第85話 心洗われるであろう!
「ここが聖女様が御座す、衛星都市リロイのサンクトゥス大聖堂だ。」
「は~! すっげえな! 建物自体が美術品みてぇだ!」
とうとう聖都までやってきた。とは言っても中心部ではなく、少し離れた位置にある衛星都市リロイという場所を訪れた。そこに聖女様管轄の教会、サンクトゥス大聖堂が存在しているという。
「ほぅあーっ!? 目が洗われる! 心が洗われるでヤンスぅーっ!?」
タニシは両手で目を押さえながら悶絶している。大聖堂のあまりの美しさにダメージを受けてしまったようだ。なんか俺も気持ちはわかる。俺らの様な陰キャ側の人間にとっては陽キャオーラが凄まじすぎてキツいのだ!
「フッフッフ、心洗われるであろう。大聖堂の美しさもさることながら、聖女様は更にお美しい。その様子で実際に会われたならば、身も心も浄化され天に召されるであろうよ!」
「目がめささされるぅ!? 昇天、てんっ!?」
「タニちゃん、落ち着いて! 天に召されるなんてあり得ないから!」
ロレンソまで便乗して冗談をほのめかしてきた。事もあろうか、その冗談でさえも聖女様を褒め称える始末だった。美術品より美しいなんてあり得るんだろうか? でもまあ、事前情報では絶世の美女とは聞いているのでどんなレベルなのか気になるところだ。
「俺もちょっと心洗われすぎて目眩がしてきた! 聖女様との謁見キャンセルしてもいい?」
「何を申しておる! 聖女様は多忙故、スケジュールを空けるのは難しいのだぞ! 聖女様のご厚意を不意にするつもりか!」
「わかった、わかった! そんな怒らんでもええやねん!」
「聖女様に対して不敬がすぎるぞ、貴公は!」
ロレンソに怒られた。コイツは聖女様の話になるとすぐにムキになる。いわゆるガチ勢みたいな雰囲気がある。このレベルになると、悪口とか言ったら本人以上にブチ切れそう。気を付けんと大変なことになる。
「おい、つまらんこと言ってないでさっさと入るぞ。それこそ、聖女に迷惑をかける事になってるじゃないか。」
「そら見ろ! 貴公が滅相もないことを申すからだ!」
「テメエもだよ、馬鹿野郎。」
「なんとぉー!? 私もかっ!?」
俺達だけでなくロレンソまでファルに怒られた。熱が入りすぎなのがあかんかったやろうなぁ。それはともかく、騒ぎはおいといて、大聖堂の中に足を踏み入れていく。中はあまりにも荘厳すぎて、さっきまでのふざけた言動は頭の中から完全に吹っ飛んでしまった。
「フフ、声も出まい。これが我が教団の誇るサンクトゥス大聖堂。世界3大大聖堂の一つにも数えられる程だぞ。」
ロレンソは相変わらず口が止まらなかった。ここが如何に素晴らしいかと熱弁を続ける。他のみんなは黙っているので、ロレンソの声だけが広い聖堂に響き渡る。よう声が響くもんやわぁ。
「どうぞよくいらっしゃいました、勇者ご一行様。」
ある程度中を進む過程で見えてきたのが女神像。立派な女神像だなぁと思っていたら、なんとしゃべった! 人だったのだ! あまりに豪奢、美しすぎたので美術品と見まがう程だった! 黄金に輝く髪、整ったご尊顔、均整の取れた体つき。非の付け所がない、パーフェクト過ぎる容姿だった!
「せ、せ、せ、せ、聖女様!?」
「わギャあああアッ!? 目が、目が、目がぁ!?」
「落ち着け、お前ら! そんな大げさだと逆に失礼だぞ!」
聖女様を見て取り乱す俺とタニシ。それを一括するファル。教団の重要人物に会ったというのにみっともない取り乱し方をしてしまった!だってなぁ、想像の右斜め上を行きすぎてたからこうなってしまったのだ!
「うふふ、騒がしく愉快な方々ですね。」
「情けなさ過ぎて申し訳ない。俺の教育が通用しない大バカばっかりなもんで。」
「大バカで悪かったな。」
聖女様に笑われてしまった。ファルは謝りつつ、俺らをディスってきた。見ろ、初対面でバカだと知られてしまったではないか!
「初めまして、勇者ロアです。」
「お噂は兼々お聞きしていますわ。どうやらプリメーラやロレンソがお世話になったそうですね。」
「はは、いやぁ、大型新人の脱走とかの絡みで決闘を吹っ掛けられてどうしようかと思いましたよ。」
「ご迷惑をおかけしましたね。そして、見苦しい所をお見せしてしまって、申し訳ない思いでいっぱいですわ。」
こっちも取り乱してしまったというのに例の件で逆に謝られてしまった。まあ、冷静に思い返したらとんでもない事ばっかりではあった。ロレンソ自身がプリメーラに対して聖女様に泥を塗ったと発言していたが、本人の方がよっぽどヤバいことをやらかしている。
「ここで立ち話も何ですから座ってゆっくり話をしましょう。色々とお願いしたいこととかコラボなんかも考えておりますので……。」
ゆっくりお話という流れになったが……お願いしたいこととかコラボ、って何? 何をするのだろう? それも気になるが、聖女様って誰かに似ている様な気がする。誰だっけ? 美しさに紛れて、何というか既視感みたいな違和感を感じるのだ……。