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4.頼る人と頼らなかった人

 魔王が既に倒れているということは、ソルはそれほど長く目を覚まさなかったということだ。

 前世の感覚を持っているソルからすれば、瓦礫に飲み込まれても生きている事自体、不思議な事だった。けれども、ここはあくまでゲームの世界。炎の魔法に焼かれようと、雷の魔法に撃たれようと、相手が弱ければかすり傷で済み、大怪我をしても回復魔法でどうにかなるというのが当たり前だった。

 だからソルは、自分が生きて長く昏睡状態だったのに、普通に動けることに何の疑問も抱かなかった。


 けれども、ソルのお腹から大きな音が鳴った時、流石にソルもセレスも思わず笑った。


「食事にでもしましょうか。とは言っても、こんな所だから大したものはないのだけれど」


 セレスの言葉に、ソルはふと疑問に思う。どうしてセレスは、目を覚まさないソルとこんな所にいたのだろうかと。

 よく見れば、この洞窟は本編ストーリー中に行った盗賊団のアジトだった。既にイベント発生時に盗賊団は殲滅している。ゲームではイベント終了後も盗賊団の生き残りという設定で雑魚敵がいたが、流石にゲームではないから無限湧きすることも無く、確かに安全な場所だろう。とはいえ、セレスがソルの看病をしていたというにはあまりにも不釣り合いな場所だった。


 けれどもその疑問は、すぐに心の奥においやられた。立ち上がろうとしたセレスが、ふらついてその場にしゃがみこんだのだ。


「大丈夫か!?」

「……大丈夫よ。少し眩暈がしただけ。別に大したことないわ」

「でも……」


 セレスの顔を改めて見ると、目のクマが酷く、顔色も悪かった。そしてその原因が、目を覚まさなかった自分にあるという事は容易に察しが付いた。


「食事の支度は俺がやるから! だからセレスは横になっとけって!」

「駄目よ! あなたは目が覚めたばっかりで……」

「そんなの気にならねえほど俺は元気なんだって! 理由はわかんねえけど、そんくらいセレスが俺を看病してくれてたってことなんだろ? だから今度は俺が、セレスを看病させてくれって!」


 あくまで“ソル”らしく、けれども言葉は全て本心で、ソルはセレスにそう言った。そんなソルを、セレスは少し涙を滲ませながら笑顔で見つめる。


「本当に、ソルは出会った頃から何一つ変わって無かったのね」

「えっ……?」

「覚えてる? 食事の支度を毎回全部私がやろうとしたら、ソルは全部一人でやろうとするな、ちゃんと誰かを頼れって叱ってくれたのよ?」


 セレスにそう言われれば、ソルもなんとなくその時のことを思い出した。最初の野営で、カーラは適当に味を付け料理を不味くし、レピオスは栄養が取れれば良いと味は度外視で、ソル自身慣れない料理に食材を焦がしていたら、見かねたセレスが全部やってくれようとしたのだ。

 けれども、野営での食事の支度は楽ではない。勿論料理が下手な三人が悪いのだが、休憩の時間も休みなくセレスは動こうとして、気付けばセレスは疲労でフラフラになっていた。ソルはせめて片付けや道具の準備だけでもと思ったのに、それすら止められたからそう言った記憶がある。

 それから、改めて得意不得意を見極めて役割分担をした。ソル自身は余裕のある時に料理を少し教えてもらい、簡単なものなら一人でできるようになった。瘴気を取り込んでソルの当たりが強くなってからも、セレスの負担にならないようにと、ソルは文句を言われながらも何度か作っていた。


「頼ってくれたおかげで、簡単な料理なら作れるようになったんだぜ! もう焦がさないから心配すんなって」

「ふふっ。そうね。けれども、今回はソルも目を覚ましたばかり。だから、そうね。二人で作って、その後二人で沢山休むっていうのはどうかしら?」

「ははっ。それもありだな! 二人でささっとやっちまって、その後昼寝でもするか!」

「いいわね、それ。そうしましょう」


 セレスの言葉に、ソルは立ち上がる。そして、セレスがふらついても問題ないように、ソルはセレスに手を差し出した。セレスもまた、ソルに少し体を預けながらも、今度はふらつくことなく立ち上がる。


「あっちの方に調理場があったんだっけ? 早く行こうぜ!」


 マップがある程度頭に入っているソルは、今いた部屋を飛び出した。本当に、長いこと眠っていたとは思えないほど体は軽かった。


 そんなソルの背中を、セレスは少し寂しそうに見つめる。


「そうやって私を散々甘やかしてきたくせに、あなたは全部一人でやって、頼ってもくれなかったのね」


 そう言いながら、セレスは自分の体をなぞり、先程抱きしめた時に感じたソルの温もりを思い出す。


「今度はもう、間違えない。いっそのこと、あなたが私にしてくれたように、沢山あなたを甘やかして、私無しじゃ生きられなくしてしまおうかしら。そして、誰も来ることのないこの場所に閉じ込めるの。なんて、思っていたのだけれど……」


 セレスは懐に入っていた通信用の魔道具を取り出す。そこには、レピオスとカーラから沢山のメッセージが入っていた。


「レピオス。カーラ。きっとあなた達二人なら、私のしたことをわかってくれるはず。そうでしょう?」


 そう言ってセレスは、一人笑った。

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