27.守りたい気持ちと守る方法
また、夢を見た。前世の夢だ。
優人の家の前で、悟の母親と自分の母親が話していた。そんな様子を、優人は上から眺めていた。
会話は少しも聞こえなかった。
悟の母親が優人の母親に何か手紙のようなものを渡した。優人の母親がその手紙のような何かを開いて暫くして、どうしてか顔を覆いしゃがみ込んだ。
これは本当に夢なのだろうか。夢は、過去の記憶を繋ぎ合わせて無理やりストーリーを作ったものだという。
それにしては、リアルだった。けれどもこれも、自分の過去の記憶が作り上げた何かだというのだろうか。
と、何か温かいものに包まれたような感覚になった。それが心地良すぎて、ソルはその温もりに身を任せた。
けれどもその温もりが現実に感じ始めた時、ソルはハッとして目を覚ました。そして、慌てて飛び起きる。
「ごめん! 完全に寝てた!」
既にカーラはおらず、部屋にはセレスと二人きりだった。セレスに膝枕されていた姿をカーラにも見られたのかと思うと少し恥ずかしくなる。
「気にしないで。疲れていたのでしょう?」
セレスは、優しくソルに微笑みかけた。嫌な顔一つしないセレスに、いっそのこと、寝たふりでもしてセレスの太ももをもう少し堪能すれば良かったかとソルは思う。
けれども、そんな邪な思考をセレスにバレたくなくて、必死に平然を取り繕った。
「あはは、そうかもな。いつもより睡眠時間少なかったし。ほんとごめんな!」
「……疲れていた理由は、それだけ?」
「へっ? あっ、まあ……、多分?」
流石にソルを演じる事が疲れたと言うわけにもいかず、ソルは曖昧な返事をする。そんなソルの返事に、セレスはどうしてか目を伏せた。
「そう、なのね。……まあいいわ。それより、ソル。お腹すいていないかしら? 食事に……」
セレスは立ち上がろうとして、立ち上がれずうずくまった。
「どうした!?」
「えっと……。足、痺れちゃったみたい」
セレスは少し恥ずかしそうに頬を染めてそう言った。立ち上がろうとした足は、中途半端な状態でプルプルと震えていた。
それを見た瞬間、セレスの足をつつきたい気持ちがソルの頭を支配する。もしつつけば、ひゃっと可愛い声を出した後に、少し怒ったような顔で涙目になりながら睨んできたりするのだろうか。
いや、そんな事をすれば現実はセレスに嫌われるだろう。ソルは一瞬思い描いた妄想を必死にかき消し、セレスの隣に座った。
「俺が寝ちゃったせいで、ごめんな」
「気にしないで。私がそうさせた部分もあるから」
その言葉に、セレスが敢えて自分の脚に頭を乗せてくれたのかと思うと、うるさく心臓が鳴った。
駄目だ。セレスに膝枕をしてもらったことが嬉しすぎて、自分に都合の良い妄想をしてしまう。何か話題を変えないと。
そう思って、必死に頭の中を漁る。そして、昨日の事を思い出した時、ハッとしてソルはセレスを見た。
「そうだ! 昨日の事お礼言えてなかった! 助けに来てくれてありがとな! セレスが来てくれなかったら、一人じゃけっこうきつかったから……」
本当は、逆にセレスを守れるぐらいの強さでありたかった。対四天王ではセレスを前に出す方がスムーズに勝てるとわかっているからその戦法を取っているが、できるならかっこ良くセレスを守ってみたかった。
相性が悪くても、極めればいけるはずだった。けれども、見えないけれども恐らく経験値的なものがあるだろうという感覚があった。
そんな中で、ソルだけは魔王討伐の経験値が無い。だから、四人の中では自分が一番弱くなっているだろうとソルは思う。
「……それがわかってるなら、あんまり一人で危ない事しないで。何かあったら、せめて私にだけでもいいの。相談して」
「あはは、ごめん。相談があるって手紙だったから、一人で行った方がいいかなって……」
そういえばとソルは思う。オーディの事ですっかり頭から抜けていたが、どうしてべへは自分を呼び出したのだろうか。戦闘中、べへが言った言葉も気になった。
「ソル、どうしたの?」
「あっ、ええっと、相談というか、気になることがあってさ……」
「何!? なんでも聞くわ!」
少し食い気味に言われて、ソルは一瞬たじろいだ。けれども、こればかりは一人で考えても意味がないだろうと口を開く。
「いや、俺を呼び出した理由も意味不明だけどさ。戦闘中、前より弱くなるとかないんだとか、動きも変わらないとか、べヘに言われてさ。セレスは意味わかるか?」
その言葉に、セレスは一瞬固まって、そして目を伏せた。
「……ごめんなさい。わからないわ」
「だよなー。戦いも、向こうは俺の攻撃見てるような感じで防御多めだったし」
流石にわからないかとソルはぼんやりと遠くを見た。そういえば、ベヘは自分が何かを知らないとも言っていたっけ。けれどもセレスが来たから、それを聞くことはできなかった。
そもそも、ベヘの行動もシナリオからは外れていた。今回のように、ソル単体を襲うイベントなんてなかった。もしかして、自分が目を覚まさなかった間、シナリオと違う何かが起こっていたのだろうか。
と、隣にいるセレスがソルの手をぎゅっと握った。
「お願い。できるだけそばにいて」
セレスは泣きそうな顔になりながらそう言った。
「本当は、あなたを塔に連れて行きたくないの。けれども、離れたら守れない。だから……」
そういえば、パシオニアでも夜自分がいなくなったら探しに来ていたのだっけ。きっと今回も、自分がいないことに気付いて追ってきてくれたのだろう。
情けないな。そうソルは思う。きっと自分が弱いから、こんな風に心配をかけているのだ。
「俺も、カーラやオーディみたいにもっと特訓しないとな」
「えっ……?」
「俺が強かったら、セレスもそんな風に心配しないだろ?」
ソルがそう言えば、セレスはソルを握る手を更に強く握りしめた。
「そんなに頑張らなくてもいいわ。もう何度も、ソルに助けられてきたのよ? それでどれだけ安心したか」
きっとセレスなりに励ましてくれているのだろう。セレスを守れた記憶が、ソルにはなかった。
「そう言ってくれてありがとな。そろそろ立てるか?」
「ええ」
セレスは頷いて、立ち上がった。それを見届けて、ソルは部屋から出ようと外に歩き出す。
「……あなたの優しさに、私は何度も助けられたのよ? 本当よ?」
セレスは小さく、ぽつりと呟いた。




