35.頼られたい思いと好きな人
街に帰ってすぐ、セレスはエルヴに診てもらった。結果としては特に体に異常はなく、ただの疲れだろうと判断されたらしい。だから、ゆっくり休めば良くなるという事だった。
けれども、ソルの不安は拭えなかった。ずっと、セレスは自分の事を気に掛けてくれていた。エフォールでも、パシオニアでも、ソルが目を覚ましている間ですら。そして、辛い素振りなど少しも見せていなかった。
セレスとは、そういうキャラだった。誰にでも優しくて、真面目で、正義感が強くて、自分の事は後回しに誰かのために動く。だからこそ、セレスが無理をしないように手を差し伸べたかった。けれども蓋を開けてみれば、手を差し伸べられてばかりではなかっただろうか。
そんなセレスは、レピオスの家の客間で休んでいる、はずだった。けれども、気が付けばセレスはいなくなっていた。
「あれ? カーラ、セレスはどこ行った?」
「セレス? うーん、わかんないや。いなくなってからだいぶ時間経ってる気がするし、トイレとかじゃなさそうだよね」
その言葉に少し不安になって、ソルも部屋の外から出た。けれども見当が付かず、とりあえずレピオスに聞いてみようかと2階にあるレピオスの部屋に向かった。
と、そのレピオスの部屋からセレスの声が聞こえた。なんだレピオスの所にいたのかと少し安心しつつ、ソルは部屋に戻ろうとする。
「あくまでソルが……、お試し……。だから結果……、……は不要……」
けれども、セレスから出た自分の名前に、ソルは固まった。そして、何を話しているのか気になりレピオスの部屋に忍び足で向かう。
「どうして……。レヴィアは確かに私が……」
ある程度ハッキリ言葉が聞こえてきた瞬間、どうしてかセレスの言葉はピタリと止んだ。不思議に思っていると、目の前の扉がパタリと開く。
現れたのはレピオスで、怪訝な目をしてソルを見ていた。
「……ソル、どうかしましたか?」
「あっ、いや、セレス、休まなきゃいけねえのにいなくなってたから、どこいったのかなってちょっと気になってさ。レピオスのとこにいたんだな」
ソルがそう言った瞬間、レピオスの奥にいたセレスと目があった。セレスは、ソルを見た瞬間ニコリと笑う。
「心配してくれて探しに来てくれたのね。嬉しい……! 少し休んで元気になったから、もう大丈夫よ」
けれどもセレスの目は、泣いた後のように赤く腫れていた。セレスの苦しい部分を隠されてしまったようで、ソルは胸がズキズキと痛む。
「……なあ、ここで何話してたんだ……?」
セレスが泣いていたあろうことも気になった。そして、自分の名前が出た事も。
けれどもレピオスは、少しの間のあと口を開いた。
「……聞こえていたのでは?」
「いや、レヴィアがどうとか、それぐらいで……」
その言葉に、レピオスは小さくため息をつく。
「それ以外特に無いですよ。セレスも、レヴィアが生きているかもしれないという事に、不安になっていただけです」
違う。絶対にそうじゃない。ソルはそう思った。それだけなら自分の名前が出るはずがない。けれどもレピオスにそう言われてしまえば、ソルはそれ以上何も言えなかった。
二人はソルに何かを隠している気がした。けれどもそれが何か、検討も付かなかった。ただ聞こえたのはお試しだとか不要だとか、不穏な言葉ばかりだった。
「……ソル?」
「あっ、いや! なんでもねえ! セレスも、あんま無理すんなよ!」
なんとかそれだけを言って、ソルは階段を駆け下りた。
大丈夫。セレスもレピオスも、リアンズのメインキャラクターだ。そんな意味もなく、意地悪を言うキャラではないはずだ。けれども、確かにセレスの声で聞こえた不要という言葉が頭から離れなかった。
そうして部屋に戻ると、カーラが驚いた顔をしてソルを見た。もしかしたら勢いよく開けすぎたのかもしれない。
「ソル……?」
「あっ、いや、ごめん! 勢い付けすぎた! セレスはレピオスのとこの部屋にいた!」
「そっか! それなら安心だね!」
そう言って、カーラはベッドの上で再びゴロゴロとし始めた。カーラは二人の会話に興味が無いようで、自分が気にしすぎているだけなのかとソルは思う。
本当に、レピオスの言った通りの事を話していただけなのかもしれない。そしてたまたま、ソルの名前が出ただけ。そもそも自分だけが聞いていないような感覚になっていたけれども、カーラだってあの場にいなかったじゃないか。
けれどもソルの中のモヤモヤした感情は晴れなかった。蘇るのは、塔に行った時の事。あの時も同じようにソルには笑顔を見せ、レピオスには頼っていた。
ああそうか。自分はただ、セレスに頼られる存在が、自分でありたかっただけだ。それはなんて、子供じみた感情なのだろうか。
「……なあ、カーラ。レピオスって、ほんと頼りになるよな」
「レピオス? うん、確かにそうだよね! 頭も良くて何でも知ってるし、なんだかんだしんどい時とか凄く優しいし! あっ、だからセレスもレピオスのとこにいたのかな?」
「……かもな」
ああ、そういえばと、ソルは思い出す。セレスの好きなタイプって、見返りなく尽くすようなレピオスみたいなやつじゃなかったっけ。実際、レピオスは彼女が泣いているだけで、魔王討伐の旅を決めたのだ。
ああ、敵わないじゃん。ソルはそう思う。しかも、今までレピオスに恋人はいたけれども、浮気をされてしまった状態。セレスも最初は諦めていたけれども、それならばと思ったかもしれない。
いや、これで良いのかもしれない。ソルはそう思う。レピオスだって、きっと浮気をするラーレよりも、真面目で浮気なんて絶対にしないだろうセレスと結ばれたほうが良いはずだ。
もしソルが、セレスと結ばれたなら。そんな事を考えたこともあった。けれども、例え何かの拍子にソルがセレスと結ばれても、中身が優人ならばきっとセレスを幸せにできない。
別に良いじゃないか。たまたまこの世界に転生できて、そしてちょっと最推しのキャラと良い思いができて、それで十分じゃないか。
と、ソルの鞄に入っていた通信具の音が鳴る。基本的に、ここに連絡が来る事はなかった。
魔導具を取り出せば、目に入ったのはトルサの名前。そういえば、連絡しようと言ったきり何もできてなかったなとソルは思う。
ソルは、深く考えずメッセージを開いた。
「えっ……」
飛び込んできた内容に、ソルは一瞬状況が理解できずに固まった。




