47.わからなかった気持ちと二人の関係
出発は一日待って欲しい。そう言ったレピオスの言葉に、三人とも頷いた。恐らくレピオスはラーレと話すのだろうとソルは思った。トルサの件があったから、レピオスはまだラーレと話せていなかった。
そしてもう一つ、気になる事があった。ディーネンに行くという話をしてから、セレスは何か難しい顔をして考え込んでいるようにも見えた。
今のセレスに、笑顔は無かった。
「セレス。大丈夫か……?」
ソルはセレスに、そう尋ねた。セレスがソルに優しい言葉を沢山かけてくれたように、ソルにも何かできることがあればしてあげたかった。
「だいじょう……、って言うのが良くないのかしら」
そう言って、セレスは深く深呼吸した。
「……少し、外に出て話してもいいかしら」
セレスの言葉に、ソルも頷いた。
外に出てからも、セレスは暫く話さなかった。そうして少し時間が経った頃、セレスは静かに口を開いた。
「……ねえ、ソル。ソルは、私の事、どんな風に見えてる? ……性格の話よ」
「えっ? ええっと……。優しくて真面目で、頑張り屋で正義感が強くて……。そんな感じ?」
セレスの質問の意図が読めないまま、ソルは思ったまま答える。そんなソルに、セレスはふふっと笑った。けれどもすぐに、目を伏せた。
「もし本当の私が、もっと冷たい人間だったらどうする? ……例えば、家族を見捨てるような」
その言葉に、ソルはハッとしてセレスを見た。セレスは先程、家には泊まれないかもしれないと言っていた。けれども『リアンズ』では、瘴気の影響がある前は仲良し家族なはずだった。
今までのことを考えると、瘴気が無くてもそれぞれ何かしらの理由で前とは関係が変わっていた。だからセレスと家族の間でも、何かあるということは容易に想像がついた。
「……何か、理由があるんだろ? 見捨てなきゃいけなかった」
「……そう、だと信じたいわ」
そう言って、セレスはソルから目を逸らす。
何があったのか、ソルには想像もつかなかった。けれども、セレスは何の理由もなく家族を見捨てるなんていうことをする人間ではない事を、ソルは知っていた。
自分の醜い部分を知られる恐怖は、ソル自身わかっていた。ソル自身、まだ全てを見せていない。けれども、それを受け入れてくれる温かさを、ソルは知ったばかりだった。
「セレス。セレスだって、どんな俺でも大好きだって言ってくれただろ? 俺だって、どんなセレスでも大好きだから。絶対セレスの味方だから」
ソルがそう言えば、セレスは勢いよくソルに抱きついた。
「……ごめんなさい。やっぱりあなたにだけは、どこにも行ってほしくない」
その瞬間、カチリと何かの音がした。腕を見れば、男性用のデザインがされた金の腕輪がソルの腕に付いていた。
「これ……」
「……さっきのプレゼントのお返し、って、思ってくれないかしら」
それだけじゃない、ということは、ソルもわかった。ただ、どういう意味なのかは検討も付かなかった。
「お願い。私がいいって言うまで外さないで」
「わ、わかった」
必死なセレスに、ソルは頷くしかなかった。そうでなくても、セレスのお願いなら聞いてあげたかった。金の腕輪を付けるぐらい、別に大したことなどなかった。
「……ありがとう」
そう言ってセレスは体を離した。けれどもその体はまだ不安で震えていて、ソルは心配になる。けれども、なんて声をかけたら良いのかはわからなかった。
「……戻りましょ。明日の支度をしなくっちゃ」
セレスの言葉にソルも頷いた、その時だった。
「レオ、話って何?」
聞こえた言葉に、ソルもセレスも固まった。そして現れたレピオスとラーレに、ソルとセレスは慌てて物陰に隠れた。
今出ていけば、気まずい感じになりかねない。そう思うと、出て行くに出て行けなかった。
そんな中、いつもより低いレピオスの声が響いた。
「その前に、あなたから私に何か言うはありませんか?」
「えっ……? 魔王討伐お疲れ様、とか……?」
ラーレの言葉に、レピオスは大きくため息をつく。
「……とある男性と仲睦まじく歩いている姿を見ました。まるで恋人のように、腕も組んでいましたよね」
「えっ!? あっ、いや、それはもしかしたらたまたま……」
「私の姉も何度も目撃しているようですので、偶然ではないでしょう。隠すつもりも無かったのでは?」
そう言ったレピオスの表情は、ソルからはわからない。ただ、ソルの隠れた場所からラーレの顔だけはハッキリ見えた。
ラーレは、何故か泣きそうな顔をしていた。
「だ、だって、寂しかったんだもん! レオが悪いんだよ!? 全然会いに来てくれなかったんだから!」
「仕方ないじゃないですか。私は……」
「転移魔法があるんだから、一瞬でも帰って来れたじゃん! なのに、業務連絡みたいなメッセージばかりで、どうせ私の事好きじゃなかったんでしょ!」
その言葉に、レピオスは少しの間の後ゆっくりと口を開いた。
「……私は、瘴気の影響で街がおかしくなっていく様子にあなたがあまりにも泣くから、あなたを笑顔にしたくて魔王の討伐の旅に行くことに決めました。メッセージも……、業務連絡と感じさせてしまったのであれば申し訳ないのですが、あなたが私の状況を知りたいって言うので、毎日欠かさずに送っていたつもりです」
「私が言ったからって……。レオは私と離れて寂しいとか思わなかったの!? 寂しいから会いたいって気持ちは無かったの!? どうせ私の事が本当は好きじゃなかったんでしょ!?」
「……好きだから、あなたの希望を叶えてあげたいと思っていた、それだけです。好きじゃない相手に、ここまでしませんよ……」
レピオスがそう言った瞬間、ラーレはポロポロと涙を流し始めた。
「……せめて、最初から私にそう言ってくれたら良かったのに。レオの気持ちなんて、わかんなかった……。私の事なんて、好きじゃないと思ってた……」
「それに関しては、私も反省しています。行動だけでなく、自分の想いをあなたに言わなければ伝わらなかったなと」
レピオスの言葉に、ラーレは涙を吹いて、そしてレピオスに手を伸ばそうと一歩踏み出した。けれどもレピオスは、ラーレから目を逸らす。
「……あなたはもう私との関係は終わっていると思っているでしょうが、改めてハッキリさせましょう。これからは、あなたと私は他人同士。これで良いですよね?」
「えっ……」
レピオスの言葉に、ラーレは目を見開いた。




