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第二章(2)

「だが、これでは……」


 マーカスとプリシラの結婚は恋愛結婚であるだけに、余計にアンヌッカが不憫だと思うのだろう。


「お兄様、わたしは気にしておりません。それよりもお父様……」


 マーカスから手紙を奪い取り、先ほどから黙って項垂れているアリスタの前に、トンと書類を並べた。


「ライオネル様から、結婚式の日取りの連絡までありました。二か月後ですって。こちらの準備に取りかかりたいのですがよろしいでしょうか?」


 愛のない結婚だと言い切っただけのことはある。


 結婚式の日取りはすでに決められ、王城の隣にある礼拝堂で行うとまで書かれていた。それまでに必要なものを準備するようにと。


 結婚式に必要なものといえば、真っ白いドレスだろう。


「まぁ? 二か月後? まったく、ドレスを仕立てるのにどれだけ時間がかかるか、知らないわけではないでしょうに。仕方ないわね、急いでドレスの準備をするわよ」


 なぜかプリシラが張り切っている。


「アン、何を驚いているの? 結婚式は女性にとって一生の思い出よ。相手がどうであれ、うんと素敵なドレスを準備して、ぎゃふんと言わせてやりましょう。腕が鳴るわね」


 アンヌッカはその言葉に励まされた。


 そうこうしているうちに、プリシラの主導で結婚式の準備は進んでいく。一度経験したというのもあり、手際がよかった。


 結婚に対して啖呵を切ったアンヌッカだというのに、結婚の準備に関しては疎かったのだ。ドレスはどういったものがいいのか、首飾りはどうしたものかと、あれやこれ。


 また、当日は挙式のみで、披露パーティーなどは後日開催するとも連絡があった。


 だというのに、結婚式までの準備期間中も、肝心のライオネルと顔を合わせることはなかった。


 アリスタが何度か顔合わせの打診の手紙を送っても「忙しい」の返事しかこない。そうなれば、またマーカスが怒り出すという悪循環。


「このままでは、結婚式当日まで顔を合わせることはなさそうだな」


 そう、冗談めかして口にしていたマーカスだが、まさかそれが、結婚式当日にすらライオネルに会えない結果になるとは、誰も思っていなかった。


 結婚披露パーティーだけは後日に行うとのことで、まだ、計画すら立てていない。だけど、今となってはそれでよかったのではと思っている。





 結婚式すら姿を現さなかったライオネルだというのに、彼は、結婚してからはマーレ家の屋敷で暮らすようにと、手紙に書いてきた。


 だから、一人ぼっちの結婚式を挙げ、家族との食事を終えた後に、教えられたとおりに彼の屋敷へと向かってみたが、そこには老齢のコリンズ夫人が一人いるだけだった。彼女はこの家に雇われているとのことで、日の高いうちだけこの屋敷にいるらしい。


 そのため、食事をして遅くなったアンヌッカに対して、散々文句を言ってから帰って行った。

 それに対して怒り心頭なのは、アンヌッカが連れてきた侍女のヘレナだ。


「まったくもう、信じられません」


 口調は穏やかであるのに、憤っているのは伝わってくる。最小限、使う部屋にだけ明かりつけた。今では魔力を用いて明かりを灯すのが当たり前となっている。


 これらは魔法具と呼ばれ、魔導士たちの管轄だ。

 魔力が込められた石、魔石を動力源として、明かりをつけたり火を起こしたり、水を浄化したりと、目的に合わせた道具が作られており、それらを魔法具と呼んでいる。


「まぁまぁ、そんなに怒らないで」

「お嬢様は……ではなく、奥様はもう少し怒ったほうがよいですよ」

「でもねぇ? ほら、最初にこの結婚に愛はないと宣言したような旦那様よ? それに、自分の結婚式すら欠席だなんて。考えてみたら、おかしくて……」


 ふふふふと、アンヌッカは肩を小刻みにふるわせた。


「あ、奥様。動かないでください。今、鈎をはずしていますから」

「でも、お父様たちと食事をすませてきてよかったわね」


 通いの使用人が一人きり。むしろ使用人というよりは、この屋敷の管理を任されている者なのではと思えてくる。


「そうですね。本当に、私がいてよかったと思いませんか?」


 ストンとドレスが落ちた。コルセットも外されたアンヌッカは、動きやすく簡素なドレスに袖を通す。


「そうね、ありがとうヘレナ。こんなところにまでついてきてくれて」


 ヘレナはドレスを手にして、衣装部屋へと向かう。


 さて、どうしたものか。


 この部屋を案内してくれたのは、帰ってしまった老齢の使用人だ。むしろ、管理人とでもいうべきか。だから、この屋敷の全貌はまだわからない。


 だが、屋敷内では自由に過ごしてかまわないと、ライオネルからの手紙には書いてあった。


(まぁ、わたしの家にもなるわけだし……)


 誰もいないのに遠慮する必要はないだろう。

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