第91話 パンといえば聖歌隊……?
「君、名前は?」
「勇者ロア……いえ、ロアンヌです。」
「なるほど勇者か。聖女様も面白いことを考えられたものだな。」
ついいつものクセで勇者と名乗ってしまう。ここにいる以上、素性は知られたくはないが額冠のせいでバレバレである。例え名乗らなくてもバレる。でもヤッパリ勇者の肩書きは隠しておきたい。悩ましいものである。
「何しに来たのさ? 私を茶化しに来たの? いい加減やめてほしいんだけど?」
「ハハッ、初対面の時から絡んできたのは君の方からじゃないか。それからは仕方なしに絡んでやってるんだよ? 圧倒的に差が付いた今でもね。少しは感謝しなさい。」
「誰が感謝なんてーっ!?」
どうやらミヤコとは別の意味でのライバルであるようだ。聖歌隊に入った時からの因縁の関係なのだろう。差が付いたと言ってる辺り、最初は対等の立場だったのだろう。プリメーラは燻ったままのようだが、相手は頂点にまで上り詰めた。色々と歯がゆいだろうなぁ。そりゃ攻撃的にもなるわな。
「仲間とは折り合いが付かず、事あるごとにメンバーをとっかえひっかえ。今となっては少々干され気味だった君にとっては朗報じゃないか。しかし、それも女体化した勇者と組むことになろうとは!」
「くーっ!? 言うな! 私の恥ずかしい過去を後輩の前で晒すなぁ! 威厳が保てないだろぉ!」
あー、そういうわけね。やっぱ、性格に問題があるから色んなメンバーと折り合いが付かなかった過去があると。そいうわけでいつの間にか落ちぶれていたのか。なんかそれ、誰かの経歴に似てない? ……って俺じゃないか! まあ、期間は短いだろうし、聖女様からの期待がある分、俺よりかは待遇はマシに感じるな。まだ、やりようはある。
「これから巻き返してやるもん! お前に勝ってやるからな! トップの座から引きずり下ろしてやる!」
「それはお盛んな事で。勇者の力を借りるんだから、それくらいの元気がないとね。」
プリメーラはますます対抗意識を燃やし、ヒートアップしてアイリへ打倒宣言をし始めた。この前のエニッコス談義の時もそうだったが、熱くなるととことん暴走し始めるきらいがあるようだ。そういう所も問題の火種になっていたんだろう。そりゃ、誰も付いていかないわ。
「ところで、先程の話を聞かせて頂いたんだが……?」
「話って何よ? どれのこと言ってんのよ?」
「……パンの話さ。」
「パンーっ!?」
アイリは意外なところに突っ込んできた。3Pの事とかに言及するかと思いきや、まさかのパン、である! そんなのに興味を示すとは思わなかった。どういうつもりなのだろうか?
「君らのユニットとボクのユニット“儚き蜻蛉”とでタイアップイベントをしようと思っていてね。」
「タイアップだとぉ!? どういうつもりだ?」
「君に助け船を出してやろうというわけさ。無名のユニットじゃ誰も人が集まってこないだろ? タイアップすることで集客を増やそうと考えているのさ。実は第三弾までの企画は考えてある。その一本目が究極と至高のパン対決なのさ!」
「パンで対決するだとぉ!?」
まさかのグルメ対決きたぁ! なんか勇者になってからそういう機会が増えたが、コレに乗れば四度目のバトルとなる。なんで純粋な戦い以外でも対決を余儀なくされるとは! 勇者とはこうもマルチなスキルを要求されるのだろうか?
「ロアンヌちゃんが『本物のパン』とやらを披露すると言っていたのが気になっていたのさ。聖歌隊にパンは付きもの。ボク達は聖歌隊のトップを張るからには、様々な分野で№1を目指さないといけないと考えている。こちらも至高のパンを用意させて頂くよ。」
「えええ!? 本気でやるんすか?」
「本気だとも。対決は一週間後。イベント内で対決を行う。審査員はさる筋の方々に来て頂くとするよ。」
「いいわよ! 乗った! ロアンヌ、アンタの力見せてやりなさい! 本物の究極のパンの実力披露してやりなさい!」
「完全に俺頼みじゃないか!」
ユニット同士の対決で新人の俺だけの双肩に全てがかかってるなんて、頭おかしいだろ! しかもパン対決なんて、聖歌隊の主旨に関係ないのではないだろうか? 色んな意味で狂ったイベントだな。
「そうそう! 言い忘れていたけど、この三本勝負、負けたらどうなるかを言っておかないとね。」
「それは何よ?」
「負けたら、聖歌隊を引退するっていうのは、どう?」
「望むところよ!」
「望むなよ! やめないといけないんだぞ?」「負けないから、大丈夫!」
「エェ……。」
災難の上からまた更なる災難が降ってかかってきた。非常に無茶な対決が成立してしまうとは。それよりも、どうする? パン、どうしよう? まだ何も思い浮かんでないんだが……。