34.面倒事と異変
それから、ソルは外の空気を吸うこともなく、レピオスに部屋に戻された。
「あなたは何かと面倒事に巻き込まれやすいので、なるべく誰かといてください。例えばセレスとか」
「えっ、でも、エルヴさんと……」
「姉は戦えませんので」
その言葉と共に、レピオスはまた自分の部屋に戻っていった。ソルは理由がわからずセレスの方を見ると、どうしてかセレスはじっと自分の胸を見つめていた。
「やっぱり胸の差かしら……」
そう言って自分の胸を持ち上げゆさゆさと動かすセレスに、ソルは見ては行けないものを見ている気がして思わず目を逸らした。セレスの今の姿は装備を脱いでいて無防備だ。そんな状態でそんな行動を見てしまえば、やましい感情が頭の中を支配してしまう。
けれどもセレスは深く考えていない行動だろう。そんな中でこの感情がバレれてしまえば、確実に嫌われてしまう。そう思ってソルは、セレスに背を向けて明日の支度の確認をするフリをした。
◆
次の日、ソル達は塔に向かった。いつものように範囲攻撃魔法でソルは雑魚敵を一掃していく。レヴィアは水属性のため、雑魚敵も水属性が多くソルとは相性が悪かったが、恐らくレベル差があったのだろう、基本的に当たれば一撃で対処できた。
ソルはぼんやりと前世のゲームでの記憶を思い出す。レヴィアは、四天王戦では終盤の敵という事もあり、四天王の中では一番面倒な記憶があった。レヴィアは自己再生能力があり、一定時間毎に体力を回復する。更に当たれば一撃で瀕死状態となってしまう大技もあり、勿論わかっていればほぼ確実に避けられるが、その避けている時間に回復されてしまうという面倒な仕様だった。
けれども、『リアンズ』はあくまでレベリングで能力が上がるRPGだった。どれだけアクションが苦手でも、しっかりレベルを上げて攻略法さえ頭に入れておけば、問題なく勝てるゲームだった。
だから、せめて復活したまま生きていたとしても、ここで倒しておきたかった。もし生きていなくなってしまっていたら、その後何が起こるのかソルには予測が付かなかった。
「えっ……?」
と、少し前を歩くセレスが立ち止まる。
「なんで……」
前を見ると、そこには恐らくパズのものであろう羽が散らばっていた。ここに着いてから階段を上る間にも、深緑色の血の跡が引きずられるように続いていたから、恐らくパズがここにいたのだろう。
けれども、パズの姿も、そしてレヴィアの姿も見当たらなかった。つまりは、パズを生贄にレヴィアが復活し、そのままどこかに消えてしまった事を意味していた。
その惨状を見て、どうしてかセレスは頭を抱え始める。
「こんなのあり得ない……! だってレヴィアは……」
「セレス」
と、レピオスがセレスの隣に立ち、背中をさする。
「セレス。何もおかしなことはないでしょう。エフォールの塔で話していた通り、べへがパズを使ってレヴィアを復活させ、そのまま魔王復活のための作戦を練っている可能性は十分あります。ねえ、ソル。ソルもそう思いますよね?」
「へ? あっ、ああ……」
ソルはレピオスの言葉に頷く。実際、その可能性が一番高かった。
「そっ、そうね……。その可能性が高いわね……」
そう言ったセレスの顔は青く、少し声も震えていた。そんなセレスに、ソルも心配になって近づく。
「セレス……? 大丈夫か……?」
「えっ……? あっ、大丈夫よ……。心配しないで……」
「でも……」
ソルがセレスに手を伸ばそうとすると、セレスはニコリと笑った後、ソルにくるりと背を向けた。
「大丈夫。本当に大丈夫なの……。だから、気にしないで……」
そう言われてしまえば、ソルもこれ以上何も言えなかった。隣でカーラが、不思議そうにきょろきょろと周りを見渡す。
「でも、なんだか戦った形跡があるよね」
カーラの言う通り、周りにはパズのものだけとは考えられないほどの血が飛び散っていた。それは、エフォールでの塔の中の光景とも少し似ていた。
「……もしかしたら、パズと同じように、レヴィアともべへが揉めたのかもしれませんね。もしかしたら、まだ魔王が復活していない事にも何か関係あるのかもしれません。そうでしょう? セレス」
「ええ、そうね……。だってべへは悪なのだもの。だから、何をしていてもおかしくないの……。そうよ。全てはべへが悪いの……」
少し様子のおかしいセレスに、ソルはやっぱりおかしいとセレスの顔を覗き込もうとする。けれどもソルが動く前に、レピオスがセレスの前に立ち、顔を覗き込んだ。
「セレス。あなた少し顔色が悪いですよ。少し診てもらった方が良いかもしれません。私の家まで歩けますか……?」
「えっ、ええ、大丈夫……」
「なら、とりあえず急いで帰りましょう。この件は、急ぎ国に報告をしておきましょう。ただし、魔王も復活しておらず、魔族の中でも何か揉めている可能性があるので、どう転がるのかわからない、と。あくまで仮説ではありますがね」
レピオスはそう言って、セレスを支えながら歩き始めた。そんな二人の背中を、ソルは何もできないまま眺めていた。
「セレス、大丈夫かな」
カーラが、隣で心配そうにセレスを見つめていた。けれどもソルは、ただ純粋な心配な目線だけを、セレスに向けることはできなかった。
セレスはいつも、自分の事を優しさで包んでくれていた。それは弟に向けるような感情なのかもしれない。けれどもそれだけでも前世では貰えなかった愛情だった。
だから、せめてセレスが辛い時ぐらいは、寄り添ってあげられる男になりたかった。けれども実際はどうだ。ソルに向けたのは、辛さを必死に隠すような笑顔だった。なのにレピオスには、そんな様子を見せていない。
だからセレスがソルに向けた笑顔が、おまえは頼れる男ではないと言っているようで、ソルは胸が苦しくなった。




