42.友達の幸せと誰のせい
レピオスとセレスが話している頃、ソルはベッドに入ったまま眠ってしまっていた。そしてソルが目を覚ましたのは、もう真夜中になってからだった。
布団の中には昨日と同じようにセレスがいて、ソルはセレスに背を向けて眠っていたからか、セレスはソルの背中の服を掴んで眠っていた。
セレスの事が、わからなかった。エルヴとの話は、聞こえていたのだろうか。聞こえていたのだとしたら、好意を寄せられている男の布団に潜り込む事に対しては、何にも思わないのだろうか。
いや、本当は聞こえていなかったのかもしれない。けれども、それならば、どうしてあの時は自分を避けるような行動をしたのだろうか。
自分に都合の良い妄想と都合の悪い妄想が交互に駆け巡る。自分に都合の良い想像をした後に、あんなに情けない自分を好きになるはずがないと、別の自分がソルを叱る。
そうしてそのまま眠れずに時間が経った。隣のベッドでカーラが起きる音がして、ああ朝が来たのかと、ソルも起きようとする。
「あれ? 珍しく早いね」
「あはは。昨日早く寝すぎちゃったからな」
「しんどいのはもう大丈夫?」
「ああ! 寝たらスッキリした!」
本当はまだモヤモヤとしているが、いつまでもこんな姿を見せ続けるわけにはいかなかった。昨日の話で、優人の部分を見せても受け入れてくれるような期待は心の中にまだあるが、散々隠してきた中、じゃあもういいかとあっさり見せる勇気はまだ無かった。
カーラは、きっと朝の特訓をするのだろう。カーラは、いつも早朝誰よりも早く起きて、技の特訓をしていた。
どうせなら、自分も一緒に特訓でもするか。そう思った時だった。
「そういえば、無事トルサ君も目を覚ましたって! 昨日ソルが寝てたから伝えられなかったんだけどさ!」
「ほんとか!?」
カーラの言葉に、ソルの心はパッと明るくなる。大丈夫だとは聞いていたし、無事な姿で眠っている様子は一度見ていた。けれども、やはり目を覚ましたと聞けたのは嬉しかった。
それからすぐに、同じく起きていたエルヴから、もうトルサも起きている事を聞き、ソルはまっすぐトルサの元に向かった。トルサのいる部屋を開けた時、トルサは一瞬驚いた顔をした後、笑顔を見せて、けれどもどうしてかソルから目を逸らした。
「トルサ……?」
「えっと、あの……、助けに来てくれて、ありがと。迷惑かけて……、ごめん」
その言葉に、ソルは自分が人質になってしまった事を申し訳なく思ってるのだと、ソルは察した。
「何言ってんだよ! 俺達友達だろ! というか、寧ろ勘違い? で俺を呼び出すためだったらしくて、寧ろトルサの方が巻き込まれたというか……」
「いや、でも……」
「それより、体の調子はどうなんだ? まだ痛むところとかないか?」
そう尋ねたソルに、トルサは困ったような顔で笑う。
「うん。回復魔法って、凄いね。ちゃんと元通りだよ」
「そっか、それなら良かった! いつ帰るんだ? 久々? っていっても、そんな経ってないか! でも、色々また冒険の話が増えたんだ!」
ソルの言葉に、トルサはどうしてか俯いた。
「トルサ……?」
「……ねえ、ソル君。今、幸せ?」
トルサの言葉の意図が、ソルにはわからなかった。ただ、トルサに問われた質問を、純粋に考える。
確かに、色々と苦しいことはあった。今だって、色んなことに悩んでいる。けれども、幸せかどうかと聞かれたら、きっと幸せなのだろう。前世よりもずっと、優しくて素敵な世界にいるのだから。だから前世よりも、未来に希望があった。
「ああ、幸せだ!」
「……そっか」
そう言った後、トルサは再び俯いた。そして暫くして、覚悟を決めたようにソルの方を向いた。
「ソル君、ごめん。やっぱり、僕、ソル君の友達無理かも」
「えっ……」
「怖いんだ。四天王のべへに捕まった時の事、今でも怖い」
「あっ……」
その言葉に、ソルは冷や水をぶっかけられたような気持になった。ずっと、トルサが目が覚めたことが嬉しかった。少しかっこ悪い事もあったけれど、助けられて安心した。
けれども、トルサの言う通りだ。トルサは、ただの力のないモブなのだ。戦えもしない状況で、自分と友達になったばっかりに、死ぬかもしれない目に合ったのだ。
「ごめん……。俺のせいで……」
「違う! ソル君のせいじゃない……! ただ、僕が……、僕のせいで……」
そう言うトルサは震えていて、ああ、全部自分のせいなのだとソルは思った。自分のせいで、トルサは震えている。
せっかくできた、物語とは関係ない友達だった。しかも悟に似ていたから、嬉しくなって絡み過ぎてしまった。絡み過ぎてしまったから、危険な物語に巻き込んでしまった。
「ごめんな。ほんと。友達になってくれてありがとな」
それだけ言って、ソルはトルサのいる部屋を出た。
ソルが出て行った部屋の扉を、トルサはソルがいなくなった後もぼんやりと見つめていた。
「これでいいんだ。これで。僕は力が無いから」
トルサはそう自分に言い聞かせた。自分がただのモブでしかないということは、トルサもちゃんとわかっていた。
「きっと、ソル君の中身は優人君だ。優人君は今、幸せって言ってた。そんな幸せを、壊しちゃいけない。僕のせいでまた、優人君を不幸にしちゃいけない」
そう自分に言い聞かせながらも、悲しそうなソルの顔がトルサの頭から離れなかった。
「これで良いんだよね、セレスさん」




