第88話 新人だからって容赦しないかんね!
「あー、どうすんだよ、これ……。」
俺らはあの後、聖女様から活動概要の説明を受け、「では、頑張って下さいね?」のセリフとともに聖歌隊の宿舎に案内された。まあ、状況が状況だけに途方に暮れるしかなかった。
「俺に女の子なんて出来るんだろうか?」
「なんとかなりますよ。私が手取り足取り、教えますから。」
活動の補助役としてメイちゃんが付いてきてくれた。何しろ基本的にこの場所は男子禁制なためファルは完全に閉め出されてしまった。なお、タニシはプロデュース業を担当することになったので、制限付きで出入り可能となったようだ。
「しっかし、ヘンに悪目立ちするよな、この格好は。」
現に宿舎に入り、この部屋に入るまでの間に聖歌隊の連中…女の子達と何人かすれ違ったが、そのリアクションときたら……。クスクス、プリプリ、せせら笑われること山のごとし! なんか女体化した男、しかも正体は勇者という妙な新人が入ってきたと噂になっているようである。
「元々男性用の衣服ですから、女の子には似合わないんですよ。髪型も男性その物ですから。」
「うう~! 髪の毛なんて普段から特に手入れとか一切してないんだよなぁ。」
「髪を直したり、化粧とかしたら見違えると思いますよ。勇者さんて結構顔立ちは整ってますから。」
「そうかなあ……?」
髪型やらファッションやらを整えるなんて概念は俺の辞書には存在していない。そんなことをするのは陽キャだけだろうと考えているからだ。そこまでしたところで特に意味はないような気がするから。気にしたことさえなかった。だから、そういう所をミヤコとかに怒られるんだろうなぁ。
「エルちゃんがいつも言ってますよ。いつもおかしな顔をしているから格好良く見えてないんです。寝ているときとかふざけることが出来ないタイミングで顔を見ると、いつもと違って格好良く見えてるそうですよ。」
「せ。せやろか?」
「もう! そんなふざけた顔をしょっちゅうしてるから幻滅されちゃうんですよ!」
割と格好良く見えてるなんて言われたら、顔面が緩んでしまうじゃないか。あまりに緩みすぎたため、メイちゃんに怒られてしまった。そんなやりとりを繰り広げていると、部屋に誰かが入ってくる気配がした。
「新人はいるかーーっ!!」
誰かと思えばプリメーラだった。凄い勢い剣幕で突入してきやがった。まるで敵地に殴り込むゴロツキみたいな迫力である。見た目はかわいい女の子ではあるんだが声量でドスを効かせているので余計にそう思える。
「し、新人っす。よろしくお願いしまっス!」
「まさか、オーラのない男が勇者で、しかも聖女パワーで女の子になっちまうとはな!」
プリメーラはあの時とは違い妙ちくりんな変装をしていないので、まともな姿を見るのはこれが初めてとなる。整った顔立ち、均整の取れた体つき、非の打ち所のない容姿をしていた。あのときはわからなかったが、長い髪を二つに分け、頭の両サイドで結んでいる。美人と言うにはまだ若すぎるが、十分に美少女と言える外見だ。確かに聖女様が期待をかけるだけのことはある。
「私の下に付くって事はどういう事かわかってるか?」
「……はい?」
「ビシバシ厳しくやっていくからな! 新人だからって容赦しないかんね!」
「どうかお手柔らかにお願いします!」
なんかコイツこの前と印象が違うんだが……。目下の相手には厳しく当たるタイプなんだろうか? たまにいるよね、こういう人。コイツ自身も新人のはずだから、俺が初めての後輩という可能性もある。
「そういや、お前の名前を聞いてねえな? 名前を教えな?」
「ロアです。」
「なにそれ? だっせえな!」
名前をダサいとか言われても……。というか俺を勇者として認識してないんじゃないか、コイツ? おかしいな?
「そんなこと言われても……。」
聖女様やロレンソでさえ俺を初対面で勇者と認識した。彼らはある程度事前情報などを知っているから俺をそう認識しただけだろう。基本的には一定以上の実力を持った人間は額冠の力が及ばないなんてことはあるが、それはあくまで無意識的に認識されないというだけだ。コイツはどうなんだろう? いや、まさかな……?
「私が相応しい名前を付けてやる! そうだな……ロアだからこれからはロアンヌと名乗れ!」
「エェ……。元とほとんど変わらないですやん。」
「あぁん!? 文句あんのか、ゴルァ!!」
「ありません。ゴメンナサイ。それでいいです。素敵な名前です、先輩。」
「うむ! それで良い!」
「これからはロアンヌちゃんですね。」
なんかメイちゃんは気に入ってくれたようだ。これからしばらくは勇者ロア改めロアンヌちゃんとして活動せにゃならんのか……。とほほ。




