39.好きな人と他人
その後、簡単にレピオスに検査をされ、もう問題ないと自由行動を許可された。べへやレヴィアの件はソルとしてもスッキリはしていなかったが、だからといって考えてわかるものでもなかった。
部屋に戻れば、セレスが心配そうな顔をしてソルを見ていた。
「体はどう?」
「全然問題ないって! もう元通り!」
そうソルは言ったけれども、セレスの顔は晴れなかった。
「……ごめんなさい。私が周りの状況をもっとちゃんと見れていたら」
「何言ってんだよ! そもそもセレスが助けに来てくれなかったらヤバかったし! 寧ろ俺が……」
そう言いながら、ソルはふと思う。そもそも今回危険に巻き込んだのは、自分が無力だからだ。
「ごめんな。俺がもっと強かったら……」
「何言ってるの! ソルは十分強いわ……!」
「あはは。ありがとな」
きっと、慰めで言ってくれているのだろうとソルは思う。実際、戦闘になればセレスの方が強い。付け焼刃のように特訓したとしても、すぐにセレスに勝てるほどではなかった。しかも一緒にセレスも特訓したとしたら、差は一生縮まらない。
別に、それが嫌なわけではなかった。きっとそれはセレスの努力の成果なのだろうから、そんな努力家で真面目なセレスを純粋に凄いと思えた。けれども、セレスへの恋心が消えないままでいるからか、自分はセレスを十分に守る事すらできないのだと思ってしまうのだ。
「……ねえ、ソル」
セレスはまだ心配そうに目を潤ませながら、ソルを見つめ、静かに手を握った。
「お願い。一人でなんでもしようとしないで。私に、ううん、私じゃ頼りないなら私じゃなくてもいいの。誰かに相談して」
その言葉が、夢の中での兄の言葉とダブって聞こえた。それと同時に、一人で解決できると言ったレピオスの声がソルの頭に響く。そんなレピオスを、セレスは頼っていた。
「わかってる。俺は頼りないって。一人じゃ何にもできないって」
ああ、きっと、前世でも兄の目から見れば、優人の行動は馬鹿で、もっとうまく立ち回れる方法が簡単に思いついたのだろう。そしてセレスからしても、きっと今回のやられっぱなしだった姿は、頼りない行動に見えたのだろう。
わかってる。自分は出来損ないなのだ。
「さっきのも、俺一人じゃ何もできないってわかってたから、カーラに助けを求めたつもりだった。けど、そうだよな。結局セレス達に頼りっぱなしで、トルサだけじゃなくて、セレスまで危険な目にあいそうになって……」
「ソル……? 何言ってるの……? 寧ろ巻き込まれたのはソルの方で、私が危険な目にあったのは私の不注意で……」
「わかってるって。俺が頼りないことぐらい。セレスがレピオスに頼りたくなる気持ちわかるよ」
「違っ、私は……!」
何かを言いかけたセレスの言葉をこれ以上聞きたくなくて、ソルは部屋を出た。
自分は何を言っているのだろうか。自分が頼りないことを棚に上げて、レピオスへの嫉妬をセレスに感情的にぶつけて。なんて自分は子供なのだろうと、ソルは自分に呆れた。
「あれ? ソル君?」
と、エルヴの声に、ソルは顔を上げた。
「良かった。無事元気になった……、というわけでもなさそうかな?」
「あっ、いや……」
エルヴの指摘に、ソルは目を逸らす。そんなソルを見て、エルヴは優しく笑いながら近くのソファーに座り、ソルにも座るように勧めた。
「どうした? 良かったらこのお姉さんが、話聞くよ?」
「あっ、いや、ええっと……」
一瞬ソルは迷ったが、けれどもこの感情をどうしたら良いのかわからなくて、ソルは素直に座った。けれども、なんて言えば良いのか、上手く言葉が出てこなかった。
「その……。レピオスって、頼りになりますよね」
思わず出た言葉はそんな言葉だった。ソルの言葉に、エルヴは笑う。
「ええ!? レオが!? 私からしたら、レオはまだまだお子ちゃまだよ!?」
「あっ、いや、エルヴさんにとってはそうかもしれませんが……」
確かに、レピオスもエルヴにとっては弟だ。きっと子供に見えるのだろう。けれどもソルにとっては、レピオスは大人に見えた。
「……頼られるような人になりたいんです。けれども、逆にもっと頼って欲しいって言われることが多くて、俺はそんなに頼りないのかなって……。どうやったら頼られるようなしっかりした人間になれるのかな、って」
「ふーん。でも、私を頼るのはいいんだ」
エルヴの言葉に、ソルは慌てる。
「あっ、いや、そんな事は……、でも……」
「具体的に、頼られたい相手がいるんでしょ。皆に頼られたいじゃなくて、その人に頼られたい」
その言葉に、ソルは何も言えず頷いた。エルヴのその通りだった。レピオスやカーラに頼られたいと思った事は、実際の所一度もなかった。いや、頼られればセレスからも頼られるかなと思うことはあったが、その程度だった。
「そしてソル君は、その人の事が好き。だからその人に頼られたい。違う?」
「あっ、ええっと……、その……」
図星過ぎて、ソルは何も言えなかった。頼られたいと思うのは、セレスだけだった。
そんなソルを見て、エルヴは笑う。
「ほーんと、男って馬鹿ばっかり!」
「えっ、男、ですか?」
「そっ! レオもそう! ラーレちゃんに頼られる存在になりたくて、肝心な事は本人に何も話さない! ラーレちゃんに甘えることすらしない! ラーレちゃんの浮ついた心は嫌いだけど、レオは何も言ってくれない、レオの感情がわからないって言ってたことだけは同意するのよねえ!」
「いや、でも、レピオスは元々頼れる人で……」
ソルの知るレピオスは、自分よりもずっと頼れる存在だった。だからセレスも、レピオスに相談するのだと思っていた。
けれどもエルヴは、笑いながら口を開いた。
「本当にそう? ここに来た日だって、レオ、ソル君に子供っぽいとこ見せて感情的になってたじゃん。寧ろソル君の方が一歩引いて物事を見てたよ? それでもレオが頼られてるなら、それは頼れるからじゃなくて、レオに安心してるからじゃない?」
「安心、ですか……?」
「そっ。言い方は悪いけど、レオはソル君やセレスちゃん達に、ラーレちゃんほど好かれたいと思ってないだろうからね。だから自分を出して、思いついた事を好き勝手言えちゃう。それが逆に、周りもレオの本心が見えて、安心して相談できる。ソル君も、その好きな子に自分を出せてないんじゃない? だから、その好きな子も安心できないから頼ってもらえない」
「それは……。でも、どうしたら……」
そう俯くソルに、エルヴは再び笑う。
「その人に頼って欲しいって言われてんでしょ? いっそのこと甘えちゃったらいいじゃん! 寧ろ母性本能刺激して、逆に良い感じになっちゃうかもよ?」
「へっ!? いや、でも、その人は頑張り過ぎちゃうとこもあって、そんな、そこを更に甘えるなんて……」
そう言うソルの額を、エルヴは優しく指ではじいた。
「意外と、そうでもないかもよ? 勿論全員に当てはまるわけではないけど、女ってのは好きな相手程、相手の辛い所も含めた心の部分を知って、感情を共有したいものなの。特に、心から愛してる人とはね」




