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第二章(4)

 ヘレナの気遣いは嬉しいが、いつまでも彼女の手を借りてばかりではいられないだろう。


 ライオネルがどういった人物かわからないが、自分で自分のことをやらなければこの屋敷内で飢え死にするかもしれない。生きるための衣食住。衣と住は与えられたが、食がどうなるかわからないのだ。


 それにヘレナだっていつまでもここにいるわけにもいかないだろう。彼女だってアンヌッカより一つ年上で、二十歳になった。そろそろ縁談を見つけて、彼女にも幸せな家庭を築いてもらいたい。


「奥様、階段は西と東と北の三カ所にございます。どうやら北の階段がプライベート用ですね。厨房や浴室に行くにはこちらの階段をお使いください。西には塔屋へあがる階段もございます」


 ヘレナの説明が板についており、アンヌッカの顔はついほころんだ。


「奥様、お腹が空いたでしょう? まずは食堂に案内しますね」

「ついでに厨房も見たいわ。食料の確認は大事よね」


 いくらヘレナが確認したとしても、本来であれば使用人の管理や家のあれこれの采配は、女主人の仕事だ。例えここに、ヘレナとアンヌッカの二人しかいないとしても。


「はい。では、ご案内します」


 北側の階段は、しっかりとしているもののデザインは地味だ。昨日、案内された西側の階段とは見るからに違う。階段をおりると、ヘレナが言ったように浴室、厨房と通じるそれぞれの扉があった。


「本当に、人が住んでいるとは思えない屋敷よね」


 ライオネルは軍の官舎住まいだと聞いていた。ほとんど屋敷には戻っていないのだとか。

 それでもきれいに保たれているのは、あの使用人のおかげだろうか。


「あの人、今日は来るのかしら?」

「あの人、ですか?」

「そう。昨夜の……」

「あぁ、あの失礼なご婦人ですね」


 ヘレナのその言い方も失礼ではないのかと思ったアンヌッカだが、そう言いたくなる気持ちもわかる。ヘレナがアンヌッカの気持ちを代弁してくれるから、心の平穏が保たれるわけだ。


 ただ、この屋敷についてはアンヌッカにはさっぱりとわからない。だから、昨日の彼女の態度がいくら気に食わないとしても、そこは我慢して教えを乞うしかないだろう。


「まぁ。これから起こるかわからないようなことを心配しても、仕方ないわね。まずは、朝食にしましょう」

「はい」


 人が住んでいるかわからないような屋敷に用意された食料。となれば、これはアンヌッカのために準備されたものだろうと勝手に解釈して、食事の用意に取りかかる。


 厨房はこぢんまりとしているものの、不自由はない。火をつける魔法具もあるし、オーブンや湯沸かし魔法具の他にも、料理を簡単にあたためることのできる魔法具まである。


「最新の魔法具を揃えました。って感じがするわね」


 アンヌッカがぼそりと呟くと、ヘレナもそれに同意しつつ、見たことのない魔法具に興奮していた。


「これなんて、最新のオーブン魔法具ですよ。炭を使わなくてよいから、温度調整もしやすいとか」


 メリネ魔法研究所でも魔法具の研究は扱っているものの、こういった料理に利用されるものではなく、どちらかといえば日常生活に根付いたものが多い。例えば、部屋の気温を手軽に調整できたり、水の浄化を効率的に行うものだったり。


 だから逆に料理に特化した魔法具というのは、お目にかかったことがないのだ。むしろ、メリネ魔法研究所もこちらの魔法具開発に力を入れたほうがいいのではと思えるくらい、ヘレナが興奮している。


「では、パンをトーストにして、あとは簡単にスープでも作りますね」

「ありがとう。その間、わたしは屋敷内を見てくるわ」

「あ、私がご案内しようとしていたのに」


 ヘレナもアンヌッカと二人きりだからだろう。砕けた言い方で場を和ませてくれる。だから、昨日の結婚式が一人きりであったことなど、もうすっかりと頭の中から消え去ってしまった。


 ただでさえ人気のない屋敷は、朝という時間帯もあってひんやりとしている。一階には食堂の他に、広間、遊技場、客室といった部屋がある。客人を呼んで、ちょっとしたパーティーなども開けそうだ。


 二階は寝室や居間、書斎などが設けられていた。どの部屋も、最近は使われた形跡がない。


 ざっくりとひととおり確認したアンヌッカは、食堂へと戻る。そこにはすでに料理が並んでいた。

 ヘレナと二人の食事も悪くはない。食事をしながらこれからについてを話し合う。


「旦那様は、いつごろお戻りになるのでしょうか?」

「いつかしらね。昨日、魔獣討伐に行かれたのだから、一か月くらいは不在なのではないかしら?」


 魔獣討伐に行くと聞いたのも昨日。どこにいつまでというのは、いっさい聞いていない。ただ、魔獣討伐に向かったから結婚式には出席できないと、そういった連絡があっただけ。

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