17.お節介と度
「……悪い。そろそろほんとに行くか」
暫くして、ソルはセレスから離れた。そして、三人に向かって笑いかける。
きっと塔での件もあり、三人とも色々と察しただろう。けれども深く何も聞いてこないことに、ソルは少し安心した。
「ソル君!」
と、ここにはいないはずの声に、ソルは顔を上げた。そこには、まだ朝だというのにトルサがいた。
「トルサ!」
そう言って、ソルもトルサの方に駆け寄る。
「こんな朝早くから、どうした?」
「今日の朝出発するって言ってたから、最後に会っておきたくて」
そう言ったトルサを見て、ソルは微笑む。
トルサは、原作には名前など出ていなかったモブキャラだった。会話をした時間も長いわけではなかったが、性格も趣味も悟に似ていたからか、ずっと前から友達だった気がした。そしてソルがシナリオ関係なく初めて仲良くなったキャラでもあった。
そんなトルサが、わざわざ出発前に来てくれたのだ。それはトルサも同じようにソルの事を友達と思ってくれているようで、やはり嬉しかった。
「連絡先も交換したわけだし、いつでも連絡くれよ!」
「うん! また冒険の話、沢山聞かせて!」
「勿論! いっぱいネタ集めとく!」
ソルはもうこの街に、戻る気は殆ど無かった。冒険の実績もあるのだから、職には困らず一人でも生きてはいけるだろう。
けれども、せっかく転移魔法という便利な魔法があるのだ。トルサと話す時間のために、この街に戻っても良いとは思えた。
と、別の足音がソルに近付いてきた。その方向を見ると、昨日言い合ったはずのゼットとラクトがいた。また何か言いに来たのかと、ソルはトルサの前に立ちながら二人を睨む。
「よ、よう。ソル」
けれどもゼットは、まるで取り繕ったような笑顔でソルにそう言った。ラクトも、どうしてかビクビクしてゼットの後ろに立っていた。
「……何かよう?」
「い、いやあ、昨日、ちょっとやりすぎたなって謝りたくってだな! 昔からの仲だろ? 許してくれよ!」
そう言って、ゼットはソルの肩に手を回した。そんなゼットの変化が少し気味が悪くて、何か裏があるのではないかとソルは警戒する。
「いやあ、おまえも大変だな」
と、ゼットがぼそりと呟く。
「は? 何が?」
「あっ、いやー、ナンデモナイデス。オレタチハソルノシアワセヲイノッテイマス」
「えっ、何? 流石に気持ち悪いんだけど」
流石にゼットがおかしくて、ソルはゼットから距離を取る。いつもゼットの後ろに引っ付いてソルをからかってきていたラクトも、どうしてかコクコクと頷いていた。
「そ、そういうことで! じゃあ!」
そう言って、ゼットとラクトは逃げるように消えて行った。
「なんなんだ? あれ」
二人の背中を、ソルは意味が分からないと思いながら眺めた。からかう素振りも見せない二人は、まるで別人だった。
「……トルサはあれから何もされてないよな?」
「あ、うん。まあ、昨日の今日だからわからないけど……」
「まあ、それもそうか。何かあったら言えよ」
「うん。ありがと」
そんなやり取りをした後、ソルはトルサとも別れた。そして、また待たせてしまったと、慌ててセレス達の所に向かう。
セレス達を見ると、カーラは相変わらず普通だったが、セレスはどうしてか満足そうな顔をしていて、そしてレピオスは眉間にしわを寄せていた。
「ごめん! 待たせた! ……セレスとレピオスは、何かあったのか?」
ソルがそう言うと、レピオスはどうしてか大きなため息を付く。
「いえ、あなたに関しては何も。……セレス。あまり度が過ぎると、ソルに嫌われますよ」
レピオスの言葉に、ソルは首を傾げる。セレスに何かをされた記憶は無かった。
「どうして俺が、セレスを嫌うんだ?」
「いえ、気付いていないのなら良いのです。気付いていないのなら」
レピオスの言葉に、ソルはセレスの方を見た。セレスは、先ほどの顔とは反対に、少しの不安が滲み出ていた。
セレスの“度が過ぎる”といえば、お節介すぎるという所だろうか。家族といる時のお姉ちゃんの時の癖が抜けなくて、我慢したり頑張りすぎたりて尽くし過ぎてしまうのだ。時には周りを幼い子供のように扱うものだから、原作では特にソルを幼い子供扱いして、ソルに怒られていた。
けれども今の世界では、そのキャラ設定を知った上で、我慢したり頑張りすぎてしまうセレスを逆に助けたこともあった。いや、助けたとは違うかもしれない。助けるというのは口実で、前世知識というズルでセレスのギャップを堪能したかったというのが実際の所だ。感謝されたいとか手を握りたいとか、やましい感情の方が強かった。本当の事を言えば嫌われるのはソルの方だろう。
もしかしたら今回トルサやゼット、ラクトが来たのも、ここにいたくないと言ってしまったソルのために、ソルが友達だと言った人達を出発前にセレスが呼んでくれたのかもしれない。
そんな優しいセレスを、どうして嫌いになるだろうか。寧ろそうやって誰かのために頑張るセレスを、優人としては甘やかしたいのだ。
「俺、セレスがどんなやつでも大好きだぜ! 何を隠してるのかわかんねえけど、それだけは絶対変わんねえから!」
「本当……!? 嬉しい……!」
ソルの言葉に、セレスは安心したのか、嬉しそうに満面の笑みを見せた。
「約束よ……? ソルがそう言ってくれたこと、私、絶対に、絶対に忘れないわ!」
「ああ、勿論!」
あまりにも幸せそうにセレスが笑うから、ソルもつられて笑った。




