33.関係と色々
「ラーレさんと、ちゃんと話をしなくていいのか?」
その言葉に、レピオスは少しムッとした顔でソルを睨んだ。
「話をしてなんの意味があるのですか? 私では彼女を幸せにできなかった。それだけの話です」
「で、でもさ! 旅に出たのだって彼女のためなんだろ!? なのにおかしいって……!」
ソルの言葉に、レピオスは大きくため息をついた。
「別に、街の惨状に彼女があまりにも怖い、悲しいと泣くので、それなら根本的な所を解決した方が速いと思っただけですよ。あなたほどではないですが、私も人より魔力量もあり、希少な聖魔法も使えるので、できなくはないだろうと思っただけです」
「いや、だけ、って……」
自分の恋人がただそう言っただけで、普通ここまで行動に移せるだろうかとソルは思う。それ程までにレピオスはラーレの事が好きで、笑顔が見たいと思っていたのではないのだろうか。
「やっぱムカつくって……。あっちはおまえの頑張りも知らねえでさ……。おまえの気持ちはどうなんだよ……」
「私の気持ちは私が決めますから」
「でも……」
「しつこいですね! 別にあなたには関係が無いことでしょう! いちいち私に構わないでください!」
レピオスはそう言ってセレス達のいる部屋に向かった。そこまで言われてしまえば、ソルは何も言えなかった。
それから、ソル達は簡単に次の日の話をした。話が終われば、レピオスはまた部屋に籠ってしまった。
「どーにかしてあげたいけど、今はほっといた方がいいのかなー」
ポツリと言ったカーラの言葉に、セレスもこくりと頷いた。
「そうね。話を聞いてあげるとか、そういうことを望んでいるわけでもなさそうだし」
「楽しいことしてストレス発散! って感じでもなさそうだもんね」
きっと、二人にも先ほどの会話が聞こえていたのだろう。二人とも、心配そうにしつつも、今はそっとしておくという結論に落ち着いていた。
恐らく、今は何をしてもお節介になってしまうのだろう。そう思いつつもソルは少し落ち着かなくて、少し外にでも出ようかと部屋を出た。
「あっ、ソル君」
と、ソルはエルヴに声をかけられた。
「どこか出かけるの?」
「えっと、まあ……。ちょっと外の空気でも吸いに……」
ソルがそう言えば、エルヴは困ったように笑った。
「ごめんね。うちの弟が」
「あっ、えっと、あはは……。もしかして、聞こえてました?」
「まあ、あれだけ大声で言い合ってたらね」
エルヴの言葉に、きっと家全体に聞こえていたのだろうとソルは恥ずかしくなる。けれども、エルヴは笑顔のまま口を開いた。
「ありがとね。レオのこと、色々と心配してくれてるんでしょ?」
「あっ、いや、まあ……」
「レオは良い友達持ったなあ。ちょっと心配してたんだ。レオ、あんな理屈っぽい性格だし、他の人と上手くやっていけてんのかなあ、って。前来てた時も、うちの弟、ソル君になんかやっちゃったのかなあって思ってた」
「いや! それは違います! あの、それは、えっと、俺が色々と……」
流石に瘴気の事を言うわけにはいかず、ソルは口ごもる。けれども、エルヴも言いたくない話だと察してくれたのか、深くは聞かなかった。
「まっ、喧嘩する程に仲が良いってことか! 基本的に、レオ、外では感情あんま見せないけど、ソル君にはちゃんと見せられるんだねって思ったよ! ラーレちゃん相手になんて特にクールになるから、レオの気持ちがわかんないって、ラーレちゃんに何度泣いて相談されたことか!」
「えっ、でも、レピオスって行動で示すから、ラーレさんに対してもわかりにくいなんてことは無い気がするんですけど……」
「そうなのよ! ほんとそう!」
そう言って、エルヴはソルに抱きつき、頭を撫でまわす。まるでペットでも撫でるようにわしゃわしゃと撫でるので、完全に弟にやる感覚で撫でているのだろうと思うが、流石に大人のお姉さんに抱きしめられるとソルは緊張した。
「あの……! えっと……!」
「ソル君はわかってくれてるのね! ほんと、レオは良い友達もったわ!」
「いや、俺だけじゃなくて、セレスとカーラもわかってると思うので! ほんと俺だけじゃないんで!」
「そうなの……? それならもっと安心だね!」
そう言ってエルヴはようやくソルを離した。やっぱり、間違いなくセレスよりは大きかった、なんて考えてしまう自分の思考を殴りたい。
そう思いつつも、離された瞬間思わず胸に目に行ってしまい、そのことをバレないようにソルはエルヴの顔を見た。エルヴは、心からホッとしたようにソルを見ていた。
そんなエルヴを見て、ふとソルの中に疑問が浮かぶ。
「あの。どうしてレピオスの事、そんなに気にするんですか?」
前世での兄弟である優人と明の関係は、家の中にいる他人のようなものだった。確かに、幼い頃は沢山遊んでもらっていた。けれども、成長するにつれ、優人が部屋に籠ったこともあり、ほとんど何も話さなかった。
引き籠った当初、一度だけ優人の部屋に兄が来たことがあった。そして、引き籠っている理由を聞かれたが言えずにいたら、そのまま二度と部屋に来ることはなかった。
優人にとって兄弟とはそういうものだった。だからこそ、あれだけ嫌な顔をされてもレピオスに構おうとするエルヴが、異質な存在に見えた。
「えっ、だって、血の繋がった弟だよ? 家族だよ? やっぱ心配するでしょ」
「そういう、ものなんですね」
「そうそう! あれ? もしかしてソル君にも兄弟とかいて、仲悪いとか?」
その言葉に、ソルは一瞬言葉につまる。前世では確かに兄がいた。けれども、ソルは兄弟がいない。だから、兄の話をすればおかしなことになるだろう。
「……いえ、俺には兄弟がいないので。ちょっと不思議な感じがして」
「まっ、兄弟にも色々かな! ほんと友達みたいに仲良い兄弟もいれば、一緒に住んでても話さないってほぼ兄弟もいるし! 私のとこの場合は一方的に構いたくて構ってるだけ!」
「そう、なんですね」
「そっ。でもまあ、よっぽどの事が無い限り、なんとなくは気にしてると思うよ! なになに? 兄弟が羨ましくなっちゃった?」
羨ましいのだろうか。ソルはぼんやりと思う。
別に前世で兄はいた。けれどもエルヴのようなタイプではなかった。なんとなく、エルヴであれば優人相手にでも明るく気にかけてくれる気がして、そこが羨ましかったのかもしれない。そんなことをソルは思う。
「そう、ですね。俺は兄弟いなくて家に一人だったんで。賑やかなのが羨ましいのかも」
ソルの設定を理由にそう言えば、エルヴは再びソルに抱きつき撫でまわした。
「なんて素直な良い子! もう私の弟になっちゃいなよ! ソル君なら大歓迎!」
どうせならとされるがままになっていたら、レピオスが2階の部屋から下りてきて、ソルを引き剥がした。そして余計な事を言ってないかなど、レピオスがあまりにも怒るものだから、ソルは思わず笑った。




