22.涙と時間
それからカーラは、泣きながら宴会場に戻った。子供達も流石に何かを察したのか、少し離れた所で少し不安そうにカーラを見ていた。
マイターはそんな子供達を帰らせ、ずっと泣いているカーラを呼び寄せ近くに座らせた。
「……師匠はさ、知ってたの? オーディの気持ち」
カーラは泣きながら、口を開く。
「まあ、薄々は察していたな」
「ボクはどうしたらいいの!? ボクが強くなれたのはオーディのおかげで、オーディと戦うのも本当に楽しみで、なのに……」
「そうだとして、カーラは強くなることをやめるか? やめれば、オーディはおまえに追い付き、元に戻れるかもしれんぞ」
「それは……」
カーラは何も答えられずに俯いた。そんなカーラを、マイターは優しく撫でる。
「人生の全てはオーディだけではないだろう。ほれ、心配そうにカーラを見ている仲間もいる。オーディとだって、時間が経てば前みたいに仲良く話せるようになるかもしれんぞ」
マイターの言葉に、カーラはセレス達の方を向いた。そして、カーラはセレス達に駆け寄った。
「ねえ、皆はボクがどれだけ強くなっても嫌わない?」
カーラの言葉に、セレスは優しくカーラに笑いかける。
「ええ、勿論よ。嫌うなんてありえないわ。だってあなたの強さに、私達は沢山助けられて来たのよ?」
「そもそも強いかどうかで好き嫌いを判別するなんて、おかしな話でしょう」
レピオスも、ため息を付きながら言う。二人の言葉に少し安心した顔をした後、カーラはソルの方を見た。
「ソルも……? ソルもボクの事嫌わない?」
カーラの言葉に、ソルも頷く。
「ああ、勿論! 前に言ったの覚えてるか? カーラが強くなるために頑張ってる姿を見る度に俺も頑張ろうって思えたって。だからこれからも沢山強くなって、俺に頑張る力をくれよな!」
ソルも、出会った頃の会話を思い出しながらそう言った。
カーラはもともと努力を人に見せることを嫌がる人だった。だからたまたまソルが訓練しているカーラの姿を見た時、カーラは慌てて誤魔化そうとした。その理由を聞けば、カーラは恥ずかしそうにそう言った。
『ほら、のーある鷹は爪を隠す? って言うじゃん? やっぱり強さとか努力っていうのは普段は見せない方がカッコイイんだよ!』
カーラの行動と言葉の意味は少し違う気がするし、それを言葉にしてしまう時点で何か違う気がするのだが、能力を下手に見せびらかさない方が良いのは確かなのだろう。
前世でも悟が虐められたキッカケは、勉強ができるから調子乗ってるとかそんな理由だった。そして、休み時間に勉強する度に悟はからかわれたり、時には勉強道具を隠されたりした。カーラも、強さや努力を隠すことで、無意識にでも自分を守ってきたのかもしれない。
けれども、ソルはカーラの努力を生で見たかった。前世でもカーラの強さは数え切れない努力の上にあると知って、自分も頑張りたいと思えたのだ。だからソルはカーラにこう言った。
『俺には見せてくれよ! 俺達仲間だろ? カーラの強さが努力の上にあるって知ったら、俺ももっと頑張ろうって思えるんだ! それに、一人ぐらい最強格闘家の強さの理由を知っててもいいんじゃね?』
その言葉に、カーラは最初驚きながらも、嬉しそうに笑った。
『そうか……。ボクの努力が皆を……。それはそれでカッコイイかも!』
基準はそこなのかとソルは笑ったが、それからカーラは皆の前で隠すことなく訓練するようになった。セレスとレピオスも最初驚いたが、馬鹿にする事もなく寧ろ凄いとカーラを褒めた。
そんな光景に、ソルはまた『リアンズ』の世界を好きになった。
ソルの言葉に、カーラも同じ事を思い出したのか、涙を拭ってようやく笑顔を見せた。
「覚えてる……! うん、そうだね! ボクもっと強くなるために頑張るよ……!」
そんなカーラを、マイターは優しい目で見つめていた。
「本当に、カーラは良い仲間を持った。後はオーディの問題か……。まあ、時間が経てば、あやつも徐々に飲み込めていくだろうが……」
ソルはそんな言葉を聞きながら、俯いた。マイターの言うことを、その通りだとソルはすぐに飲み込めなかった。
時間は、本当に全てを解決してくれるのだろうか。時間で上手く解決できた大人だけが、平気な顔をして偉そうにそう言ってくるのではないだろうか。ソルはどうしても、そんな風に思ってしまった。
少なくともソルには、時間が解決してくれた経験など無かった。
◆
それから、カーラは落ち着きを取り戻していつも通りに戻った。気晴らしにとマイターとも勝負をしたが、結果はカーラの勝ち。師弟という関係ではあるが、圧倒的にカーラは強かった。
そんなカーラを、マイターは負けたというのに成長に喜びながら褒めていた。オーディとの差は、それこそ年齢と経験という時間の差なのかもしれない。けれども、毎回この光景を見せられて落ち込むオーディの気持ちも、ソルは理解できた。
その日の夜、ソルが寝る支度のために鞄を開けると、一枚の手紙が入っていた。
『相談に乗って欲しい』
その言葉とともに書いてあったのは、時間と場所。名前は書いていなかった。けれどもソルはすぐにオーディの顔が浮かんだ。
ソルの頭の中は、オーディとカーラの関係の事で溢れていた。だから、相談に乗って欲しいのはオーディだと思い込み、何か解決方法が見つかるかもしれないと希望が見えた気がしていた。
ソルの事をカーラと一緒にいた人というレベルの認識しかなかったオーディが、どうしてピンポイントでソルの鞄に手紙を入れることができたのか、なんて考えることもなかった。




