38.分からないことと心配
また、夢を見た。前世の夢。優人は前世の家のリビングを、上からぼんやりと眺めていた。
もう流石に、これはただの夢ではない事を優人はわかっていた。きっと、自分が前世で死んだ後、本当に起こっていることなのだろう。
どうしてか、前世の優人の父親も母親も、そして兄である明も、ソファーに座って項垂れていた。母親に関しては、どうしてか泣いた後のように目が赤くなっていた。
そんな中、明が何も言わず立ち上がった。そして、一つの場所に立ち止まる。そこには優人の頃の写真と一緒に線香が置いてあって、ああ、こんな自分にもちゃんと場所を用意してくれたのだと、優人はぼんやりと思った。
そんな仏壇の前で、明は少し目に涙をためながら口を開いた。
「優人は馬鹿だなあ。少しでも、ほんの少しでも相談してくれれば、未来は変わったかもしれないのに。そしたらあの日も普通に学校に行って、事故になんか合わなかったかもしれないのに。どうしても、そう思っちゃうんだけどさあ」
明は、仏壇の前でしゃがみ込んだ。
「この家が安心して心を開ける場所だったって、自信をもって言えないんだ。優人が引き籠った時、いや、それより前に、もっと優人の話を聞けていれば、違ったのかなあ。もし引き籠った時、もっと何度も話を聞きに行けば違ったのかなあ。それとも、優人にとってはただ鬱陶しいだけだったのかなあ。死んじゃったら、もう何もわかんないんだって」
明が何を言っているのか、わかるようでわかりたくなくて、優人は思わず耳を塞いだ。けれども音が聞こえなくなることもなくて、明の後ろで母親がまた声をあげて泣き始めた。
明が何かを仏壇の前に置いた。それは、きっと前に悟の母親が自分の母親に渡したであろう手紙だった。
優人君へ
そう手紙の表に書いてあった字は、紛れもなく悟の字だった。
◆
「……! ソル……!」
自分の名前を呼ぶ声に、ソルはハッと目を覚ました。目を開けるとそこには目を真っ赤にして心配そうな顔をするセレスの顔がそこにあった。
「あれ……? 俺……? ここは……?」
気が付けば、ソルはベッドの上にいた。起き上がっても、痛みも何もなかった。
「ここは、私の家です」
レピオスも、少しホッとしたような顔でソルを見ていた。ソルも徐々に、気を失う前の事を思い出す。
「な、なあ! トルサは!? トルサは無事か!?」
真っ先に心配になったのは、トルサの事だった。トルサは、もしステータスが見えるのであればかなり低いはずだった。ベヘは殺さないと言っていたけれども、そんなべへの攻撃を受けたトルサのことは、やはり心配だった。
「無事ですよ。とはいえ、あなたよりも怪我が酷く緊急性もありましたので、私よりも医学に詳しい姉に診てもらっています。まだ目は覚ましていませんが、今は眠っているだけとのことで、そのうち目を覚ますはずです」
「そっか。良かった」
ソルはホッと息を吐いた。レピオスの回復魔法に加えて、診療所の先生であるエルヴに診てもらってそう言っているのだから、間違いはないだろう。
そうなると、次に疑問に思うのは、ベヘとレヴィアの事だった。
「なあ、あの後どうなったんだ? 俺、レヴィアの技受けて、そこから完全に意識を失って……。というか、俺、よく無事だったな」
確か、気を失う前に受けた技はゲームでは即死技だった。とはいえ、現実は水の中に溺れさせて窒息死させるわけだから、本当に死ぬまでに猶予はあった。
「あの二人は逃してしまいました。トルサ君とあなたの命が最優先でしたので。向こうもあなたを本当に殺すつもりはなかったようで……、そのですね……」
「そうだ、俺を交渉材料にするってベヘが言ってたんだ! しかも、死者蘇生の禁術の本を手に入れるためって! サマエルやパズを死者蘇生した後に殺したのも、ベヘじゃないって! ……でも、待ってくれ。それなら、俺の知ってるやつが、その本を持ってるってわけで、しかもサマエルやパズを殺したって……」
そう叫びながらも、ソルの頭は混乱した。そんな事をするキャラを、ソルは思いつかなかった。しかも、サマエルやパズとも戦えるほどの強さを持つ人だということだ。けれども、そこまで強いといえば、ここにいる三人以外に思いつかなかった。
けれども、セレスやレピオス、カーラがそんな事をするなんて考えられなかった。この三人は、正義と悪でいう正義側の人間なのだ。だから、そんな非道な事をするはずがなかった。
「全然わかんねえ……。俺の知ってる人のはずなのに……」
そんなソルの言葉に、レピオスはどうしてか少し吹き出して笑った。
「おや、あなたは私達を疑うことはしないのですねえ。私たちはサマエルやパズとも戦えるというのに」
レピオスの言葉に、ソルだけではなく、セレスとカーラもぎょっとした目でレピオスを見た。そりゃそうだ。仲間を疑わないのかと言っているようなものなのだから。
「当たり前だろ!? 皆そんな事するわけねえじゃん! それとも、俺が仲間を疑うようなやつだと思ってんのかよ!」
「いいえ、まさか。けれども、改めて考えれば嬉しいと思ったわけですよ。そうですよね? みなさん?」
レピオスの言葉に、セレスはこくりと、そしてカーラは大げさに何度も強く頷いていた。
「まあ、でも、先程あなたが眠っている時に話していたのですが、何か向こうも勘違いしていたのかもしれませんねえ」
「は? 勘違い?」
「はい。レヴィアがあなたをあの大技から解放した後、ベヘとレヴィアが何か話していたのです。そして、勘違いがどうとか、そのような声が聞こえました。そうしてそのまま去って行った事を考えると、あなたを交渉材料にしようと襲ったのも勘違いだったのかもしれませんねえ。そして、案外あっさり禁術の本を手に入れて、魔王復活の計画でも立てているかもしれません。ねえ、セレス」
「ええ……」
ずっと俯いていたセレスが、少し目を擦った後ニコリと笑った。
「今頃、どちらが魔王復活のための生贄になるか、話し合っている所かもしれないわ。どうせなら、すぐ逃げてしまうベヘが生贄になってくれれば嬉しいのだけれど。……ソル、大丈夫よ。魔王なら、復活しても逃げない分、簡単に倒せるわ」




