第79話 Ep.Ⅺ、エニッコスとスクエアンの物語
アリア飯を切っ掛けに始まった、勇者エニッコス伝説語りは一度終結の気配を見せたはずなのだが……。タニシと割り込んできたミスター?が競い合うような形で、ますますヒートアップを続ける一方だった。
「私はエピソードⅡが特に好きなのよ! 溶岩洞窟の中で、強敵、邪神のゾウとの死闘の後に友情が芽生え、邪神のゾウが自己犠牲の精神で勇者を庇うところが特に! 「アイル、ビー、バック!」の名台詞と共に溶岩に飲まれていくシーンは最高に泣けるのよ!」
唐突に始まるエピソードⅡ語り。コソ泥相手には逃げ合い対決してるのに、邪神のゾウとかいう敵とはまともに戦ってるんだな……。しかし友情が芽生えるとか、何があったのだろうか? 気になる。
「ちょっと待って? さっきの鍵の話はエピソード何?」
「鍵の話はエピソードⅢの走りの部分! 本編じゃないけど、話が熱いから大人気なのよ! 私はⅡが好きだけど!」
あれがエピソードⅢ? 三つめの話の最初が情けない話で始まるとは!
「そうでヤンしゅか? Ⅱといえば、溶岩洞窟の後の雪山で勇者が遭難するシーンが好きでヤンス! あの感動の後のおマヌケシーンがシュール過ぎるのが良いんでヤンス! その後、雪かきをしていた宿敵“邪神官バ・ゴーン”に偶然発見されて介抱されるオチも込みで!」
勇者が遭難て……。自然の驚異に負けててどうするんだ! しかも、敵に助けられるとは情けない! 出直して参れ!
「遭難して気を失っている間に見た夢の様な本当の話もヤバいわね! だって夢の中、故郷のお城で開かれたパーティーの余興で披露した剣舞が、現実でも寝たまま行われて、バ・ゴーンに命中しちゃったのよね!」
「夢遊病? 寝たまま敵に攻撃しちゃったのか? 敵とはいえ恩を仇で返しやがったとは。勇者の風上にも置けないヤツだ!」
「バ・ゴーンはそのまま即死! 奇跡の宿敵撃破を達成してしまったのでヤンス! しかも通常は同時に持つことの出来ない、“墓石の剣”と“海坊主の剣”二刀流まで達成してたんでヤンしゅよ! 名付けて“夢想・幻魔剣”! 新必殺技が爆誕したんでヤンス!」
勇者を介抱してて、様子を見に来たら夢遊病的に動いた拍子に切り刻まれるって、かわいそうすぎるだろ……。敵とはいえ憐れな最後だ。しかも宿敵だったんだよな? そんな適当なやられ方をしていいんだろうか?
「あのさ? ⅡとかⅢとかがあるんなら他の逸話はどうなんだ? なんかギャグみたいな展開が多いけど、まともな話はないのか?」
「なんと、これはエピソード?まであるのよ! なんか途中から話の人気は落ちるけどね!」
「Ⅳなんてスピンオフでヤンス! 魔王ムッシュ・ピンサロがホスト王になる話! これは女性人気が高いでヤンス! 他にも鬼嫁かメンヘラ嫁、究極の選択を迫られるⅤ、まさかの夢落ちなⅥ、市長に転身し街を経営・発展させる立身出世話のⅦ、空と海と大地、どこに行っても謎の姫君に狙われるⅧ!」
え? 勇者が結婚した話まであるの? しかも究極の選択? 結婚しないという選択はなかったんだろうか? しかも、その後は勇者っぽくない話が続いている。難儀な嫁にいびられつつ、市長として辣腕ぶりを発揮しつつも、ストーカーに付き纏われる日々を過ごしているとは……。胃に穴が空きそうなくらいにストレスフルじゃないか! そら、Ⅵでうっかり寝落ちするわけだ。夢の回にもなるわな。
「色んな人とすれ違った末に天使になったⅨ、エニッコス不在の中、登場人物が全部勇者なⅩ、裏の勇者スクエアンとコンビを組んで再起を目指すⅪ。どれもこれも個性的で魅力いっぱいの話ばかりでヤンス!」
なんか最後の方は話が大分迷走してる感が凄い。これ、本当に実話なんだろうか? 話盛られてる感がかなりある。俺が怪訝に思っていると、ファルが咳払いをしてタニシ・ミスター?両名の暴走を咎める様に告げ口してきた。
「言っとくが、この話はフィクションだからな? 本気にするなよ。あまりにも有名になりすぎて実話だと勘違いされがちなだけだ。」
「何ぃ!? ウソだったのかよ!」
「フィクションだったんでヤンしゅかぁ!?」
「お前も知らなかったのかよ!」
「フフ、何を隠そう、私もよ!」
「隠さんでもいいだろ……。」
「知らねえのか? 世界三大喜劇の一つだぜ? 戯曲作家ホリィ・ユージィーの著作で有名だ。他にも“オホーツクにQ”、“頂く?ストリート”とかも有名だな。“ケロロ・トリガー”とかいうのもあったっけな?」
世界三大喜劇? 初めて聞いた。他にどんな物があるんだろうか? あれこれ下らない話を続けているうちにいつの間にかみんな食事を食べ終わっていた。長居するのもなんだし、そろそろ切り上げて店を出る事にするか……。