57.性格と相性
ソルがセレスから自分の事を好きな理由を聞いた瞬間、嬉しさよりも恐怖の方が勝ってしまった。セレスが好きといった理由は、全てソルを演じていた時の話だった。だから、情けない方が本当の自分だと知られてしまえば、やっぱり好きじゃないと言われてしまいそうで怖かった。
けれども、ソルを演じ続ける事も、もう難しかった。ストーリーから大きくズレた今、原作の台詞も何もない状態で、演じきれなくなっていることを自分でもわかっていた。セレスを助けられた理由も、ただ設定を知っていたからだ。本当の自分は、トルサの苦しみすら気付けなかった人間なのだ。
願うなら、セレスとの関係を失いたくなかった。優しくて温かくて心地よくて、好きだけど、壊れるぐらいなら恋人になんかなりたくないとすら思ってしまう。そして自分と恋人になったせいでセレスの幸せを壊してしまうなら、もっとセレスを幸せにしてくれる人と結ばれて欲しいとまで思う。
けれども、セレスは“ソル”を好きになってしまった。そしてそれを、伝えてくれた。もう戻れない所まで来てしまった。
「どんなソルでも大好きよ」
隠している事を全て伝えると言った時、セレスはそう言ってくれた。これまで、何度も言ってくれた言葉だった。
その言葉に、少しだけ期待してしまう自分がいた。本当は受け入れてくれるのではないだろうかと。けれども、そう思う度に、自分の中に優人の頃の別の自分が現れ、叱りつけるのだ。そんなわけないだろうと。おまえは好かれる人間ではないだろうと。
セレスとは、そのまま宿まで無言で一緒に歩いて、そして別れた。宿の部屋は二人用で、流石に着替えのことも考えると男女で別れることになっていた。
そういえば、セレスと離れて眠るのは久々だな。そんな事を思いながら扉を開けると、部屋の中にいたレピオスと目が合った。
「……何か、ありましたか?」
変な顔をしていたのだろうかと、ソルは思わず顔に触れる。本当は、一人で考えたい気分だった。けれども、きっと隠し通せないだろうと、ソルはベッドに座り口を開いた。
「……さっき、セレスに告白された」
「……なるほど、惚気でしたか。それはおめでとうございます」
「違う。まだ、恋人同士じゃない」
ソルがそう言えば、レピオスは驚いた顔をしてソルを見た。
「私の姉と話していたことを思い出す限り、あなたはセレスの事を好きだと認識していましたが」
「……好きなのは、間違いない。告白されて、めちゃくちゃ嬉しかった。だけど……」
口に出せば、やっぱりソルとしてではなく、本当の自分がセレスの事を好きなのだと実感する。けれども、本当の自分が好きだと実感すればするほど、どうしても不安になる。じぶんでは、駄目なのだと。
「……なあ、レピオス。レピオスにとって、俺はどんなやつ?」
「……どういう観点ででしょうか」
「性格……、的なやつ……」
ソルがそう言えば、レピオスは少し考え込んだ後、小さくため息をついて言った。
「馬鹿です」
「えっ……」
「赤の他人のために命をかけるという馬鹿げたことをするお人好しです」
予想外の言葉に、ソルは少し動揺する。まさか、真面目な顔で馬鹿と言われるとは思わなかった。
「い、いや、待って! 正気の事なら、別に皆は赤の他人じゃないし! 仲間なら……」
「出会った時は、初めて顔を合わせた赤の他人のはずですが?」
レピオスは、呆れながらソルを見た。
「それに、半分は褒めているつもりですよ。私も流石に、たとえ仲間であったとしても、あなたのようにはできませんから。勿論やりすぎの所もあると思いますが、まっすぐ人のために動ける所に救われた人がいるのも事実でしょうね」
ああ、ソルの設定とは違うなと、ソルはぼんやりと思う。ソルは明るくて、ムードメーカー的な存在だったはずだ。けれども、ソルを演じてきたつもりだったけれども、レピオスから見た自分はそうでもなかったのだろうか。
そんな事を思っていると、レピオスはソルの顔をじっと見ながら言った。
「あなたが迷っている理由は、あなたが隠している事に関係しているのですか?」
「まっ、まあ……」
言い当てられて、ソルは少し恥ずかしくなる。そんなソルを見ながら、レピオスは再び口を開いた。
「ちなみに、その隠し事とは、実は浮気性とか、ギャンブルが好きとか、人に危害を加えるようなよろしくない趣味があるとか?」
「そ、それはない! ただ、自分はセレスの思うような人間ではないというか……」
そう言えば、レピオスはまた少し考えた後、口を開いた。
「それは、あなたではなくセレスが決める事ではないでしょうか。私も、ラーレには散々業務連絡でつまらないと言われたメッセージも、先日想いを伝えてくれた方からは、何故かこちらの様子がわかって面白いと、質問責めにあっていたところです。ようは相性かもしれませんね」
「相性……」
「はい。もしかしたら過去に何かあったのかもしれませんが、案外自分が気にしている事を、別の相手は深く気にしないかもしれませんよ。寧ろ自覚が無い方が怖いです。自分を犠牲にしたせいで周囲が悲しむ事を理解していない事とか」
そう言ってレピオスはギロリとソルを睨む。その時ようやくソルは、レピオスの言葉に定期的に棘が含まれていることに気が付いた。
「もうしないって!」
「そういいつつ、何度も危険な目にあっていますよね? 特にトルサさんの時は……」
「あ、あれはカーラにちゃんと言ってから出ていって……」
「そもそもメッセージが来た時点で相談してくれれば良かったはずです」
「そ、それは……」
それはレピオスの言う通りで間違いなくて、考えるよりまず体が動いてしまった事は事実だった。レピオスから見れば、考えなしの馬鹿に見えただろう。
こうして、また迷惑をかける。優人の頃から変わっていないと、ソルはぼんやりと思った。
ふと思う。以前のレピオスは、自分が危険な目にあったことに悲しんでくれた。けれども、これだけ迷惑をかけて、まだ悲しんでくれるのだろうか。夢の中で両親が言った、優人が死んでホッとしたという言葉が蘇る。
「……なあ、レピオス。レピオスは、今の俺でも危険な目にあったり、死んだりしても、悲しい?」
ソルがそう言うと、レピオスはギョッとした目でソルを見た。
「当たり前ですが……」
「あはは。そうか。……ありがとな」
レピオスの言葉にホッとしながらも、レピオスは優しいから、流石に本人に向かっては言わないかとソルは思う。そんなソルを見て、レピオスは再び小さくため息をついた。
「……何があなたをそこまで不安にさせているのかわかりませんが、少なくともセレスはどんなあなたでも好きだといつも言っていますよね。一度、その言葉を信じてみるのはいかがですか?」




