49.相反する気持ちと予想外
それから、レピオスはソルの隣の地べたに座り込み、大きく息を吐いて空を見た。
「ラーレとの件、これで良かったんですよね。これで」
レピオスの言葉に、何か言うべきかとソルが思った時だった。レピオスが眉間にシワを寄せながら口を開いた。
「そもそもですよ! ソルは全て聞いていたので把握していると思いますが、メッセージの件といい、会う頻度といい、私と彼女では価値観が違いすぎたのですよ! それならば、これからの事を考えてもうまく行かないことは目に見えていたのですから、無理に付き合い続ける方がお互いの将来において無駄だと思いませんか!?」
「えっ、まっ、まあ……」
「そもそも寂しいからと、私に何も言わず別の人の所に行くなど……。姉さんは私がラーレに何も伝えてないと言っていましたが、ラーレだって自分の想いを私に少しも伝えて無かったじゃないですか! 挙げ句の果てに、私の気持ちを伝えれば私の方が好きだのなんだの、そんなの私にも相手にも不誠実です!」
「そ、それは俺もそう思う……」
レピオスってこんなキャラだったっけ。そう思いはしたけれども、そういえば瘴気の影響がある時も、セレスよりもレピオスの方がイライラした感情を自分にぶつけていたっけとソルはぼんやりと思う。
とりあえず答えは出ているのだし、ただ聞いてイライラを発散してもらえば良いだろうか。そう思った時だった。レピオスは小さくため息をついて俯いた。
「もし私が……、最初からちゃんと想いを伝えていたら、何か変わっていたのですかね」
「でも、それとレピオスがラーレさんと別れようと思った原因は別だろ? 流石に許せることじゃないと思うし……」
「そう……、ですよね……」
そう言いながらも、レピオスはまだ少し飲み込めていないかのように、遠くを見た。そして、小さくため息をついた後、口を開いた。
「ちゃんと、好きだったんですよ。まっすぐ感情を出してくれることも、些細な事で笑ったり泣いたりする姿も、私には無いものばかりで、可愛いとも思っていました。それだけは……、間違いなかったのですけれどね……。どれだけ考えても、もう疑心暗鬼が先行して心から愛することはできない。悲しい話ですよね」
その言葉に、ソルは何も言えなかった。きっと、レピオスは何も言葉を求めていない。それだけはわかっていた。
ただ、どうしても自分に置き換えてしまう。セレスは自分に、どんなソルでも大好きだと言ってくれた。そして自分も、どんなセレスでも大好きだと言った。
勿論、セレスの好きと自分の好きが同じ意味かなんて、全くわからない。けれども、どんな好きであれ一緒にいたいと思ってくれていることは事実だ。けれども、それが簡単に壊れてしまう瞬間を、今見てしまった。
「……俺も気を付けないとな。一つ許されない事をしたら、どれだけ信頼関係があっても関係は壊れてしまうって」
「……あなたが傷つけられる事もあるのですよ」
「そうなのかな。あんまイメージできないけど。寧ろ俺がやらかしそうで怖い」
少なくとも、セレスやレピオス、カーラはそんな事をしない。ソルはそんな気がしていた。自分が傷つけてしまう事はあっても、三人とも優しくて、誠実で、そんなイメージなどできなかった。
「私も……、ラーレに対して、同じように思っていましたよ」
「あはは。確かにそっか」
そう言われても、結局はイメージができないまま、ソルは他人事のように笑った。いくら考えても、セレス達に傷つけられる事は想像できなかった。
そんなソルを見て、レピオスは小さくため息をつく。そして、ゆっくり立ち上がった。
「そろそろ帰りましょう。聞いてもらってスッキリしました。ありがとうございます」
「俺は何もしてないけどな」
「いえ、そんなことありませんよ。少しスッキリしたのは間違いないのですから」
そう言いながら、レピオスはソルをじっと見つめた。
「……あなたが隠している事、私としては別に無理に聞こうとは思いません。聞こうとすれば、いつもあなたは辛そうな顔をしていますから。……でも、これに限らず、何か相談があればいつでも聞きますよ。勿論、セレスやカーラも」
その言葉に、ソルは思わず自分の顔を触る。そんな顔をしていたなんて、知らなかった。だから以前も、無理に聞こうとしなかったのだろう。その上で、きっとレピオスはソルが相談しやすいように、まずはレピオスの事を相談してくれたのだろうと思う。
まだ怖かった。全部話して、そしてどう思われるのか。けれども、そろそろ決心しないと。そんな事をソルは思っていた。
◆
それから一晩が明け、ソル達はディーネンに向かうためレピオスの家を出た。ソルはエルヴに相談にのってもらったお礼を言おうと声をかけたが、どうしてか前のような絡みはなく、あっさりと良かったねとだけ言われた。
ラーレの事をエルヴが知っているのかどうかはわからない。けれども、何かを聞かれることも無かった。
そして、転移魔法を使うために屋根の無い所に出たその時だった。
「あの、レピオスさん……!」
知らない女性が、レピオスの名前を呼んだ。
「突然ごめんなさい……! ほんの少しだけ、お時間を貰えませんか?」
その女性は、顔を真っ赤にしてレピオスを見つめていた。




