるだけでもレピオスとカーラにとっては不快なはずだった。


「あっ、えっと……。俺がここにいて不快なら、俺は他の所に行っとくから……」


 そう言ってソルは、レピオスとカーラから一歩離れる。


「あっ、いえ、そんな事は……」

「無理しなくて良いって! あっ、でも、もしかしてこんなに元気に動けるのはレピオスの回復魔法かなんかのおかげなのか? それなら、ありがとな!」


 せめてソルらしい笑顔で、ソルらしい言葉をソルは紡いだ。また気持ち悪いと罵られるかもしれない。けれどもそれは、この世界に来て作戦を決めた時に覚悟したことだった。

 けれども、いつまで待っても罵声は来なかった。不思議に思ってソルは二人の顔を見る。レピオスはまだ眉間にシワを寄せていたが、カーラは目に涙を溜めてソルに向かって駆け出した。


「ソル……? ソルなんだよね……!?」


 そう言ってカーラはソルに思いっきり飛びついた。


「えっ……? いや、俺は俺だけど……?」

「ソルだ……! ソルが生きてる……! 動いてる……! しゃべってる……! ソルに触れられる……!」


 突然のカーラからのオーバーな反応に、ソルは一瞬戸惑った。けれどもそんな戸惑いも、別の所に追いやられる。

 カーラは少年に間違えられるという設定があるだけの、あくまでも女の子だ。しかもその理由も胸が無いだけで、ソルからしてみればどっからどう見ても女の子である。胸が無い分全身が密着して、ソルは思わず硬直した。


「カーラ! ソルが困っているわ!」

「別にこういう時ぐらいいいじゃん! ソルが生きてるんだよ!?」


 ああ、もし自分がハーレム系のストーリーの主人公に転生していたらこんな気持ちだったのだろうか。そんな事を考えながらも、そういう場面ではない事も、そしてそういうゲームでは無いこともソルは理解していた。だからソルは、なんとか必死にソルらしい台詞を探す。


「心配かけて悪かったな! もう俺は元気だから、心配すんなって!」

「ほんとに!? ほんとに元気なの!?」

「ああ! ここに来る前もセレスの料理めちゃくちゃ食ったぜ!」

「そっか! ご飯食べれてるならきっと元気だね!」


 そう言って、カーラはポロポロと涙を流しながらも、ニッと笑う。けれども、それはすぐに曇り、カーラは俯いてぐりぐりとソルの胸に頭を擦り付けた。


「ボク、ずっと謝りたかったんだ。いっぱいいっぱいソルに酷いこと言ってさ。沢山ソルを傷付けた。傷付けたまま、もうごめんすら言えないまま、二度と会えないのかなって思ってた。本当に、酷いことたくさん言ってごめん」

「そんなの気にしてないって! ちょっとビックリしたけどさ! またカーラと馬鹿やれるなら嬉しいっていうか……」

「ほんとに!? ほんとに許してくれるの……!?」

「許すも何も別に怒ってないから! そんな泣くなって!」


 そう言ってソルはカーラの頭を撫でる。セレスだけでなく、カーラにも想像以上に心配をかけてしまったことを、ソルは知った。流石愛されキャラのソルだなと思いはしたが、同時にここまで泣かせてしまった事に少し申し訳なくなる。

 と、もう一つの足音がソルに近付いて来た。


「私からも言わせてください。本当に申し訳ありません。こんな言葉、自己満足でしか無いのでしょうが……」


 レピオスも、ソルを静かに抱きしめた。ハーレムの中に男が混じってしまったかと少し悲しくなったが、そんな感情も、レピオスの顔を見たらすぐにどこかへ消え去った。

 レピオスは、基本的に感情をほとんど見せないキャラだ。そんなレピオスでさえ、目を赤くして涙を滲ませ、ソルを見ていた。


「レピオスまでどうしたんだよ! ほんと俺は気にしてないって! 俺もまあ、自分勝手な所はあっただろうし、お互い様ということで……」


 ソルは明るくそう言って頭を掻く。

 ソル自身、瘴気の影響がある時に言われた事は、過剰であるにしても全く非がなかったとは思わなかった。特に無理矢理レベリングスポットに連れて行った時は、瘴気の影響が無くても怒られていただろうとは思っていた。

 ソルが思いついた自分勝手は、そのレベルのものだった。そして、お互い様ということにして、そろそろ新しい冒険を堪能したかった。


「そうですね。確かに冷静になった上で、改めてあなたに言いたい事は沢山ありますね」


 けれどもレピオスはそう言って、眼鏡をくいと持ち上げる。レピオスの顔は笑っているようで目は笑っていなかった。想像と違う反応にソルは一歩後ずさる。


「例えば、あなたが私達に隠れてコソコソとやっていた事、とかですかね?」


 その言葉に、ソルはようやく、三人が急に消えた嫌悪感に対して疑問一つ抱かずにソルに謝ってきた理由を察する。


 あれ、もしかして全部バレてる……?


 そう思った瞬間、ソルはこの場から今すぐ逃げたくなった。

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