48.誠実と不誠実
他人同士、そう言った瞬間、ラーレは大きく目を見開いた。
「待って! レオは私の事好きなんだよね!? なのになんで他人同士なの!?」
「……は? いや、あなたこそ私に愛想を尽かして他の人の所に行ったのでは?」
「違うの……! それは寂しかったから……! レオの想いがわかったから、私もまたレオと……」
「それは私が無理です」
ラーレの言葉に、レピオスはキッパリと言い放った。
「な、なんで……」
「私ではあなたの事を幸せにできなかった。だからあなたは他に好きな人ができた。それならば潔く見を引くのもあなたのためだと思っていました。でも、寂しかったから他の男と親しくした。けれども私との関係も変わりたくない。そんなの、彼にも私にも不誠実でしょう」
「え、あ、そ、それならちゃんと縁を切るから! 私が一番好きなのはレオなの! だからお願い、別れるなんて言わないで……」
そう言って縋るように手を伸ばしたラーレを、レピオスは振り払う。
「ラーレ、あなたの事は本当に……、愛していました。あなたのお願いなら、なんでも叶えたいと思う程に。けれども、限度というものがあるのですよ。あなたはそれを超えた。私にだって、どうしても許せない事はあるのです」
「あ、ま、待って……。もっとちゃんと話をしよう……? 私達、まだ好き同士なんだよね……? だったら話し合えば……」
「私はもう、あなたの事は好きではありません。そして、好きになることはありません。それだけです」
そう言ってレピオスはラーレの前から去っていった。泣き叫ぶラーレを、レピオスは振り返る事もしなかった。
そんなレピオスの姿を、複雑な気持ちでソルは見ていた。ずっと、瘴気の影響が無ければ皆大切な人と幸せになれるのだと思っていた。けれども、そんな単純な話ではなかった。そして今、ソルはレピオスが本心を伝えられた上で別れられた事にホッとしていた。
その上で改めて思う。ハッピーエンドとは何なのだろうか。自分の望んでいた世界とは、何だったのだろうか。そして、謎の声に言われたハッピーエンドとは、なんだったのだろうか。
そんな事を考えていたら、レピオスがこちらに来ている事を気付くのに遅れてしまった。気付いた時には、レピオスは目の前にいた。
「……聞いて、いたのですか」
「あっ、いや、ちょっとセレスと話していたらたまたま……。……ほんとごめん」
ソルがそう言えば、レピオスは小さくため息を付きながらそう言った。
「……大丈夫です。どうせ話すつもりでしたから」
そう言いながらも、レピオスは隣にいるセレスをチラリと見た。セレスもまた、何かを考えるように俯いていた。
「セレス……?」
ソルは先程の事もあり、セレスの顔を覗き混んだ。セレスはやはり、様子がおかしかった。
「大丈夫か……?」
「……今はレピオスの話を聞いてあげて。こういう話は男性だけの方が話しやすいでしょう? 私は一旦離れるわ」
「で、でも……」
確かにレピオスの話も聞いてあげたかった。けれども、セレスをこのまま一人にして良いのかもわからなかった。
そんなソルの顔を見てか、セレスは優しくソルに笑いかけ、ソルにだけしか聞こえない声で言った。
「大丈夫よ。私はどこにも行かないから。だから後で、私の話を聞いて」
そう言いながらも、自分の服の裾を縋るようにギュッと握るセレスを見て、ソルは自分にどこにも行って欲しくないと言ったセレスの言葉を思い出す。
ああもし、セレスもまた心からそう思ってくれているのだとしたら。
「セレス。俺もどこにも行かないから、また後で話そう」
ソルがセレスにだけ聞こえるようにそう言えば、セレスは嬉しそうに、けれどもまだ少し不安そうに微笑んだ。
今まで、こんなことは無かった。ずっと自分は疎まれていると思っていたから、優人の部分を見せたのに、まだ傍にいることを喜んで貰えるとは思わなかった。
そうしてセレスが去っていく様子を、レピオスは怪訝そうに見つめていた。
「……何かあったのですか?」
「え? あっ、ほら! ディーネンの話の時、ちょっとセレスの様子おかしかっただろ? だからちょっと話聞いてたって感じ!」
「言われてみれば。……すいません。自分の事に精一杯で気付けていなかったようです」
レピオスの言葉に、ソルはふと思う。レピオスはどうなのだろうか。優人の部分を見せても、まだ一緒にいたいと思ってくれるのだろうか。
「……なあ、話、聞こうか? 俺も……、レピオスの気持ちが落ち着いたら、また今度俺のことも話すから」
ソルがそう言えば、レピオスはフッと笑った。
「……姉さんとの話は、本当にソルにとって良かったようですねえ」
「えっ……?」
「いえ、私も嬉しいですよ。あなたが心を開いてくれようとしてくれて」
その言葉に、ソルはまた嬉しくなる。どうして皆、自分に心を開いて欲しいと望むのだろうか。
それは自分がソルだから。優人ではないから。少し前の自分が頭の中で反論を始める。けれども、それにしては、もうレピオスにも優人の部分を沢山見せていた。
本当は、なんでと聞きたかった。けれども、今聞くべきではないという事もわかっていた。
セレスの言う通り、役に立つことだけが全てではないのだろう。けれども、これだけ優しさをくれる皆の役に、少しでも立ちたかった。今は自分よりレピオスの事が優先だ。
「確かに、俺も皆に心開いて貰えるの嬉しいかも! とりあえず今は俺のことは気にせず、好きなだけ話してくれ! レピオスの気が済むまで愚痴でもなんでも付き合うから!」
ソルらしく明るく、ソルらしい台詞で。そう思いながらも、実際はソルにそんな台詞はなく、その言葉の根拠は優人の心にあった。
ハッピーエンドが何かはわからない。けれどもせめて、こんな自分にも優しさをくれた皆を、本当の意味で幸せにしたいとソルは思った。




