30.不審と未来
次の日、ソルは別れの挨拶のために子供達やマイター、オーディと話すカーラをぼんやりと眺めていた。
カーラのやり取りが終われば、レピオスの故郷であるセレニテに向かう。けれどもソルの中では、目を覚ましてから感じていたワクワクは完全に消えていた。変化し過ぎているシナリオに、考える事が多すぎた。
レヴィアは生きているのだろうか。生きていたとしたら、どちらが魔王の生贄になるのだろうか。ソルが原作と違う行動をした時も、キーとなる行動を原作とは異なるキャラが行うというのは日常茶飯事だった。だから、どちらがなってもおかしくなかった。
そうだとしても、セレスの言う通りそれでも魔王には勝てるだろう。特にセレスは、瓦礫に飲み込まれる前と比べて驚く程強くなっていた。けれども何が起こるかわからないと思うと、不安は拭えなかった。
そしてもう一つ。レピオスの恋人、ラーレの事。オーディの件といい、ゼットとラクトの件といい、何もないという事はないだろう。だから何かあるのではないかと、ソルは不安だった。
「なあ、レピオス」
ソルは隣にいるレピオスに声をかけた。
「どうかしましたか?」
「ラーレさんとは最近どうなんだ?」
ソルは、せめて事前に違和感が無いか知っておきたくて、レピオスに尋ねた。あくまでレピオスとラーレは恋人だ。全くやり取りをしていないということもないだろう。
「どうでしょうかねえ。最近メッセージを送っても、あまり返事がないので」
「そっ、か……」
ソルは思わずレピオスから目を逸らす。確かレピオスは、ラーレから毎日連絡が欲しいと言われて律儀にメッセージを送っていたはずだった。送る内容が業務連絡みたいだったのは、少し笑ったが。
けれども、向こうから返事がないということは、やはりそういう事なのだろうか。自分から望んだ事にすら返事が無いとすると、そうだとしか思えなかった。
そんな事を考えていると、レピオスがソルをじっと見つめて言った。
「ソル。あなたは未来でも見えているのですか?」
「えっ……?」
突然の言葉に、ソルは戸惑う。確かに、ソルは前世のゲーム知識である程度の未来を知っていた。大きくズレ始めているけれども、それでも予測できる事が多かった。
けれどもそれを言うわけにはいかず、ソルは咄嗟に誤魔化した。
「そ、そんなわけないだろ! そんな魔法なんて、この世界にはねえし!」
「そうですか。恩返しの件の時の一連の流れといい、あなたが何かを知っているようにしか見えないのですけどねえ」
「あっ、いや……」
ソルは思わずレピオスから目を逸らす。言い訳が、何一つ思いつかなかった。
瓦礫に飲み込まれる前は、誤魔化す事は簡単だった。だって無条件に嫌われるのだから、結局文句を言われて終わるだけだった。
けれども今は、瘴気の影響は無い。だからこそ、レピオスは何かを不審に思い始めているのだとソルは察した。けれども何かを言えばまた墓穴を掘りそうで、何を言えばいいのかわからなかった。
「……えっと、未来が見えるわけでは、ない……。それなら、もっと的確なアドバイスだってできるだろし……」
なんとか思い付いた言葉を、ソルは言った。事実、未来が見えているわけではなかった。見えているのならば、もう少しうまくやれるだろう。
「確かに、未来が見えているにしては、あなたは時折驚いたり、混乱した顔をしますよね。特に塔の時に……」
「それは……」
「……無理に言わなくてもいいです。そんな顔をされてまで、聞き出したいとは思いませんから」
その言葉に、ソルは思わず自分の顔を触った。いったいどんな顔をしていたというのだろうか。何もわからないまま、レピオスは話はもう終わったと通信のための魔導具を取り出した。
そんなレピオスを見て、ソルは思う。本当の事を伝えるべきなのだろうか。けれども伝えたとして、良い方向に変わるなんて想像ができなかった。寧ろ嫌われるかもしれないのに、余計な事なんて言えなかった。
せめてレピオスの言った通り、未来を見る魔法を自分が持っていたならば。それならば、もっと色んな事を解決できたのだろうか。例えば、これから起こるかもしれないレピオスとラーレの事も。
そう思った瞬間、思考が止まる。いやまて、二人の事に限っては、わかっていたとしても解決できるのだろうか。
自分の恋愛経験値は、ゼロだ。勿論優人としての人生だけでなく、ソルの記憶を辿ったとしてもゼロだ。そしてレピオスの恋愛経験値は、少なくとも恋人がいる時点で1以上である。そんな恋愛経験値のある人間に、恋愛経験値ゼロの人間がアドバイスでもしようものなら、たた純粋に鬱陶しい人間なだけだ。そう思うと、ソルは頭を抱えた。
「ごめん、お待たせ!」
カーラが、ようやく子供から解放され、こちらへ来る。カーラが来れば、すぐにセレニテに転移するだろう。考える時間は、もう無かった。
と、奥にいたオーディが、ソルと目があいペコリとお辞儀をした。ソルも、とりあえず手を振る。
オーディは、少なくとも良い人だった。だだ、劣等感に押しつぶされそうになっただけ。勿論カーラに酷いことは言ったけれども、カーラもそれを許して、少し関係は変われど仲良く話すようになった。
そう思うと、ラーレだって何か理由があるのかもしれない。
そうであって欲しかった。けれども、その期待も簡単に打ち砕かれた。
セレニテに着いた途端目に入ったのは、別の男性と腕を組んで歩くラーレの姿だった。




