51.違和感と不安
それから再び、ソル達はディーネンに向かうために転移魔法を使い始めた。行きたい場合を思い浮かべながら、体全体に魔力を流す。特に魔力の扱いに長けているソルにとっては、難しくも何ともないこと、の、はずだった。
「……あれ?」
どうしてか、何かに切断されるように魔力が上手く体に流せなかった。と、ソルの肩に誰かの手が触れる。
「ソル……? どうしたの……?」
その声はセレスか。そう思った瞬間、ソルの体はディーネンに転移していた。不思議に思いながら、ソルは自分の体を見る。
そうしていると、今度はカーラが心配そうにソルの体を覗き込んだ。
「おーい、ソルー? 大丈夫?」
「えっ!? あっ、ああ! 何か魔力の調子が悪いなって!」
「……一度見ましょうか?」
レピオスも、心配そうにソルを見た。ソルも念のため、自分の手から魔法で炎を出す。けれども今回は、問題無く炎が手から現れた。
「いや、ごめん。気のせいかも。問題無さそう」
「そうですか。何かあったら言ってください」
「ああ、ありがとな!」
ソルがそう言った瞬間、レピオスはチラリとソルの腕を見た。
「……そのような腕輪、付けていましたっけ?」
「えっ? ああ、セレスから貰ったんだ! プレゼントしたらそのお礼だって! セレスって律儀だよな!」
本当は、きっと違う。けれども、そういう体で貰っている事にはなっている。そしてセレスも何かを不安に思って言っているなら、自分もそういう体で伝えるべきだろうとソルは思った。
けれども、どうしてかレピオスは顔をしかめた。
「レピオス……?」
「……いえ。なんでもありません。……何かあったらいつでも私に伝えてください」
「……? わかった」
ソルがそう言えば、レピオスはくるりとソルに背を向けた。
その後ろで、カーラがセレスを見る。
「いいなー、プレゼント交換! ボクもしたい!」
「ふふっ。それならプレゼント交換する? 何がいいかしら……」
「はいはーい! 何か強くなる石がいい!」
そう言ったカーラに、セレスは吹き出す。
「ふふっ。装飾品ね。いいわ。私もカーラにオススメ選んでもらおうかしら」
「勿論! あっ、でも剣士で使わないのあったら教えてね! ボクそーゆーの苦手だから!」
そんなやり取りを、ソルは微笑ましく眺めた。結局カーラはアクセサリーよりも戦闘に関わるものが好きなのだろう。それがカーラらしくて、ソルはなんだか癒やされた。
その隣で、セレスは笑いながらも自分の屋敷の方を見ていた。その目は、不安そうに揺れていた。
そんなセレスを見て、ソルはセレスの手を取った。
「……大丈夫か? 別に皆に言えば野宿でもいいと思うぜ。家に必ず行かなきゃ行けないってことはないと思うし」
ソルがセレスにだけ聞こえるように言えば、セレスは一瞬驚いたような顔をしてソルを見た。そして不安な顔は、少し安心した顔に変わった。
「……そうね。私の家の問題に、皆を巻き込むわけにもいかないし。……ねえ、皆……」
「お姉様……!」
と、一つの声がセレスを呼んだ。声の方を向けば、セレスと同じ金髪の髪を持つ、セレスよりは少し若い女性がセレスの方に駆け寄ってきた。
「……シレネ。どうしてここが……」
「街の見回りの者が教えてくれましたわ! 急に連絡も取れなくなってしまいましたし、家族皆で心配していましたのよ?」
「そう……」
セレスはそう言いながら、諦めたようにソルに笑いかけた。確かに、この状態で行かないという選択肢は取れないだろう。
シレネは、原作でも名前が出てきていた、セレスより二つ下の妹だ。顔は似ているが、ウェーブがかった髪は下ろしていて、高級そうなワンピースを着ている姿は如何にも貴族らしかった。
そんなシレネは、原作通りの様子でセレスに接していた。他の人の時のような違和感はない。それにソルは安心しながらも、セレスはまだ浮かない顔をしていて心配になった。
「……あら? そちらの方は?」
と、シレネはソルの方を見た。そういえば自分とは初対面かとソルは思う。レピオスの時と同じように、ディーネンに来た時もなるべくセレス達から離れていた。
「ソルよ。前来た時、一人来れないと言っていたでしょう?」
「そういえばそのような話をしてましたわね。でも、そうですの。彼が……」
と、シレネはソルの腰の方をじっと見た後、どうしてか品定めするように、ソルを頭から足先まで眺めた。
「シレネ……!」
「わかりましたわ。今度しっかり紹介してくださいませね。とりあえずお父様達にも声をかけてまいりますわ。皆様、お待ちしております」
そう言って、シレネは転移魔法でどこかへ消えていった。恐らく、自分の家に向かったのだろう。
そんなシレネを見て、セレスはため息を付く。そしてまた諦めたように笑って三人を見た。
「行きましょうか。ソルは私の家は始めてだし、私達は歩いていきましょう。……もしこの後見苦しいものを見せることになったらごめんなさい」
そう言ってセレスは、歩き始めた。そんなセレスの背中が不安で、ソルはセレスを追いかけて、ぎゅっと手を握った。そうすればセレスは少し安心したように笑って、ソルも少し嬉しくなった。




