25.変化と関係
カーラはやはり、道場の裏の森の中にいた。そこは基本的にあまり人が来ない場所で、ゲーム中では幼い頃からここで訓練をしていたとマイターが言っていた。
その森の中で、カーラは練習用の壊れない人形を使い、先程オーディが見せていた技を練習していた。
「カーラ!」
そんなカーラにソルは声をかける。ソルの声に、カーラもピタッと練習を止めた。
「あれ? ソル、どうしたの? オーディまで?」
「いつもみたいに特訓見ててもいいか?」
「勿論! って、もしかしてオーディも見るの!? なんか恥ずかしいな……」
カーラは恥ずかしそうに頭を掻く。
「大丈夫だって! 俺達もある程度は好きに過ごしとくから、カーラもいつも通りにやってくれれば! なっ、オーディ!」
「えっ? あっ、まあ……」
オーディはまだ気まずいのか、咄嗟にカーラから視線をそらした。けれども、このままでは良くないと思ったのか、オーディは再びカーラを見る。
「俺も、適当に特訓しとくから、あんま気にしないで貰えれば……」
「わかった! えへへ、一緒に特訓するなんて久々だね!」
「そう、だね」
カーラが笑えば、オーディもぎごちなく笑った。けれどもオーディのその笑顔に、カーラは嬉しそうに訓練用の人形を拾い上げる。
「じゃ、お互い頑張ろうね!」
そう言って、カーラは再び練習を始めた。
四足歩行の人形を、カーラは思い切り蹴り上げる。けれども当たる場所が少し違うのか、人形はオーディがしたように急所を見せては上がらなかった。
そんな様子をぼんやりと見ているオーディに向かって、ソルは口を開く。
「オーディも特訓するなら、俺が必要なもん持ってこようか?」
「いや、流石にそれは自分で……」
「俺がオーディにカーラの特訓を見て欲しいんだ。だから気にすんなって」
「……わかった。ありがとう。なら、訓練用の人形と、水の入った水筒と、汗を拭くタオルと……」
ソルは頼まれたものをメモしながら、ああそうだ、あれも持って来ないとと、ぼんやりと思った。
◆
それから、オーディとカーラは各々特訓を始めた。ソルも、二人の邪魔にならない適度に魔力のコントロールや発動スピードを上げるための特訓を始める。
けれども、時間でいえば今は真夜中。今が何時だろうと今すぐ自分で試してみたいというのがカーラの性格ではあるが、普通の人にはキツイ時間帯である。
ソルは自分の特訓を程々に、近くにあった木に腰掛けた。そうすれば、オーディもそれに気付き、特訓を止める。
そして、カーラの方を見た。
「カーラ、そろそろ……」
「オーディ」
カーラを止めようとしたオーディを、ソルは止める。そして、オーディを呼んだ。
「カーラはああなったら、力ずくじゃないと絶対にやめないぜ」
「いやでも、流石に身体的にも負担が……」
「そこにポーションあるだろ? いつもそれで無限に回復してる。それに、よく怒られてるけどレピオスにも治して貰ってる」
ソルがそう言えば、オーディは拳をぎゅっと握りしめた。そして小さく息を吐いて、ソルの隣に座る。
「ほんとに、ソルはカーラの特訓を見て、勇気を貰えるのか?」
オーディは膝を抱えながら、けれどもカーラから目を離すことなくそう言った。
「ああ。オーディは?」
「俺は、惨めな気持ちになる。カーラがどう頑張ってるのか知る前よりずっと、惨めな気持ちが止らない」
カーラは特訓を始めてからずっと、同じ動きを練習していた。先程よりは上手くなっていたが、それでもオーディが見せたものには敵わない。
けれどもカーラは、全身に汗をかきながらも特訓を止めなかった。そして、その顔は楽しそうに笑っていた。
「……もう寝るか? 毛布持ってきた」
「いや、もう少しカーラを見てる。毛布だけ欲しい」
そう言って、オーディは毛布にくるまる。けれどもオーディは、カーラから目を離さなかった。
オーディの気持ちを、ソルは痛いほどわかった。優人の頃、ずっと兄の背中を、行動を見て惨めな気持ちになっていた。
けれども優人は知っていた。自分が現実逃避をしている間、自分よりもずっと勉強も運動も頑張っていたことを。そんな兄を、優人は最期までどうしても嫌いになれなかった。
「オーディ! ソル!」
カーラの言葉にハッとソルは目を覚ます。恐らく眠っていたのだろう。気が付けば、外は明るくなっていた。
オーディも眠っていたのか、寝起きのように目を擦っていた。
「出来るようになった! 見て!」
朝日に照らされながら、カーラは人形の脚の付け根に蹴りを入れる。人形は完璧な回転と軌跡を描いて、心臓に当たる部分がカーラと向かい合った。その人形に、カーラは隙一つ見せることなく手を突き出した。
「どう!? いい感じでしょ!?」
そう言って笑うカーラを見て、オーディは頭を抱えてくしゃりと自分の髪を掻く。
「狂ってる。ほんと狂ってる。なんで、嘘でしょ……。もしかして、俺が寝てからも、ずっと……」
ポトポトと、地面を水滴が濡らした。
「俺はこんなにできない。こんなに頑張れない。こんなの勝てるわけないって……」
「オーディ……」
「いつから……? いつからカーラはこんな努力を……? 一緒に頑張ろうって決めてから、何十時間、いや、何百時間の差がついた……? 努力の時点で負けてるなんて、こんなの惨め過ぎるって……」
そんなオーディを見て、流石にカーラも異変に気付いたのか、心配そうにオーディに近付いて行く。オーディも零れ落ちる涙を拭いながら、立ち上がった。
「凄いね、カーラは。もう自分のものにした。俺が何日もかけて、やっとできるようになった技を」
「えっ……。あっ、でも、この技は……」
「ごめん、カーラ。やっぱりカーラとはライバルには戻れない」
オーディは、静かにそう言った。けれども、カーラから目を逸らさなかった。
「わかっちゃった。俺は一生カーラには敵わない。こんなにも頑張れない。そんな俺の事を知った上で、お願いを聞いてほしい」
オーディはカーラに笑いかける。
「ずっと強いままでいて欲しい。そして、今度はライバルじゃなくて、俺の憧れの人として勝負をしてくれないか? そしたら、俺ももっと頑張らなきゃって思えるはずだから」
オーディの言葉に、カーラは一瞬驚いた顔を見せた。けれども、カーラも嬉しそうにオーディに笑いかけた。
「うん! ずっと強いままでいられるように頑張るよ! だからまた、いっぱいいっぱい勝負しよ!」
「しよう! 絶対に」
その言葉に、カーラもオーディも同時に拳を突き出し、合わせた。




