40.盗み聞きと相談
「……姉さん」
と、エルヴとの話が落ち着いた頃、レピオスがエルヴを呼ぶ声が聞こえた。もしかして今までの話を聞かれていたのではないかと、ソルは少し恥ずかしくなる。
そんな中、エルヴは小さくため息をつく。
「……レオ。もしかして聞いてたの? あまり良くないよ。そういうの」
「それは姉さんの声が大きいから……。いえ、聞いていたのは事実ですので、それは謝ります。申し訳ありません。ただ、私も気を遣うのですよ」
そう言って、レピオスはソルに聞こえないように、何かをエルヴに言った。
「あっ、そういうこと? それは確かに申し訳なかったわ。でも、なるほどねえ。なかなかにじれったい話だねえ」
「姉さん! 声!」
レピオスはエルヴをギロリと睨んだ後、ソルの方を見る。
「ほら、ソルも戻りますよ。あなたも倒れたばかりですから」
「あっ、ああ……」
けれども、ソルはレピオスと目を合わせられなかった。ずっとセレスの事を好きな気持ちは隠しておくつもりだった。
レピオスなら、きっと自分とセレスは不釣り合いなんて思っていても笑わない。レピオスはそんな人だ。それはわかっていた。エルヴの話も、少しずつ飲み込み始めていた。ただ、覚悟無く聞かれていたとなれば別だ。
けれどもレピオスは、それには触れず、ソルを見て言った。
「ソル。あなたは以前、私がラーレと一度話して思いをぶつけた方が良いと言っていましたね。あなたから見ても、私はラーレに何も話していなかったと思いますか?」
「えっ? ま、まあ、確かに、レピオスはラーレさんに何かしてあげるばっかりで、何か伝えてたイメージはないけど……」
「……そうですか」
レピオスは、どうしてか大きくため息をついた。
「自分の事を客観的に見ていたつもりで、全く見れていなかったのかもしれませんねえ。あなたの何も言わず突っ走ってる姿に、呆れる資格などありませんでした」
「は? どういう……」
頭が付いて行かないソルの隣で、レピオスは静かに笑った。
「一度、ちゃんと自分の思いを含めてラーレと話してみますよ。そうすれば、仮定の話すら考えずに、私も前に進めるかもしれません。……それで私が落ち込んでしまった時は、是非話を聞いてください」
「……! 当然だ! だって俺達友達だろ!」
レピオスにそう言われた瞬間、ソルもようやく、ラーレの言った意味を全て飲み込めた気がした。レピオスの言葉は、レピオスから信用されている気がして嬉しかったのだ。そしてそんなレピオスなら、どうしてか自分の隠してきた部分を含めて全て話しても、受け入れてくれるような気がしてしまうのだ。
それから、ソルはレピオスに連れられ、客室に戻った。戻ってすぐに目が合ったのは、セレスだった。
セレスを見た瞬間、またエルヴに言われた言葉が蘇る。セレスに全てを話したらどうなるだろうか。受け入れてくれるのだろうか。
ずっと、全てを知られることが怖かった。けれどもセレスは、自分に相談して欲しいと言った。それと恋愛感情とは別の話だとは理解しているが、もし受け入れてもらえたならと期待してしまう自分がいた。
恐怖と、けれども少しの期待を込めて、ソルは口を開く。
「あの、セレス……」
「あっ、えっと、レピオス! 話したい事があるの……!」
けれどもセレスは、ソルの隣を通り過ぎて、後ろにいたレピオスの所へ駆け寄った。
「は……? 今、ですか……?」
「いいから……!」
そう言って、セレスはレピオスと2階の部屋に消えていく。
もしかして、拒否された……?
そんな不安が、ソルを襲う。確かに、レピオスもエルヴの声が大きいと言っていた。だから聞こえたのだと。もし、セレスも聞こえていたのだとしたら。
ソルは血の気が引く感じがして、思わずしゃがみ込んだ。隠そうとしていたセレスの事を好きという感情も、バレてしまったのだろうか。だから拒否されたのだろうか。
「ソル、どうしたの? まだ調子悪い……?」
近くにいたカーラが、心配そうにソルを覗き込む。きっと何もわかっていない、そんなカーラの様子にソルは安堵した。
「あはは、そうみたい。ちょっと休むわ」
そう言って、ソルは一人ベッドの中に入った。
◆
セレスがレピオスを連れてレピオスの部屋に入ると、レピオスは大きくため息をついた。
「……あなたは馬鹿なのですか? せっかく、あなたの望んでいた通り、ソルはあなたに相談したいという気になっていたのかもしれないのですよ」
その言葉に、セレスは何も言えず床にしゃがみ込む。まだ、心臓が煩く鳴っていた。
「そ、そうなのだけれど……。ねえ、待って。エルヴさんとの話……。ソル、私の事が好きって事……?」
「そういうことではないですか?」
「でも、そんな、そんなそぶりなんて少しも……」
「私から見ても、ソルはあなたの前ではかっこつけていたように見えましたよ。姉さんの言葉の受け売りではありますが、好きだからこそ逆に頼られたくて特にあなたに相談しなかったのかもしれませんね。まあ、全てその耳の魔道具で聞いていたとは思いますが」
レピオスからはっきりとそう言われて、セレスは自分の顔が赤くなっていくことがわかった。
今までも、沢山アピールしてきたつもりだった。けれども、いつも反応は一歩引いた様子で、女性として興味があるのは自分の胸ぐらいではないかと思っていた。それがまさか、その行為すら自分の事を好きだから、なんて思わないだろう。
「私は、どうしたらいいの……」
「いや、あなたはソルとどうなりたいと思って過ごしていたのですか? お互い両想いならとっととくっつけば良いじゃないですか。寧ろソルは今、あなたに拒否されたと落ち込んでいると思いますよ」
「そうなのだけれど……」
「何を今更足踏みしているのですか。私からしたら、あれだけ散々アピールしておいて、しかもあれだけの事をしておいて、今更渋る意味がわかりません。寧ろあなたのしていることを考えると、何も知らないソルの方が心配ですよ」
「だってだって! ソルは私の事を恋愛的な意味では好きじゃないと思っていたのよ! だからソルの理想の人になりたくて……。……ねえ、ソルはやっぱり、自分の事を頼ってくれる人の方が好きなのかしら」
セレスは、聞いていたソルとエルヴの会話を思い出す。
「……好きというより、嬉しい、じゃないですかね。ソルはあなたの事が好きなのですから。私も、そうでしたしね」
「そう……。頼られるのが、嬉しい……」
けれども、そう思った瞬間、セレスの頭に思い浮かんだのは、瓦礫の中で冷たくなったソルの姿だった。ソルと出会ってから、ずっとずっとその優しさに甘えていた。瘴気の影響で嫌悪感が止まらなくて距離を置こうとしたのも、どこかでソルは自分達を見捨てないという甘えた気持ちがあった。
その結果が、あれだ。
「ねえ、レピオス。ソルの理想を実現しながら、ソルを守り続けるにはどうしたらいいかしら」




