第69話 あれとアレの共通点
「ミャーコちゃん、どこ行ってたの? しばらく見かけなかったんで、アッシは寂しかったでガンスよ!」
「別にどこでもいいじゃん! おっちゃんには関係ない話だから! なれなれしくすんな!」
事件解決の数日後、学長のご厚意で私達の労を労うために食事会が開かれた。場所はタガメさんのお店を貸し切る形になった。関係者以外には漏れてはいけない情報もあるので、そういう形式を取ることにしたらしい。
「ヒドい、ヒドいワ! アッシとミャーコちゃんの間柄でガンしょ? ホラ、この手もセクハラしたがってるでしょーが!」
「さりげなくセクハラしようとするな! この変態犬畜生!」
「ワぎゃばばっ!!」
ミヤコちゃんとタガメさんは見慣れたやりとりを繰り広げている。これでやっと日常が戻ってきたという感じがした。タガメさん相変わらず、女性に対していやらしい事をしようとする。その内、捕まってしまいそうな気がする。
「エレオノーラ、少しいいか? 君に話しておきたいことがある。」
「ええ、構いません。何の話でしょう?」
「今回の事件で気付いたことを話しておこうと思う。」
近くの席に座っていたラヴァン先生が話しかけてきた。口では先生が何を話そうとしているのか気付いていないふりをした。ある程度、内容の予想はついている。あの時先生が学長達の隠していた真実に納得がいってない様子を見ていたから。
「コアの真の使い道についてだ。あれが封印の鍵になっていたという点とフェルディナンドが不死身の肉体を手に入れた点には共通するものがある。」
「それは何なんでしょう?」
「どちらにも共通するのは異次元世界が関わっているということ。魔神は異次元空間に封印されていたし、フェルディナンドの本体は異次元空間に存在していた。フェルディナンドに関しては君自身もその場所に行って見たことがあるはずだ。」
フェルディナンドは千年以上前から子孫の体に魂を移し替えて長い時を生きてきた。でも、私達と戦ったときには肉体を捨て、アストラル・ボディに移行させていた。魂を異次元世界に置く事で不老不死を達成したのだという。
「あの男がコアの使い道に気付いたのはあることが切っ掛けになっていたらしい。この事実を知ったのは私室を捜索していたときに彼の手記を見たときだ。」
「彼の行っていた研究についての記録が残っていたということですか?」
「さすがに直接的な内容は書かれてはいなかったが、断片的に読み取ることが出来たんだ。内容からすると、君達、勇者一行がやってきたときから研究は一気に進んだみたいだ。」
私達がやってきた事が影響している? それは何故なんだろう? 確かにロアが切っ掛けで起こった事件はいくつもあった。決闘や実習で彼を排除しようとする動きがほとんどだったと思う。他に目立った異変といえば……ロアは剣と額冠を没収されていたということ? この件はハッキリと学長が関わっている。研究に影響を与えていたとすれば、この件かもしれない。
「もしかして学長は額冠を解析していたのでしょうか?」
「その可能性は大いにある。あれを解析して、コアの真の使い道に繋がる発見があったんだろう。フェルディナンドの手記や君から聞いたロアの逸話を照らし合わせて、考察してみたんだが、ある結論に至った。」
先生が至った結論……それはある意味、気付いてはいけない真実なのでは、とも思った。でも、今まで見てきた数々の奇跡もその力があったからこそ発現できたとも思える。ある意味、常識外れな力はあの額冠に隠された秘密が源だったのだろう。
「アレは……正確にはあの額冠に填められている宝玉はコアと同じ物なのかもしれない。あの額冠を通して歴代の勇者の力が行使できるのはそのためだろう。歴代の勇者の魂はコアの力を通じて現世に呼び起こされたいるものと考えれば辻褄が合う。」
「コアは異次元に至るための鍵で、使い方によっては奇跡や悪夢を呼び起こし、不死身の肉体を実現する事も出来る、ということですね。」「表向きは魔族達の力の源とされ排除の対象となっているが、それに対抗する力にも利用されていたのだ。この事実が知れ渡れば世の中は騒然とするだろうな。」
どちらも同じ物が使われているというのに正反対の現象が起きている。あの迷宮が製造施設だったということは、古代では無限に生み出す事も可能だったということになる。あの“コア”という物は一体、何なんだろう? 誰が何のために作り出した物なんだろう?
「法王庁の介入についてもある程度推測してみたが、彼らの目的はコアとそれに関わる物の排除ではないと思う。彼らはそれを使っているからこそ接収し、独占したいのだと思う。彼らが所有している“有翼騎士の鎧”、あれにはコアが埋め込まれているという噂があるのだ。」
「……!?」
法王庁とコアの関係について恐ろしい事実が浮かび上がってきた。魔族の徹底排除を掲げている組織がコアの独占使用を目論んでいるかもしれないなんて……。