第95話 お手を拝借……?
「あの~、先輩? うちの犬Pを踏んでますけど?」
「そんなことはどうでもいい! それよりもこのパンはどうやって作った? 教えろ! 今すぐに!」
プリメーラはダンダン!と片足を踏みしめ鼻息を荒くしてパンの作り方を聞いてくる。当然その間にもタニシは無残にも踏みしだかれ、足拭きマットの様になっていく。ホント、暴走すると周りが見えなくなるよな、コイツ。
「ここの近所に“パパンがパン!”とかいう店があるだろ? そこの“魔来賓”とかいうパンを買って、コレにプラスアルファしようと思ったわけだ。」
「ムッ!? やるわね! ウチら聖歌隊というか聖女様御用達の名店を選ぶとは大したものね! あそこの“魔来賓”は定番だけど、“晩古羅”と“把田里”も絶品なのよ!」
実はファルと話しているとき、周辺の名店の情報を得ていたのだ。ヤツはこの辺の飲食店が好みに合うらしく、たまに訪れているらしい。その一押しの店へと買い出しに行ってきたのだ。なんか店主が東洋文化にかぶれているらしく、商品名に珍しく漢字が使われている。俺が東洋人な事に気付き、快くおすすめの品を出してくれた。それとはまた別に、ファルのお気にの店と知ればプリメーラは更にヒートアップするだろう。でも、今は困るのでまたの機会に話すとしよう。
「そこでここの食堂へ行って厨房を借りて、残っている食材でちょちょいっと調理したワケよ!」
「新人の定番イベントね! 食堂を借りて先輩に献上する品を作るのは、聖歌隊なら誰もが通る道よ!」
そういう事前情報を知っていたわけではない。そのままでもおいしいパンにチョイ足して更においしくしようと思っていたら、自然とそういう場所に足が向いたわけだ。食堂のオバチャン達に事情を話してみたら、以外とすんなりと厨房を貸してくれたので、どういうワケなのだろうと思っていた。元々、そういう土壌があったわけだ。
「そこで残り物は何かないかと聞いてみたところ、パスタと蒸し鶏が少々残っていたのだ。それを切り込みを入れたパンに挟んだのが、そのパンなんだ!」
「て、て、て、天才の発想じゃあ! 正に神レシピ! 神の組み合わせじゃ~!!」
こんな即席の思いつきで作ってきた物を絶賛するとは。主食×主食という禁断の組み合わせを敢えてやってみただけだというのに。案外、チョロいな、プリメーラは。
「実際、リロイが誇る三つ星レストラン、“COOK・ロビン”でテイクアウトしてきたメニューを名乗っても、信じちゃうわよ!」
「いやいや、そんな一流店でこんなジャンク料理を出すわけないだろう?」
「いやいや、逆にあり得るって! このメニューがあれば天下取れるレベル! 億万長者間違い無しよ!」
話が飛躍しすぎだ。暴走するとワケワカランレベルでおかしな事を口走り始めるな、コイツは。それはともかく、アイリとのパン対決はこれで勝てるとは思っていない。色々試行錯誤を練る必要がある。猶予時間は短い。それまでに確実に勝てるパンを作らないといけない。
「ぐへ、ごひっ! 確かに天下とれそうな気がするでヤンス! 今間見た風景で一番の絶景かもしれんでヤンしゅう!」
いつの間にか意識を取り戻したタニシが突拍子もないおかしな言動を始めた。……よく見ると、プリメーラに踏みしだかれた状態で視線を真上に集中させている! あの状態だと……プリメーラのスカートの中が丸見えなっているはず。
「ぎゃああああっ!? 犬P、何してんの! いつの間にそんなポジションにいるの! 変態! セクハラ! 覗き! 三つも大罪を犯してるぅ!!」
「あっしは足拭きマットでヤンス! だから目は付いていないでヤンしゅ! だから何も見て……ワギャバンボンっ!?」
問答無用で更に踏み込まれた! 見苦しい言い訳をするからだ。元はプリメーラがパンに興奮するあまり見落として、倒れていたタニシを踏みつけた事が発端だ。本来なら喧嘩両成敗にするべきなんだろうが、ここは女の園。男子にまともな人権が与えられるはずなどなかった……。
(ボスボス、ボスボスっ!!)
「ワギャンス!? ワギャボンスっ!?」
「コレはパンの分、コレはパスタの分、コレはパンツの分だぁ~!!」
プリメーラは蹴り上げた勢いでタニシを壁に激突させ、そのままパンチのラッシュを叩き込んでいる! 正に即死コンボの永久パターンだ!
「テメーはオレを怒らせた! 原因はただそれだけだっ!!」
「ワぐほぉ!? やられた! これであっしはもう……。でも、素敵な情景はしっかりと目に焼き付けた! ……キュウ!」
タニシは再び暗黒の世界に落ちていった。なんか最近、気絶させられてばっかりだな。ミヤコがいなくても結果は変わらないということか。合掌。