第84話 スポンサーでは無いですよ。
「なあ、タニシ? いつからアイツの正体に気付いてたんだよ?」
聖都にいる聖女様の元へ向かうべく俺達は薔薇騎士団に案内され大所帯で歩いていた。なんかこんな集団で歩くのは初めてだったので、肩がこって仕方なかった。それにある程度慣れてきたところでタニシに話題を振ってみた。
「エニッコスの話題で盛り上がりかけたところで気付いたでヤンス。気付いたけど話が止まらなくなったから、言わずに続行したんでヤンスよ!」
タニシはプリメーラが去った後で急に言及してきたワケだが、それよりも前から気付いていたんだな。下手に正体を口にしたら逃げていただろうし。有名人と話す機会なんて中々ないから、放置していたんだろう。結果的に面白いやりとりが見れたから良かったと思う。
「ズバリ、決め手は何だったの?」
「匂いでヤンス!」
「匂い? 私ってそんなに臭い?」
俺達の会話にプリメーラが割り込んできた。ロレンソとブランカに抑えられて、私語すら禁止されていたはずだが、騎士団の連中をすり抜けてここまで来てしまったようだ。
「臭いわけはないでヤンス! 可愛い子の匂いなんて忘れるわけがないでヤンスよ!」
「うわぁ、ミヤコがいたら速攻で締め上げられそうな言動だ!」
犬と同様に鼻がいいコボルトにとっては人の判別には重要な要素なのだろう。匂いだけで離れている距離とか形までわかるレベルらしい。俺ら人間と違って目よりも鼻の方を頼りにしているそうだ。そりゃ認識してる世界が違うわけだ。
「……ミヤコ……!?」
「どうしたんだ?」
「アンタ、今、ミヤコって言った?」
「言ったけどどうした?」
「うう~む! なんであの子の名前が……?」
プリメーラはなにか眉間にしわを寄せて唸っている。何に対して唸っているのだろう? アイツはここにいないから特に意識するような事でもないはずだ。別に名前が珍しいワケでもないし……。
「もしかしてミヤコと知り合い? あの遊び人、インフルエンサーとして活動している、あの子と?」
「ああ、知り合いというか俺ら勇者パーティーの一員だが?」
「勇者パーティーの一員? あの子が? 何よ! しばらく姿を眩ましたかと思っていたら!」
姿を眩ました? どうしてそうなるんだ? いや待てよ人違いかもしれん。いやでも、あんな遊び人を名乗る女なんて他にいるわけないか。
「眩ましてたってどういう意味だ? 確かに半年近くは俺らと行動してたから、少なくともお前の前からはいなくなっていたんだろうよ。」
「そういう事ね! てっきり、私の前で宣言したあの言葉を忘れて、故郷に逃げ帰ったのかと思ってた!」
「は? 宣言? お前、一体、アイツの何なの?」
「あの子は私のライバル! あの子は「お前なんかに負けない! 必ずぶっ飛ばして世界一のインフルエンサーになってやる!」って宣言してた!」
「アイツに挑戦状を叩き込まれたということか……。」
ほう、本物のアイドルに喧嘩を売ったワケか。インフルエンサーも人々の注目を集めることが目的だとアイツは言ってた。そういう意味では商売敵なのかもしれない。ただ、後ろに宗教団体がいるかどうかの違いがあるだけだろう。
「なるほど! 勇者をスポンサーにしたのね! 考えたわね! やるじゃない!」
「おいおい、一人で勝手に納得するなよ! 俺がスポンサーなわけないだろ! スポンサーが毎日ディスられるわけないじゃないか!」
「アニキが泣きながら訴えてるでヤンス!」
スポンサーなんてそんな立場なわけないだろう! 毎日、ダサいだのアホだの、センスないだの毎日毎日、虐められてるんですよ、俺は! 逆にそんな立場になってみたいわぁ!
「じゃあ、もしかして……?」
「あん? なんだ? 俺がどうかしたのか?」
俺がスポンサーでないことを悟ると、今度はファルに視線を送り始めた。なんか……俺やタニシに向けている視線とは明らかに何かが違っていた。何かが!
「ファル様……。会いたかったです! ずーーっと前から会いたいと思ってましたぁ!!」
「ああ? そうなのか。そりゃ良かったな。」
「ずっと前から大ファンだったんです! 握手して下さい!」
「あ? ああ……。」
プリメーラはテンション高めにファルへと迫った。ファルは消極的に応じている。あまりにもテンションが高いのでドン引きしてるようだ。確かに興奮気味で暴走している時のタニシのテンションに酷似している。そういう意味では中身はタニシと似たような性質なのかもしれない。そりゃエニッコス談義で盛り上がるわけだ。
「私、ファル様がスポンサーになってくれるんだったら、どこまでもついて行きますぅ!」
「何言ってんだ、お前……。」
プリメーラはとんでもないことを口走り始めた。ファルは更にドン引きしている。横でメイちゃんが苦笑しながらその様子を見ていた。あの子からしたらそれはちょっとシャレにならないよなぁ。そこで騒ぎに気付いたのかロレンソが大げさに優雅な動きで俺らの前に現れた。
「ほう? 貴公がその様な真似をするのならば、六光の騎士で一番美しいのは誰かを決さなければなるまい?」
「テメエらいい加減にしろ! 俺を妙な冗談に巻き込むな!」
「ファル様、ゴメンナサイ!」
ファルの怒りを察してロレンソはプリメーラの襟首を掴んでサッと元の位置に戻っていった。このやりとりでますます、あの子が本当に聖女様が認めた大型新人なのか疑問に思えてきた……。