18.理想と想う相手
パシオニアから次の目的地へも、転移魔法で一瞬だった。
行先は、カーラの故郷であるエフォール。ここも四天王討伐時、一度訪れた街だった。
「師匠もオーディも、元気かなあ! 四天王のパズ、だっけ? そいつを倒した後以来、会えてなかったんだよねー」
カーラはそう言って、街の奥にある木でできた建物を見る。そこはマイター道場と呼ばれる場所であり、カーラが育った場所だった。
そしてオーディは、カーラの幼馴染であり、幼い頃から一緒に訓練してきたライバルと設定されているキャラだ。
四天王のパズを倒した後も、カーラはオーディから嫌われていない。普通に話していることを、ソルは確認していた。だからこそ、瘴気の影響が無くなった世界線でどんな会話を聞けるのか、ソルは楽しみにしていた。
そして、瘴気の影響が無い変化は別の所にもあった。子供が、カーラの元に沢山集まって来たのだ。
「あっ、カーラだ!」
「カーラお姉ちゃんだ!」
そう言って、十人ほどの子供に一瞬でカーラは囲まれた。
「カーラお姉ちゃん、魔王倒したんだよね! どんな風に戦ったの!? 教えて!!」
「必殺技とかあんの!? 何で魔王倒した!? 見せて!! 見せて!!」
こんな風に子供たちがカーラの元に集まるのは理由があった。エフォールは格闘家の街であり、大半の子供はマイター道場で術を習う。だからこそ、魔王を倒す程強いカーラには興味津々なのだ。
ちなみに、どうして西洋風の世界観に和や中華の世界観が混じっているのかと言われれば謎ではあるが、あくまでゲームの世界だから仕方ないのだろうとソルは思う。
「ちょ、ちょっと待って! 順番、順番だって!」
カーラがそう言えば、カーラの目の前にいた二人が睨み合う。
「じゃあ、お話が先!」
「駄目だ! 必殺技が先だ!」
「私が先にカーラお姉ちゃんに頼んだの! だから私が先!」
「話とか長いじゃん! だから必殺技が先だ!」
「だー、喧嘩すんなって! じゃんけん、じゃんけんはどう!?」
「じゃんけんするー!」
そんな様子を、ソル達は少し距離を取って眺めた。あの子供たちの中に入っていく勇気は、流石に誰も無かった。
「少し時間がかかりそうね」
「そうだな。まっ、久々に帰って来たんだし、気長に待ってもいいんじゃね?」
「そうね。カーラに助けを求められたら何とかしましょう」
セレスとそんな会話をしながら、ソルは子供たちに囲まれるカーラを見た。本来、この光景は原作ではあり得ない事だった。
瘴気の影響は、子供が純粋であるが故なのか強く出やすく嫌われやすい。だからコア浄化後に街にいる子供に話しかけると、避けられるような反応をされるのだ。だから子供に囲まれているカーラを見ると、本当に瘴気の影響が消えた後の世界なのだとソルは嬉しくなる。
「……ソルは、子供が好きなの?」
と、隣にいたセレスがソルに話しかける。
「えっ? なんで? まあ嫌いじゃねえけど」
「そうなの? なんだか幸せそうな顔で見てたから、子供が好きなのかと思ったわ」
なる程とソルは思った。確かに、幸せな光景に緩みきってしまった表情が、子供好きに見えたのかもしれない。けれども、本当の事を言うわけにもいかず、ソルは適当に話を流した。
「まあ、癒されるのは間違いないだろ! そういう意味では好きなのかもな!」
「そうなの。ソルはなんだか良いお父さんになりそう」
「えっ!?」
ソルは、セレスの言葉に一瞬顔に血が昇ってくるのがわかった。意識している相手からそんな事を言われると、どうしてもセレスと家族になった光景をイメージしてしまう。
そしてイメージをした後、頭の中で必死にその光景を掻き消す。きっとセレスは深い意味などなく言ったはずだ。それを勝手に妄想するなんて、純粋に気持ち悪い。
そう思い、ソルは必死に平然を装う。
「そっ、そうか!? そんな事言ったら、セレスの方が良いお母さんになるだろ! 面倒見いいし、料理は上手いし、寧ろ子供だけじゃなくて夫にも尽くし過ぎて、一人で頑張り過ぎちゃわないか心配だぜ!」
実際、セレスは自分の両親の代わりに幼い頃から妹や弟の面倒を見ていた。その上、貴族にしては貧しいセレスの家の家計を良くしようと、魔王を倒せれば報酬も貰えるということもあって旅への参加を決めたのだ。
幼い頃から家のために動いてきたセレスを、前世でも心配するプレイヤーも沢山いた。ソルもその一人で、旅が終われば平穏に暮らして欲しいと願っていた。
そんな事を考えているソルを、セレスはじっと見つめて口を開く。
「そうね。確かに結婚するなら、本当の意味で私をちゃんと見てくれて、愛してくれる人がいいわ。せっかく尽くすなら、そんな人に尽くしたいと思うもの」
「……駄目男製造機にはなるなよ」
「駄目男、製造機……?」
首を傾げるセレスを見て、そういえばこの言葉は前世のネットで生まれた言葉だっけとソルは思う。
「あー、相手を甘やかしすぎて、普通の奴だったのに何もしなくなって駄目にしてしまう女性の事」
「あら? でも、私の思う私を愛してくれる人って、見返り無く私を助けてくれたり守ってくれたり、尽くしてくれる人よ? そんな相手になら、私も全力で尽くしたいと思うのだけれど……。駄目かしら?」
「まっ、まあ? 確かにそれなら問題ないかも……?」
確かに尽くす相手同士ならいいか。そんな事を思いながらも、セレスを意識してしまったからこそ、見返り無く尽くすタイプがセレスのタイプなのかとソルは思う。
ああ、自分と正反対だ。
ソルはそう思った。前世では何かをしてもらうばっかりで、親にも迷惑かけて、そんな自分に声をかけてくれた悟すら守ることすらできなかった。きっとセレスにとって、優人は魅力が無いだろう。
本物のソルもきっと違う。原作でのソルは寧ろセレスにやってもらってばっかりの、弟キャラだった。
パシオニアのソルの家での一件では、セレスはソルのことが好きなのではと期待してしまった。けれども、セレスは純粋にソルの言った言葉に喜んだだけかもしれない。それを勝手に向こうが自分の事を好きだとか思い込んで、これを勘違い野郎と言うのだろう。
けれども、ソルの中のセレスに対する好きは大きくなり始めていた。きっとセレスが、カッコ悪い自分を見せても優しく手を差し伸べてくれるからだろう。
だからこそ、セレスにはこれ以上カッコ悪い所を見せたくなんかなかった。きっとストーリーが終われば、ソルの演じ方がわからなくなるだろう。けれども自分にこの世界の未来があるというのならば、せめてセレスの理想のような、誰かを守れる男になりたかった。




