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第六章(2)

****


 カタリーナ・ホランが、ゾフレ地区の禁帯本の一つである魔導書の解読を終えた。五百ページにも及ぶその魔導書は、古代文字で書かれているため、魔導士や魔法研究部門の彼らだけでは読み解くことができなかった。必要なのは、古代文字に精通している者。


 それがメリネ魔法研究所のカタリーナ・ホランだった。


「これは、さすがとしか言いようがないね」


 円卓を囲むのは軍服に身をつつむ男たちだ。肩章やら勲章から判断するに、幹部らだと判断できる。また、そのほかにはローブを羽織っている男たちがちらほらと座っていた。


「えぇ。やはりメリネ魔法研究所は驚異ですね」


 いつもヘラヘラとしているユースタスですら、笑みを封印してそう言った。


「しかも、この量を半年とかからず解読したわけか……」


 そう言った壮年の男は、隣に座る魔導士の男に顔を向けた。魔導士の彼も、難しい顔をして、並べられた資料を鋭く見ている。


「軍に欲しいね」

「この読解力なら、魔導士団にだって欲しいですね」

「だめだめ、彼女、魔力は少ないでしょ?」


 その一言で誰かが身上書をペラペラとめくる。


「そのようですね。メリネ魔法研究所でも、魔導士としてではなく研究員として働いているようですから」

「てことは、軍だね」

「ですね」


 この場にいる誰もが、カタリーナの古代文字読解力を認めている。


 それはライオネルも同じ気持ちだった。

 あの能力は、軍に欲しい。そして、他国に渡してはならない。


 そういった意味ではメリネ魔法研究所に身を置かれるのは、危険なのだ。あそこは、国内外問わず仕事を受け入れ、所属している魔導士らを派遣している。彼女は魔導士ではないものの、いつ、どこに派遣するかは、所長が考えることだろう。


「マーレ少将、彼女は君の管轄だよね?」

「はい」


 カタリーナだけでなく、魔法研究部門がライオネルの直轄である。


「彼女、勧誘してくれないかな。軍に来ない? って」

「マーレ少将がそんな言い方、できるわけないだろう?」


 ユースタスがにたりと笑った。相変わらずライオネルが窮地に立たされると喜び出すという嫌な男だ。


「マーレ少将。私のほうから頼むよ。彼女をなんとしてでも軍に入れてくれ」

「本人が断ったら、どうするつもりですか?」


 カタリーナの様子を見ていたら、彼女が軍で働きたいとは思っていないことなど、伝わってくる。

 ただ、魔導書の解読のためにここに来ていただけであって、決して軍のためではない。


「マーレ少将。何、甘えたことを言っているの? そういうときは、脅してでもいれるんだよ。誰かさんが結婚したのも、相手の女性を脅したからっていう話だしね」


 ユースタスは間違いなくライオネルの結婚についてを言っている。


 ライオネルがメリネ魔法研究所所長の娘と結婚したのは、消すことのできない事実。

 相手が受け入れてくれるように少々脅した、と言っていたのもユースタスだ。おおかた、国王命令とでも言ったのだろう。一般人であれば、そう言われただけで萎縮するもの。


「わかりました。まずは彼女に軍への勧誘を行ってみます。断られたときは、次の手段に」

「ま、君も脅すのは得意だよね。だけど、しつこい男は嫌われるからね。相手が民間人だということを忘れずに、節度を持って接してほしいな」


 いつものライオネルであれば、ユースタスの言葉に反論しただろう。だが、この場にはライオネルの上官らもいる。


「御意に」

 静かに頭を下げた。





 会議というのは、むさ苦しい男どもの顔の突き合わせだ。それが終われば、やっと身も心も解放される。


 階級の上の者から部屋を出ていき、下の者は残って片付けをする。ライオネルは幹部になったばかりであるため、そういった仕事はもちろんライオネルにまわってくる。


「つまらないね、君が反論しないなんて」


 さっさと会議室を出ていったと思ったのに、またどこからかユースタスが現れた。


「暇なのか、おまえは」

「暇なわけないでしょ? だけどね、大事な友人の様子を見ておきたいなと思ってね」

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