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第十章(3)

「ああ。あまりにも腹が立って、蹴りを入れたら見事に吹っ飛んでくれた。ユースタスにはやり過ぎだと言われたがな」


 蹴りを入れたら吹っ飛んだ。その状況を想像したら、ちょっと間抜けに見えてきた。


「あぁ、よかった。おまえが笑ってくれて……」


 その言葉を誤魔化すように、ライオネルはスープを飲んでいる。

 アンヌッカだって、そのような言葉をかけられたら照れてしまう。いそいそとパンにジャムを塗り、口の中に放り込んだ。


 それから二人は黙々と朝食を食べる。

 ライオネルの皿が空になったとき、彼は口を開いた。


「ロンバールだが……やはり、十数年前の魔法研究所爆発事故の犯人だった……」

「そう、なのですね……」

「おまえが、ゾフレ地区の魔導書を読み解いただろう?」

「はい」

「あれがヒントとなり、ロンバールも隠し部屋へと通じる魔導書を読み解いたらしい」

「そうなんですか?」


 アンヌッカが驚き声をあげると、ライオネルはゆっくりと頷いた。


「ユースタスが持っていた魔導書だが。ロンバールは以前、その魔導書を目にしていたようだ。そして中身を書き写していたみたいだな」

「へぇ、なんだって勉強熱心な方なのですね」

「いや、違う理由だ。ロンバールはあれでも王弟だからな。ユースタスがまだ独身の今、王位継承権はユースタスの次に持っている」


 ここで継承権の話が出てきたとなれば、アンヌッカにだってピンとくるものはある。


「ロンバールは、昔から陛下とユースタスの命を狙っていたような人物だ。それだって、証拠を残さずねちねちとやるから質が悪い。俺たちは、ロンバールの素行に気がついてはいたが、確固たる証拠がないため問い詰めることができなかった」


 やはり、ロンバールは王位が欲しかったのだろう。


「戦争を起こし、そのどさくさに紛れて陛下とユースタスの命を奪えばいいとも考えていたようだ」


 単純というか、クズというか。なんと言ったらいいかわからない。


「何年もそうやって考えていたようだ。人間兵器について思いついたのも、そういった背景からのようだ」

「ロンバールは、戦争を起こしたかった……?」

「あれの最終目標は、陛下とユースタスの命を奪うこと。戦争はその過程だな。そして、戦争を起こすために行っていたのが魔法具の実験……いや、人体実験だ」

「例の、人間兵器」


 そこまでは、以前にも話を聞いている。


「そうだ。人間兵器を隣国に送り込み、そこで爆破事件を起こすことで戦争のきっかけを作ろうとした阿呆だ」


 古代文字や魔法史については詳しいアンヌッカだが、戦争云々といった歴史についてはからきし弱い。そこに外交が絡んでくればなおのこと。


「その実験が暴走して、あの日、研究所は爆発した」

「それにたまたま巻き込まれたのが、マーレ少将のご両親だったのですね?」

「いや、たまたまたではない。意図的だ……特に俺の母親は、あの場所に呼び出された……」


 そこで悔しそうに、ライオネルは顔をゆがめる。


「呼び出された? 誰に、ですか?」

「ロンバールだ。ロンバールは母親を人質にして、父親を脅し、実験に協力しろと言い寄ったらしい……」


 テーブルの上に置かれたライオネルの拳が震えている。その様子をしばらく見つめていたアンヌッカだが、自然とその拳を自身の手で包み込んでいた。


 驚いたライオネルが顔をあげ、アンヌッカを真っすぐに見つめる。


「マーレ少将。辛いことであれば、お話しなくても大丈夫です。今回の事件、なんとなくですがわかりましたので」

「いや……問題ない。おまえには知っておいてもらいたいと、そう思った。とにかく、母親を人質にとられた父親だが、ロンバールをなんとか説得しようとしたようだ。だが、ロンバールはそれを無視して母親を閉じ込め、父親がそれを助けている間に――」


 ――ドッカーン!


 ライオネルが顔を伏せる。アンヌッカもゴクリと喉を鳴らす。


「あの爆発事故。もしかしたら、父親が実験に失敗をして起こしたものではないのかと思っていた時期もあった。だが、それは違った……」

「そうですね。マーレ少将のお父様は、最期までお母様のことを思っていらしたのですね」

「そうだな……だが、残された者の気持ちまで、考えはまわらなかったのだろうな……」


 その一言で、ライオネルの心の闇が見えたような気がした。だがそれはまだ、確かなものではない。


「いいえ。きっとお父様もお母様も、二人でマーレ少将の側にいたいと思ったのではないでしょうか?」


 ひくっとライオネルのこめかみが動いた。


「今の話を聞くかぎりですが、お父様だけでも助かった可能性はあります。ですが、それではダメだと。二人一緒に生き延びなければならないと。だから、二人で生き延びる手段をとったのです」

「……なるほどな。やはりおまえは面白いな。俺は魔法が嫌いだ。両親の命を奪ったものだからな」

「ですが、わたしは魔法が好きです。魔法は人の生活をよりよくするもの。人のためにあるべき存在。なんだって使い方を間違えれば怪我をします。肉を切るための包丁だって、凶器にはなりますからね。そうならないように、正しい魔法の使い方を導くのが、魔導士や研究者の役目だと思っています」


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