50.憧れと不快
「ほんの少しだけ、お時間を貰えませんか?」
そう言った女性の言葉に、レピオスは怪訝そうな顔をその女性に向けた。
「えっと、申し訳ないのですが私はあなたの事を知らないのですが……」
「えっ、あっ、そうですよね……! ごめんなさい……」
「……少しだけなら問題無いかと思いますが。仲間に確認して来てもかまいませんか?」
「はい……! ありがとうございます!」
まだレピオスは怪訝そうな顔をしていたが、女性の様子を見てソルはもしやと思う。案の定カーラはわかっていなかったが、セレスも何かを察した顔をしていた。
「えっと、少し待ってもらっても……」
「絶対に行ってこい! 時間は全然大丈夫だから! 皆もそうだろ!?」
ソルの言葉に、セレスとカーラも頷く。それを見て、レピオスは首を傾げながらも女性の方に付いて行った。
とはいえ、状況が気になる事は間違いなかった。ソルはこっそり二人の後を付いていき、建物の陰に隠れて覗く。隣で一緒に覗いていたカーラが、目をキラキラさせて言った。
「ねっ、ねっ! あれってもしかして、告白ってやつ!?」
「カーラ、声落として! ……でも、告白だろうなあ。いいなあ、レピオスは。恋人と別れてもすぐ告白されるとか、羨ましすぎるって」
勿論友達としては、新しい恋の可能性に喜ぶべきことだろうとソルは思う。けれども、生まれてこのかた恋人もおらず、勿論告白すらされたこともない自分にとっては、少し悔しくもあった。
その隣で、セレスは少し怪訝そうな顔でソルを見る。
「羨ましいかしら……。元々親しいとかならまだ分かるけれども、なんだかこの機会を狙っていたようで気持ち悪いわ……。しかも、知らない人なのでしょう?」
「えっ、でも、純粋に誰からでも好意を向けられるって嬉しくないか? しかも勇気を出して告白されるなんて、テンション上がるだろ!」
「知らない人からの好意なんて、気持ち悪いだけよ。……ねえ、ソルも知らない人からの告白って嬉しいの?」
セレスの言葉に、ソルは焦る。勿論知らない人でも告白されれば嬉しいことには間違いなかったが、告白されたら誰でも付き合うような軽い男とは見られたくなかった。
「えっ、えっと……。勿論付き合うかどうかは別問題であって……。そりゃ告白されたら嬉しいけど、最初は友達からってのもあるだろし! やっぱ恋人になるならお互いの事をちゃんと知ってからの方が良いと思うし!」
「で、でも……! ソルはその時に好きな人がいても、お友達になって良い感じになったら付き合っちゃうの……?」
「えっ!? あっ、いや……、えっと……」
セレスの質問に、ソルの思考は停止する。確かに状況によってはそういうこともある気がするが、だからといってセレスにだけは不誠実だと思われたくなかった。
「あほっ、ほら! とりあえずあんな風に呼び出されてまっすぐ告白ってのが憧れってだけ! それだけの話だって! セレスだって、理想の告白とかあるだろ!?」
「まあ……、そうだけど……」
まだ不服そうなセレスに、ソルはセレスが何を気にしているのかわからず泣きそうになる。セレスにだけは嫌われたくなかった。些細な一言で信頼が壊れるなんて、絶対に嫌だった。
そんな事を思っていると、カーラがどうしてか慌てた顔をした。もしやと思って振り返ると、そこにはレピオスが立っていた。
「何をしているのですか?」
「あっ、えっと……」
「……今回は、完全に意思を持って聞いていましたよね? 偶然ではなく」
レピオスの圧のある笑顔に、全員一歩後ずさる。そんな三人を見て、レピオスは大きくため息をついた。
「……話の内容は皆さんの想像通りですよ。ただ、私も向こうの事を全く知らないので、友達からということにしました。メッセージもそこまで楽しく会話できる方ではないと伝えたのですが、それでも良いとのことだったので。……これで満足ですか?」
「あっ、ああ……。……ごめん」
ソルがそう言えば、レピオスは再びため息をついて、そして再びメッセージを送るための魔道具を見つめた。レピオスはソルの想像とは異なり、嬉しそうではなく、少し複雑そうな顔をしていた。
その隣で、セレスがレピオスをチラリと見た後、再び怪訝そうな顔をしてソルを見た。その瞬間、本当にやらかしてしまったのではないかとソルは再び不安になる。
それと同時に、そりゃ恋人がいた経験のあるレピオスだから余裕があるんだよとソルは叫びたくなった。非モテの人生を歩んできた者にとっては、告白自体貴重な経験なのだ。
けれども今からだと何を言っても墓穴を掘りそうで、ソルはこれ以上余計な事は言うまいと心に決めた。
そんなソルを見ながら、セレスはどうすべきかと考えを巡らせていた。あの告白を羨ましいと言ったソルに対して、セレスは危機感を覚えていた。
「……ソルってあんな風に告白されるのが好きなのかしら。それとも告白自体が嬉しい……? 私の事を必要に感じて、私無しでは生きていけないようになればと思っていたけれど……」
そもそも、女性から告白すればすぐに飽きられてしまうということも聞いたことがあった。だからこそ、必死にソルにアピールをして、好きになってもらえるよう努力をしてきたつもりだった。
「……そもそも、ソルはもう私の事を好きなのよね? でも、もし他の人がソルに告白したら、そっちに気持ちがいっちゃうこともあるってこと……? そんなの嫌……。絶対嫌よ……。せっかくソルの気持ちがわかったのに……」
呼び出してまっすぐ告白。それがソルの理想の告白。セレスはそう心の中で呟きながら、決心したようにソルを見つめた。




