31.機嫌と感情
他の男性と歩くラーレの姿に、どうしたら良いかわからずソルはレピオスを見た。それはセレスとカーラも同じようで、セレスとカーラも心配そうな顔をしてレピオスを見ていた。
レピオスは、ただ無表情でラーレを見ていた。ラーレはレピオスに気付いていない。レピオスは、二人にくるりと背を向けた。
「私の家に行きましょう。ここに来た目的は痕跡の調査ですから」
そう言って、レピオスは歩き出す。そんなレピオスの背を見て、ソルはそういえばとレピオスを追った。
「な、なあ! もしかしたら、ラーレさんの兄弟とか親戚とかそういうんじゃないか!? 確かめたほうが……」
そういう展開は、前世でいう漫画やアニメではよくある事だった。それにしては密着し過ぎている気がするが、まだ期待はあった。
けれどもレピオスは首を振る。
「いいえ。相手も私の知っている人です。だから、親族ではない事は明らかです」
「そっ、か……」
レピオスの言葉に、ソルは俯いた。そんなソルを見て、レピオスはため息をつく。
「無理に慰めてもらわなくても大丈夫です。自分の事は、自分で解決できますから。わずか数年とはいえ、少なくともあなたよりも人生の経験値だって上ですよ。それより、今は痕跡の件に集中しましょう」
そう言って、レピオスは足早に歩き始めた。ソルも、慌ててレピオスに着いて行った。
そうして辿り着いたのは、街の診療所だった。ゲームで存在は知っていたが、そういえば実際に来るのは初めてだなとソルは思う。
セレニテには来たことがあった。けれども、その頃は既に二つの瘴気を自分の体に取り込んでいて、影響が強く出ていた。そんな状況ではレピオスの家族にも迷惑をかけてしまうと思い、忘れ物を理由に一晩を別の所で過ごした。
と、一人の白衣を着た胸の大きい女性が家の中から出てきた。その女性は、レピオスと同じアッシュグレーの髪を首のあたりでまとめていて、年齢もレピオスと変わらないかそれよりも上に見えた。そういえば、レピオスには診療所の跡継ぎである姉がいる設定があったっけとソルは思う。
その女性は高齢の老人を送り出した後、こちらに気付いて驚いた顔をした。
「あれ? レオじゃない?」
レオ、とは、レピオスの事だろうか。そう思ってレピオスを見ると、レピオスは嫌そうな顔をして女性を見ていた。
そんなレピオスを見てか、セレスがペコリとお辞儀をする。
「また、少しお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「勿論だよ! 好きに使っていいからね! ねえ、お母さん! レオ帰ってきた!」
そう女性が言えば、二階から同じくアッシュグレーの髪の、少し年配の女性が顔を出す。
「あらあら。またお食事沢山作らないとねえ」
「少し荷物を置きに来ただけなので!」
そう言って、レピオスは一人家の中に入る。そのため、三人は置いてきぼりになってしまった。
「あれ、今回も機嫌悪いのかな? セレスちゃんもカーラちゃんも、前来たからわかるよね? 気にせず入ってくつろいでもらって大丈夫だからね!」
「ありがとうございます。お邪魔します」
「お邪魔します!」
そう言って、セレスとカーラも家の中に入っていく。そんな二人を見て、一言挨拶すべきかなとソルが様子を伺っていると、女性もソルに気が付き目が合った。
「君はもしかして、前会えなかったソル君かな?」
「は、はい!」
少し緊張しながら、ソルは返事をする。一瞬自分に迫る大きな胸に目が行きそうになるが、そちらに目線が行かないよう必死に自制した。もしかしたらセレスよりも大きいのではないか、なんて事を思ってしまったのは秘密だ。
「そっか。私はエルヴ。レオの姉だよ。ここに来てくれたってことは、仲直りできたってことかな?」
「えっ……? えっと……」
仲直り、ということは、瘴気の影響がエルヴには喧嘩しているように見えたのだろうか。そう思いながらも、ソルはどう答えればいいのか返答に困った。
「あれ? 違った? レオったら、ソル君の文句を沢山言いながらも、心配するような事、沢山言ってたから。だから喧嘩なのかなって」
「心配……?」
「そっ。勝手に色々動いてヒヤヒヤするとか、危ないとこにすぐ飛び込もうとするとか……。勿論、セレスちゃんとかカーラちゃんもね」
その言葉に、ソルは首を傾げた。その頃は、瘴気の影響で嫌われていたのではなかっただろうか。だからこそ自由に動いても誰も気にしないと思っていたし、寧ろいなくて良かったと思われているのだも思っていた。
「まあいいわ。今回は来てくれたのだし。とりあえずソル君も入って入って! 色々と自由に過ごしてもらって構わないから! わからないことは、レオに聞いてね!」
「あっ、はい! ありがとうございます!」
そう言って、ソルも家の中に入ろうとする。けれども、そうだと思ってソルは立ち止まる。
「あ、あの!」
「何? どうしたの?」
「あっ、えっと、ラーレさんの事なんですが……」
会ったばかりの相手にそんな事を聞いて良いのかわからなかったが、エルヴはレピオスの姉で、しかもこの街に住んでいる。だから、知らないはずはないだろうとソルは尋ねた。
「あー、もしかして見ちゃったかあ。だからレオは機嫌悪かったのね」
エルヴの反応に、ああ間違いないのだなとソルは肩を落とす。
「あの、エルヴさんは姉として、それは……」
「勿論ムカつくよ!」
ソルの質問に、エルヴは少し怒った顔でそう行った。
「あんなんでも血の繋がった弟だからね! でも弟の恋愛に口を出すわけにもいかないし、今は色々忙しそうだから、帰ってくるまで伝えるの待ってたんだよね。あの子、そんな器用な方ではないから。まっ、姉としては結婚する前に気付けて良かったかなあ、って思うよ」
確かにエルヴの言う通りだとソルは思う。ソル自身、どんな理由があったとしても、ラーレとレピオスが恋人のままでいて欲しいかと言われれば、そんな事は全くなかった。
「まっ、暫くは落ち込んで、見た目的には機嫌が悪いかもだけど。良かったら見守ってあげて」
エルヴの言葉に、ソルも頷くしか無かった。




