41.想いと重い
「ねえ、レピオス。ソルの理想を実現しながら、ソルを守り続けるにはどうしたらいいかしら」
その言葉に、レピオスは大きくため息をついた。
「姉さんの言う通り、あなたがソルを頼れば、ソルもあなたを頼るのではないですか? 事実、あなたが恥ずかしさで逃げなければ、ソルはあなたに何かを話そうとしていましたよ。そうすれば、あなたは……。この会話、ソルに聞かれていませんよね」
「……ええ、大丈夫よ。多分、寝てるわ。少し気分が悪くなったみたい」
「それはあなたが拒否してショックだったからでは」
そんなレピオスの言葉に、申し訳なさと、自分の事を本当に好きなのだと嬉しくなる気持ちが入り混じる。
けれども、浮かれてばかりではいられなかった。ソルは定期的に、危険な目に合う。その度に、セレスは聞こえてくる会話や音からソルの居場所を推測して助けに行った。念のためにと御守りという体で渡していた盗聴できる魔道具が、こんなにも役に立つとは思わなかった。
「怖いの。またソルが死んじゃうんじゃないかって。今日だってそう。ソルは相談したつもりでも、カーラに場所すら伝えてなかった。なんとか場所を特定して助けられただけで、また死んでいたかもしれない。しかも、向こうはソルを指定して狙ってきたのよ?」
「……あなたの強さを考えると、ソルを人質に脅した方が、確実にあなたから禁術の本を奪えると思っていたのでしょうね。まさか、あなたが元々彼らに渡すつもりだったとは、向こうも想像できていなかったと思いますが」
死者蘇生の方法と今までの経験を考えると、魔王の復活のためには人型の魔族である四天王を生贄にするしか方法は無かった。そうソルの言葉で気付いた時、生贄にすべき相手の法則のメモ書きを付け、禁術の本をべへに渡した。
だからきっと、彼らはどちらかを生贄に、魔王を復活させるだろう。そして魔王を倒してしまえば、両方を確実に殺せるのだ。
ただ一つ、誤算はあった。生きている四天王が、二人になってしまった事だ。
「まさか、レヴィアが生きていたなんて思わなかったわ。確かに私がこの手で殺したはずなのに」
「自己再生の能力がありますからね。死んだふりをしてうまく誤魔化したのでしょう。全く、あなたがソルの死者蘇生のために禁術を使ったのもそうですが、その実験のために魔族の四天王を生き返らせて殺すというのも、どうかと思いますよ」
「あら、いいじゃない。実験しないと、ソルは魔物のような見た目で生き返ったかもしれないのよ? そんなの駄目よ。実験だって、普通の人間を実験に使うわけにはいかないわ。蘇らせた四天王はソルを殺したベヘの仲間なのだから、そんな相手に何をしても構わないでしょう? 蘇らせて放置してたら、それこそ危険なのだし」
でも、レヴィアは生きていた。それは、魔王が復活したとしても確実にどちらかは生きて、ソルが危険な目にあう可能性があるということを示していた。
「……盗聴の魔道具だけじゃ、足りないかしら」
「やめてください。今の状況でさえ、ソルが本当の事を知ったら、どう思うか。しかもせっかく両想いという段階なのですから、盗聴ですらやめるべきです」
「駄目よ! ソルに何があったらどうするの! せめて四天王の件が全て片付くまでは……。勿論ソルが死んでも、何度でも死者蘇生すればいいわ。生贄用の人間のストックは、念のため沢山残しているもの。けれどもそれ以前に、ソルに死ぬレベルの苦しみを、再び味わって欲しくないの。ソルにはずっと幸せでいて欲しいのよ」
「だからといって、限度があります。ソルも、少しずつ不信な点に気付き始めています。なんとかなっているのは、彼が私たちの事をまっすぐ信じてくれているからですよ? もし、このことがソルにバレたらどうするつもりですか?」
レピオスの言葉に、セレスは俯く。わかっている。全てバレたら、ソルに嫌われてしまうかもしれないという事を。けれども、ソルをまた失うかもしれないと思うと、やめられなかった。
そして、バレるかもと思う度に、エフォールでソルが言った言葉が頭に浮かぶのだ。どんな私でも、大好きだと。
「いっそのこと全部伝えてしまったら……」
「何を考えているのですか」
「だって、ソルが言ったのよ? どんな私でも大好きだって」
「限度があると言ったでしょう。ソルがあなたの事を好きだとしても、何をしても許されるわけではありません。傷つくのは、ソルなのですよ? あなたもそれがわかっているから、ソルに初めから隠したのではないですか?」
セレス自身、そうなのだろうとわかっていた。わかっていたけれども、不安で仕方が無かった。あの日から、何度も何度もソルが死ぬ夢を見た。朝起きてソルがいない度に、ソルはまた死んでしまったのではないかと息ができなかった。
何も言わず俯くセレスを見て、レピオスは大きくため息をつく。
「セレス。私もあなたの気持ちは痛いほどわかります。それに、禁術の件は何とか誤魔化して、墓場まで持っていく方が良いでしょう。けれども、改めて問いますよ? あなたはソルとどうなりたいのですか? 私としても、彼は大切な友人です。だから、これ以上度が超えるならば、もうあなたの味方は……」
「……それでもやめないと私が言えば、あなたはソルに真実を全て告げるのかしら? それとも私の味方をせずに、バレるかもしれない状況を見ているの?」
「そういう意味ではなく、私はただ……」
わかってる。もし本当にソルの事を想うのであれば、そんな事はしてはいけないと。けれども同時に、本当はソルを閉じ込めておきたいという気持ちが顔を出す。
ただ監視するなんて足りない。どこか安全な場所に閉じ込めて、ソルの望むことだけをしてあげたい。意地悪な友達も、ほったらかしの親も、ソルを傷つけるものは何一ついらない、ソルに愛だけを与える場所を作ってあげたい。
けれども、ソルの事を好きだからこそ、そんな事をソルも望んでいない事は、ちゃんとわかっている。
「ねえ、お願いよ。せめて四天王の件が片付くまで。それまでは協力して。平和な世界が来たら、ちゃんとやめるから」
「……はあ。わかりました。それまでは協力しましょう。けれども、それまでにバレてあなたが嫌われても、責任は持ちませんよ」
レピオスの言葉に、セレスはホッと息を吐く。きっとこれで、また何かあった時フォローしてくれるだろう。それに、レピオスはソルが怪我をしたときに助けてくれる貴重な存在だ。そして、ちゃんと強い。だから、ソルがレピオスを庇って危険な目に合う可能性は低い。
カーラもそう。たまにカーラがソルに抱きついて、ソルが照れている姿は少しモヤモヤするけれども、けれどもソルが戦いで苦手な分野を補ってくれるし、自分で戦える。なにより、ソルが大切な仲間だと思っているのだから、排除する理由などない。
けれども、トルサ君は……。
セレスはぼんやりと思う。きっと彼も、ソルにとって大切な友達なのだろう。意地悪な友達から庇うほど。けれども、彼は弱い。そして、彼のせいでソルは危険な目に合った。また彼を人質にされたら、ソルは迷いなく助けに行くだろう。
そう思うと、一つの方法が思い浮かぶ。大丈夫。これもソルのためだ。彼が危険な目に合って、悲しむのはソルなのだ。大丈夫、彼はソルの大切なお友達だから、危害は加えない。そんなこと、ソルも望まない事はわかっている。ただ少し、忠告するだけ。
ああ、ソルが彼と話す前に、なんとかして彼と話さないと。セレスは一人、そう思った。




