58.信じることと見えない未来
「一度、その言葉を信じてみるのはいかがですか?」
「信じる……? 俺は別に信じていないわけじゃ……」
レピオスの言葉に、ソルは首を傾げた。どんな自分でも大好きだと言うセレスの言葉は、純粋に嬉しいと思っていた言葉なはずだった。
けれどもレピオスは、呆れたように言った。
「どう考えても信じていないでしょう。それだけ言われているのに、真実を伝えれば嫌われてしまうのではと不安に思っているのですから」
「でも、本当の俺は……」
「それでは、今こうして悩んでるあなたも、本当のあなたではないのですか? あなたは全く、本当のあなたを、誰にも、セレスにも見せていないのですか?」
「それは……」
全く見せていないわけではなかった。隠しきれなくなってしまったのだから。
何も言えないソルを見て、レピオスら小さくため息を付いて言った。
「それに、私からすれば、好きな相手にその言葉を信じて貰えない方が、悲しいと思いますがね」
レピオスの言葉に、ソルはハッとして顔を上げた。
確かに、心のどこかでは信じていなかったのかもしれない。言葉にされて、初めて気が付いた。自分も、セレスに同じ言葉を言った事がある。それなのに信じられず隠されたら、悲しかったはずだ。
セレスは、隠しきれていない情けない自分を見た上で、それでも想いを伝えてくれた。
セレスの言葉を信じよう。もしかしたら恋人にはなれないと言われるかもしれないけど、それでも一度信じよう。
「……確かにそうかも。わかった。セレスを信じて伝えてみる」
ソルがそう言えば、レピオスは少しほほ笑みながら言った。
「……なんとなくですが、私は本当のあなたとの方が、セレスとは相性が良い気がするのですけどね」
「えっ……?」
「いえ、なんでも。セレスの後で良いので、いつか私にも教えてください。私はセレス程あなたに盲目になっていないので、正直に感想は伝えると思いますがね。それでも、完全に嫌うことは無いと思いますよ。恋愛関係と違って、友達というものは一人に絞らなくて良い分、わざわざ壊す必要はありませんしね」
友情と聞いて、思い出すのは悟やトルサの事。友情だって壊れることはあることを、ソルは知っていた。
けれども、レピオスの言葉もまた信じていいのかもしれないと、ソルは思うようになっていた。
「ありがとな! また近いうちに絶対伝える」
「そう言ってもらえて嬉しい限りです」
そう言いながら、レピオスは立ち上がった。
「どこかにでかけるのか?」
「ええ、少し。暫くしたら戻りますので、くれぐれも無茶はしないようにお願いしますね」
「わ、わかった」
そうして、レピオスは部屋から出てった。それから間もなく、セレス達がいるであろう隣の扉も開き、二つの足音が廊下に消えていく音がした。
ああ、もしかしたらカーラと明日の作戦会議でもしにいったのかもしれないな。そんな事を、ぼんやりと思った。
◆
レピオスがいなくなってから、ソルは一人ベットに横になった。一人しかいないベットに、そういえば一人で眠るのは久々だとソルは思う。ここ最近はずっと、セレスが隣りに居た。
セレスは、出会って間も無い頃からソルを意識していたと言っていた。一緒に寝ていた時、セレスも意識をしていたのだろうか。意識をして、それでも手を繋いで寝ていたのだろうか。
ずっと、自分は弟のようにしか思われていないと思っていた。けれども、もし好きだからの行動だとしたら、セレスが可愛くて仕方ない。
ソルは、シレネが恋人の証だと言ったセレスから貰ったお守を外して、間近で見る。このお守りを見える所に付けたのはセレスだ。これを付ける時、セレスはどんな思いだったのだろうか。
シレネは少し引いていたが、ソルからしてみれば、我儘すら言えなかったセレスが自分にだけほ独占欲を見せてくれた気がして、いじらしくも感じた。
けれども同時に、赤の他人の恋愛を見ているような気分にもなっていた。あくまでセレスが好きなのは、“ソル”。自分ではない。信じると決めたけれども、常にその不安は付きまとっていた。
本当の事を告げたらセレスはなんて言うのだろうか。きっと優しいセレスだから、酷い事は言わないだろう。けれども、もしかしたら悲しい顔をさせるかもしれない。そう思うと、苦しくもなった。
なんとなく、まだ自分はこのお守りを付ける権利が無い気がして、ソルはお守りを自分の鞄の奥にしまった。
もし、万が一、セレスが情けない自分でも好きだと思ってくれたなら、その時にまだ付けよう。
意味を知ってしまった今、恋人になる資格なんてないかもしれないのに、堂々と付けられなかった。
ああ、それより、何て言うか考えなきゃ。ソルはそう思いながら布団を被る。
あなたの好きだと言ったソルは偽物でした。そんな事、言いたくなかった。けれどもなんて言えばいいか、いくら考えてもまとまらなかった。
ソルはじっとしていられず、思わず起き上がる。ゲームをしているならまだしも、前世で学校に行けなくなった時すら、ベッドにずっと横になって考え事をしているのは性に合わなかった。それなら、外に出てぶらぶらと歩きながら考え事をしたかった。
そういえば、優人の時も同じように外に出て、歩いていたら事故にあったのだっけ。どうしてか、そんな事を思い出す。ぼんやりと歩いていたら、車が来ていることに気付かなかったのだ。
けれども、この世界では大丈夫だろう。ソルはそう思った。このに車があるわけでもなく、街の外に出なければ魔物もいない。仮に四天王が襲って来ても、戦うことだってできる。
いや、仮に襲って来たとしたら、ちゃんと逃げよう。ソルはそう思った。きっとまた、一人で何かをしようとすれば、セレスやレピオスに怒られてしまう。
それに、少なくともレピオスは外に出ているのだ。もし逃げれなくても、魔法で合図をすれば気付いてくれるはずだ。
ソルはそんな事を思いながら、外に出た。




