第78話 アリア湖畔の“最初の鍵”
「ていうか、その鍵は何?」
「知らないの? “最初の鍵”に決まってるじゃない!」
「知らーん!」
謎の知らないメニューの由来などわかるものか! 名前もわけわからんし、意味ありげな盛り方とか変なオブジェも味とは関係ないところで色々ゴチャゴチャしている。食べにくいだろこんなん!
「エッ!? アニキ、知らないでヤンしゅか? アリア飯の由来を?」
「知らない。」
「勇者エニッコスと盗賊バコ太の伝説をご存じないんでヤンしゅかぁ?」
「そんな勇者の名前は知らん!」
俺の知らない勇者が由来のメニューだったとは……。額冠から伝わってくる記憶の中に存在してない。ただ単に俺との接点が少ないから記憶が引き出せないのかもしれないが。
「しょうがないから説明するでヤンス。むかーし、むかーし、アリア湖畔という所におじいさんとおばあさんがいました!」
「ほいで、ほいで?」
「湖の真ん中に塔がそびえ立っている島がありました! その塔は不思議な事に鍵の形をしていたのです!」
「ソレがこのオブジェの由来かよ!」
はは~ん? なるほど。本当にこんな形をした建物が存在するわけだ? 存在するんなら、いつかは一度見に行ってみたいな。こんなへんちくりんな建物は見ずにいられない。きっと、“珍!世界七不思議”の一つとして数えられているに違いない!
「その塔の中には“最初の鍵”という財宝がかくされているという伝説がありました! その財宝をゲットするため、二人の若者がやってきました! それが勇者エニッコスと盗賊バコ太だったのです!」
「そういえば、爺さんと婆さんはどこに行ったんだ?」
「二人は“最初の鍵”を巡って熾烈な争いを始めました! どちらも譲れない信念を持っていたからです!」
「俺の疑問に答えろよ……。答えずに強引に話し続ける信念でもあるの?」
爺さん、婆さんは行方不明だが、ここでようやく主役のエニッコスとバコ太が出てきた。財宝求めてるのはいくらでもいるから、相手が勇者でも盗賊が向かっていくこともあり得るんだろう。
「二人の死闘は凄まじく、互いに逃げようとしても、互いに囲まれたり、回り込まれたりして一向に決着が付く様子がありませんでした!」
「死闘って……どっちも逃げようとしてない? それに一対一なのに「囲む」ってどういうこと? 物理的に無理だろ!」
「二人の接戦の末に勇者が追い込まれる事態になってしまいました! 塔のへりに追い込まれてしまったのです! 大ピンチ!」
どっちが速く逃げるか合戦してるのに、追い込まれるという事態に発展するのは何故なのか? 最早、鍵を手に入れる事がペナルティみたいな感じになってきてない? 逆にそこまでして嫌がられる財宝とは一体?
「ピンチに陥った勇者は慌てふためいた拍子に脚がもつれ、へりから踏み外して落下してしまいました!」
「慌てふためいてテンパった結果がソレかよ! そんなの勇者じゃない! 勇者失格や!」
「するとその時不思議な事が起きました! ナント、落ちたはずの勇者の体が宙に浮き、鳥のように滑空していたのです! それは別の所で手に入れた“嵐のマント”のおかげでした!」
「落ちたのに飛ぶってどういう事? ひょっとして、鍵なんかよりもそのマントの方が凄くない?」
「フフ! 知ってる? ソレは勇者がエピソードⅡで手に入れたモノよ! ドラゴンのヘソを攻略したときに使用したアイテムなのよ!」
「なんか他のエピソードの話が出てきた……。」
急にミスター?が話に割り込んできた! エピソードⅡとはなんなのか? 他にも語られる伝説があるというのに、今まで一度も耳にしたことがないのは何故? しかも、俺以外はみんな知っているらしく、ファルやメイちゃんもたまに相づちを打っている。
「ピンチから一転、勇者は死闘を制し、見事、鍵の塔から脱出を成功させたのでした! 反対にバコ太は塔に取り残され、最初の鍵をゲットせざるを得なったのです!」
「せざるをって……それが目的じゃなかったっけ?」
「実は鍵に秘密がありました! 取ってしまうと塔から出られなくなる呪いがかかっていたのです! “最初で最後の鍵”……それが鍵の真名でした! そして、バコ太は塔から一生出れなくなってしまいました!」
「なにそれ……。特級呪物じゃねえか……。」
呪いがかかるから譲り合いの精神で死闘を繰り広げる結果になってしまったのか。かわいそうに。ウッキウキで塔までやってきたが何らかの経緯で真実を知った結果、勇者は逃げおおせたのだろう。マヌケな経緯での脱出だけどな。
「脱出した勇者は二度と被害者を出さないよう、“魔法のタマ”で塔を破壊しました! 塔ごと破壊して永久に封印する事に成功したのです!」
「バコ太、かわいそ過ぎるだろ! ひでぇ勇者だ!」
「そして、おじいさんとおばあさんは平和に暮らしましたとさ! めでたしめでたし!」
「急におじぃとおばぁが復帰したぁ! しかも話に全然関わってねぇ! バコ太が浮かばれねぇよ!」
「フフ、このアリア飯はそのクライマックス・シーンまで再現してるのよ! ていっ!」
ミスター?は卵の殻を割り中身を“鍵”に向かって投げつける! 鍵は崩れ落ち卵と一緒くたになった。卵は半熟のゆで卵、鍵はパイ生地で出来ていたようである。全部食べれるようになっていたとは……。




