第67話 無事に生還できました。
「結局、封印は解かれてしまったのですね。おまけに迷宮は崩壊。秘密裏にしていたはずが大事になってしまいましたね。」
私達は迷宮から戻り、起こった出来事を報告するために学長の元を訪れていた。でも内容が内容だけに、学長も頭を抱えることになった。ウソのような本当に起こった話ばかりだもの。信じて欲しいと言われるとそういう反応になってしまうのは当然だった。
「申し訳ありません。我々の想定外の出来事が多発した物ですから……。」
「フォグナー殿、今回は私も含めて魔神達の罠に嵌められていたと考えましょう。とにかく、皆さんが無事だったことが何よりです。」
「ありがとうございます。」
本当にみんな無事で良かった。何度も危険な目にあったけれど、生きて帰ることが出来た。レンファ先生を含めた突然現れた助っ人のおかげなのが一番影響していると思う。そうでなければヒドいことになってたと考えるとゾッとする。世界さえ滅んでいたかもしれない。
「最悪の事態を阻止出来たのも、レンファ殿を含めた方々の助力があったからこそでしょう。」
「他のお二方に比べれば、私は大して助けになっていません。」
「ご謙遜為されるな。あなたのおかげでトウテツという鬼に対処する事が出来たのです。何も知らなかったD・L・Cは対処を間違え、二人もメンバーを失うことになったのですから。」
「それに私個人としては先生が来てくれたことに心強く感じました。来てくれなければ不安に押し潰されていたかもしれません。」
「ありがとう、エレオノーラ。」
私は先生へ率直に感謝を述べた。結果として私達は鬼に敗れてしまったけれど、ギリギリのところまで押さえたおかげで被害者を出さずに済んだ。一人で戦っていれば、命を落としていたかもしれない。
「他の援助者の二人、前学長の秘書、影の勇者、彼らは一体何者なのでしょう? 助けられたのも事実ですが、少々怪しい点もありました。両者とも先の未来を知っていたかのような言動がありました。」
ラヴァン先生は私達を助けに現れた謎の人物二人について言及した。アラムさんについては地下100階の存在を知っていたり、一部ウソをついている部分があったりで、不可解な部分が多かった。気になるのは途中から姿を消して、そのまま戻ってこなかったこと。その理由は私達が戦っている間に地下100階に向かい迷宮を崩壊させる術式を作動させたのでは、という見解に落ち着いた。
「特に不可解なのはアラムという人物です。私や学長しか知り得ない情報まで知っていたのでからね。現在はルポライターをしているようですが、肩書きの裏に何か別の思惑を持っていると見たほうがいいかもしれません。」
アラムさんは何か不思議な人だった。不安になっている私を励ましてくれたり、並外れた強さで敵を牽制してくれたりした。怪しい所はあるけれど何か不思議な魅力を持っていたのは間違いなかったと思う。
「影の勇者についてはどうなんでしょう? もう一人の勇者が存在するなんてあり得るのでしょうか?」
私達の危機を前に突如現れた謎の勇者。それに対しての疑問をラヴァン先生が投げかける。一目見たときはロアが助けに来てくれたと思った。性格、立ち振る舞いは違ったけれど、見た目や雰囲気は似ている部分があったから、彼だと誤認してしまったんだと思う。彼に兄がいるとすれば、あんな姿をしているのではとも思った。でも彼に兄がいたという話は聞いたことがない。あの人は何者だったんだろう?
「学長である私もそのような存在は聞いたことがありません。フォグナー殿はご存じですか?」
「私も知りません。ですが、謎の勇者が現れたという話は各時代で伝わってはいるようですが……。」
この中では人生経験の多い学長ですら知らない存在だなんて……。この中では最も生きている時間が長いフォグナーさんまで言葉を濁している。ますます謎めいた存在だという事がわかってきた。
「勇者がいるはずのない場所や時間に颯爽と現れ、人々の危機を救ったという話は残っています。勇者を名乗った無名の実力者なのか、人々の勘違いなのか、事実は不明のままです。それらの勇者と関係があるかどうかは定かではありませんが、我々が目撃したのは事実です。世の中には我々の知らない超常的な存在がいるのは間違いないでしょうね。」
そもそも、勇者という存在自体が超常的と思える。特に私は身近にその姿を見てきたから何が起きても不思議ではないと思う。今回も私達の願いが影の勇者という形で力を貸してくれたのだと思うようにした。
「影の勇者の素性も気になるところですが、彼の言動は真実だったのでしょうか? 本当はあの迷宮はコアの製造施設だったという話をご存じだったのではないですか? 学長、フォグナー殿?」
あの時、影の勇者が語っていた迷宮の秘密について、ラヴァン先生が切り込んだ。特に先生はフェルディナンドの私室に入って、賢者の石の捜索をしてきているから、何か疑問に感じていることがあったのかもしれない。でも、あまり踏み込んではいけない事実のような気がする……。