36.一方的と無力
『急いで来ないと、このお友達がどうなっても知らないよ。誰にも言わずに必ず一人で来てね。一人で来ないとこのお友達の命はないよ』
ソルがトルサからであるはずのメッセージを開けると、飛び込んできたのはそんな言葉だった。
ソルの胸が煩く鳴る。こんなメッセージ、絶対にゼットやラクトではない。少なくとも、誰かを殺すほど非道な奴らではなかった。
つまり、想定されるのはベヘ。べへは、エフォールにいた時も相談という理由でソルを呼び出していた。
『どこに行けばいい』
ソルは震える手で、そうメッセージを返す。するとすぐに、場所が送られてきた。
場所は、パシオニアから少し離れた所にある洞窟の入り口。このメッセージを送った相手が予想から確信に変わっていく。
そこは、原作でも序盤のレベル上げに使われるダンジョンの一つ。そんな場所で普通の人間が待ち合わせに選ぶことはあり得なかった。
急いで行かないと。そう思いつつも、本当に一人で行けば悪い結果にしかならないことはわかっていた。今の実力では、トルサを助けつつ戦うことはできない。
しかも、レヴィアも生きている可能性が高い。そう考えると、トルサがいなかったとしても勝てる保証は無い。
「カーラ」
ソルは震える声でカーラを呼ぶ。
「どしたの?」
「これ、見てくれ」
カーラは不思議そうな顔でソルの持つ魔道具を覗き込んだ。そして、それを読んだ瞬間、目を見開く。
「これ……!」
「俺はベヘかもしんねえと思ってる。だから……」
そうカーラと話している瞬間、またトルサの名前でメッセージが来た。
『後5分。それがこの子の命の猶予だよ』
5分なんて、今すぐ飛び出していかないと間に合わない。ソルは心を決める。
「俺はとりあえず向かう。だから、カーラはセレスやレピオスにこのことを話して、作戦を立てて来てくれ」
「わ、わかった!」
カーラの言葉を聞いた瞬間、ソルは部屋を飛び出した。それと同時に、2階から丁度下りて来たセレスと目が合う。
「ソル……! 待って!」
「悪い! カーラから話を聞いてくれ!」
そうセレスに言ったと同時に、ソルはレピオスの家を出て、屋根のない所に行く。そして、転移魔法で洞窟の入り口へとワープした。
「あー、本当に一人で来てくれた!」
と、予想通りの声がソルの耳に届く。べへが、洞窟から少し中に入った所に立っていた。ソルも洞窟の中に入り、叫ぶ。
「トルサはどこにやった!」
「ここだよ! 約束通り5分以内に一人で来たから、生かしてあげてるの。感謝しなさい!」
その言葉と共に現れたのは、岩で作られた檻に入れられたトルサだった。
「ソル君! 来ちゃダメだ! 彼女の狙いは君だから……!」
「あっ、ちなみに、少しでも攻撃してきた瞬間、この子の命はないからね!」
その言葉に、ソルは唇を噛む。洞窟の中だから、転移魔法は使えない。だから、隙をついてトルサだけでも助けることはできない。
大丈夫。セレス達には伝わっているから、きっと何か打開策を考えてくれているはず。それに、来る直前に物理と特殊双方の防御魔法をかけてきた。一方的に攻撃されても、何とか生きれるはず。
そう思いながらも、ソルは一つの可能性を試したくて口を開いた。
「なあ、ベヘは『リアンズ』って、知ってるか?」
「は? 何それ」
その言葉に、ソルは小さくため息をついた。ああ、彼女は転生者ではない。だから、きっと何かの影響で違う行動をしているだけなのだ。
けれども、それがわかったのであれば、もう本当に敵なのかどうか気にする必要はなかった。べへはこの世界での悪。それが間違いないという証明なのだ。
「……どうしたら、トルサを解放してくれる」
ソルはベヘを睨みながら言う。
「んー、素直にやられてくれたら?」
「は、なんで俺を……」
「駄目だ! ソル君! 今すぐ逃げて!」
トルサは突然、大きな声で叫び始めた。
「君はこの世界でなくてはならない存在なの、知ってるでしょ!? だから僕の事なんて気にしちゃ駄目だ! 僕の命なんてどうだっていいから!」
「ふざけるな!」
トルサの言葉にソルは叫ぶ。
「トルサは大切な友達だろ!? 友達だから、守りたいに決まってんじゃん!!」
トルサの事を見捨てられるわけなんてなかった。
優人の時も、悟に同じ言葉を言った記憶がある。あの時はただ、やられるばかりで何もできなかった。けれども今は違う。そう信じたかった。
そんなソルの言葉に、トルサはどうしてか目を見開いた。
「待って、うそ、もしかして……」
「さっきから煩いって! ロック ショット!」
と、突然ベヘがトルサの方を向き、いくつかの鋭い岩をトルサに飛ばした。トルサは避ける術もなく、攻撃を受けて気を失った。
「は!? ふざけんな! 俺が何もしなけりゃトルサには何もしないって……!」
「何もしないなんて言ってないもん! 命だけは奪わないでいてあげるってだけ!」
「くそっ……、ふざけんじゃねえ……。くそっ……」
けれどもソルには何もできなかった。ソルが下手に何か動けば、確実にトルサの命はないだろう。ソルは唇を噛む。何もできないことがもどかしかった。
「文句言いながらも、ちゃんと状況わかってんじゃん! でも、そうだね。あいつが来ても面倒くさいしー」
そう言って、ベヘはソルの背後の方を見てニコリと笑った。
「ロック ウォール!」
瞬間、洞窟の入り口は岩の壁によって塞がれた。その状況に、ソルは震えた。
ここの洞窟の入り口は一つだ。つまりそれは、隙を見て外に逃げ出すことも、そしてセレス達がこっそり忍び込む事も難しいということも意味していた。




