24.卑屈と共感
子供を助けに現れたのは、オーディだった。
オーディは、子供に飛び掛ろうとしたオオカミ型の魔物を蹴り上げた。そして魔物の心臓部分に向かって手を突き出す。
瞬間、魔物特有のエメラルドグリーンの血が、魔物を切り裂いたように飛び散った。
この世界では誰もが大なり小なり魔力を持っており、格闘家でも魔力を込めた技を放つ。オーディも恐らく手に魔力を込めたのだろう。
そんな事を思いながら、ソルもオーディの後ろにいる子供を庇うように抱きしめる。そして別の方向から襲う魔物を倒していった。少し離れた所でも、セレスやカーラ、レピオスが戦う声が聞こえていた。
そうして周りに魔物がいなくなった時、ソルはホッとして子供を抱きしめる手を緩めた。
「大丈夫か?」
「うん! それより兄ちゃんの魔法やっぱかっけー! あー、俺も強い魔法使えるようになりてー! 魔力がなー」
子供の能天気な言葉にソルはホッとする。きっとこの様子ならトラウマにもなっていないだろう。後ろで戦っていたオーディも少し力を抜き、ホッと息を吐いていた。
ソルはチラリとオーディの方を見た。オーディもソルの方をチラリと見て、気まずそうに目を逸らす。
何か話すべきか。そう思ってソルが口を開いたその時だった。
「オーディ!!」
カーラの元気な声が、ソルとオーディの間に飛び込んできた。
「ねっ、ねっ! さっきの技、何!? どうやったの!?」
「あっ、いや……」
「最後のはちょっと魔力込めたんだよね!? それよりも、その前の蹴りが、えっと、なんていうの? そのおかげで急所にドンって……!! しかも隙もあんまなかった……!!」
グイグイ来るカーラの言葉に、オーディは小さくため息をついた。
「別に大したことないさ。四足歩行だったから、前足の付け根の所を蹴り上げて心臓をこちらに向くようにしただけ。他にも魔物がいたから、飛び上がるとか下手に大きな動きをして、無駄な動きをしたくなかっただけだ」
「やっぱりオーディは凄いよ! オーディはすぐ色んな技を思い付くんだ! ボク、技作るの苦手だもん! ボクも練習すれば出来るようになるかなあ」
「カーラならすぐ出来るようになるさ。俺が習得するのにかかった時間よりもずっと少ない時間で」
オーディは、恐らく卑屈な気持ちでその言葉を言ったのだろう。けれども新しい技に気を取られているカーラは、そんなオーディの気持ちに気付く事もなかった。
「えへへ、そうかなあ。じゃあ早速練習して来る!」
「は? 今から!? 流石にちょっと休んだほうが……」
「だって早く練習したくて仕方ないんだもん!」
そう言ってカーラは、一目散にどこかへかけていった。オーディは驚いて一瞬カーラの背中を見たが、再び目を逸らす。
そんなオーディに、ソルは声をかけた。
「オーディさん。よければカーラの特訓、見に行ってみませんか?」
「は……? いやなんで……」
「多分オーディさんも、見たことないですよね? 天才のカーラが、どんな風に上手くなっているのか」
「それは……」
ソルの言葉に、オーディは俯いた。
出来れば、ソルはオーディに知って欲しかった。カーラがどんな風に努力をしてきたか。自分が勇気を貰ってきたカーラの姿を見て知って、せめてそれから全てを判断して欲しかった。
「わかりました。あなたがそれだけ言うのであれば、一度見てみましょう」
オーディはため息を付く。
「とはいっても、カーラはどこに行ったのか……」
「多分こっちです」
ソルは街の中に向かって歩き出す。場所に関してはカーラに聞いたわけではなく、前世のゲームで知っただけだが、恐らく道場の裏にある森の中だろう。
「……なんで」
先に歩き始めたソルの後ろで、オーディがソルに問いかけた。
「なんで、そんなにカーラじゃなくて俺に絡んでくるんですか?」
「えっ?」
「あなたはカーラの友人でしょう? 自分でもわかっていますよ。カーラへの感情が捻くれている我儘なものだって。そんな最低な感情でカーラを傷付けたって。なのに、どうして俺に怒らないんですか? どうしてカーラの味方だけをしないのですか?」
その言葉に、ソルはなんでだろうと首を傾げた。確かに、カーラの味方をするのであれば、ソルはオーディに怒っても良いはずだった。けれども、ゼットやラクトに感じたような怒りを、オーディには感じなかった。寧ろ……。
そう思った時、ソルはオーディに困ったように笑いかけた。
「俺も、納得できていないんで」
「えっ……?」
「比較するなとか、時間が解決してくれるとか、俺も納得できないんです。納得できる程、俺は大人になれてない。だからオーディさんの気持ちも、なんとなくわかるというか……」
そう言ったソルを、オーディは一瞬驚いたように見た。
「そう、だったのですね……」
そう言って、オーディは少し気を緩めた表情をした。
「……ソルさん。俺に対して敬語は良いですよ。あなたはカーラと年齢は変わらないのでしょう? 俺はカーラの一つ上なだけですから」
そんなオーディの言葉に、ソルは自分に気を許してくれたような気がして嬉しくなった。
「わかった! じゃ、遠慮なく! ってことは、オーディは俺と同い年なんだな! オーディも、俺に対して敬語は無しで!」
「わかった。……ありがとう」
「こちらこそ! これからよろしくな! じゃ、早く行こうぜ!」
そう言って、ソルはオーディの手を引いて走り始めた。




