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第66話 無空絶光


(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!)



 グレートと鬼の戦いが始まろうとしたその時、迷宮内に地響きが轟いた。地震? いや違う。しばらくたっても揺れは全く収まらない。これは自然現象ではあり得ない話だ。



「まさかあの地下100階に用意された崩壊の術式が発動したのでは……。」


「フフ、どうやら迷宮崩壊のカウントダウンが始まったようだな。」



 アラムさんが言っていた、緊急事態が発生したときに迷宮を崩壊させる仕掛けだろうか? ということは彼が地下100階に到達し、仕掛けの発動に成功したのだろう。途中から姿を消したのもこれを発動させるためだったと考えれば納得がいった。でも、事情を知っていそうなフォグナーさんが反応しているのはわかるけど、グレートは? 機密情報をどこで知ったのだろう? 彼の素性がますますわからなくなってきた。



「これでアイローネ達の計画は阻止できるということになる。」


「グレートさん、あなたはどこまで知っているのですか? これは機密情報なのです。私や学長といった限られた人間しか知らない事なのですよ。」


「私はあなた以上に物事を知っているつもりだ。だからこそ、世界が危機に瀕したとき限定的に助力して、それを助ける役目があるのだ。」


「ええい! 迷宮、計画、世界などどうでもよいわ! 我との戦いを反故にするのは許さぬぞ!」


「別に貴様との戯れを放棄したわけではないさ!」



 フォグナーさんとグレートが話し始めた事に苛立ち、鬼はグレートに問答無用で襲いかかった。それでもグレートは鬼の攻撃をひらりひらりと躱し、見事にいなしていた。



「ここはかつて魔王軍の重要拠点だった。奴等のエネルギー源、デーモン・セルとイノセント・コアの製造工場だったのだ!」


「戯れ言を吐きつつ戦うとは、舐めた真似を!」



 グレートは僕達にこの迷宮の由来を説明しつつ、鬼の猛攻を躱し続けていた。この場所がそんな場所だったとは驚きだ。確かにこの迷宮には違和感を感じていた。数々の魔神が封印されていると聞いていたが、攻略中にそういうものは全くなかった。代わりにあったのは何かの研究、製造のための設備らしき物があっただけだった。



「奴等はこの製造拠点を取り返し、新たな魔王戦役開戦の為の準備を行おうとしていたのだ。特にガンダーの率いる軍勢、ワイルド・ギースのエネルギー源を製造するためだ。これを阻止することは下手にガンダー本人を倒すよりも重要なことだ。」



 グレートは呆れるほどに饒舌だった。常軌を逸した強さを誇る鬼の攻撃を凌ぎながら、魔王軍にとってこの施設がどれ程重要かを説明した。確かに僕達はガンダーの事ばかりに目を向けていた。寧ろ、この施設その物が重要だったと言う事実を知らなかった。



「我とまともに戦うことを拒否するか! ならばうぬを無理矢理にでも、釘付けにして見せようぞ!」


「フフ、そろそろ逃げる算段を考えなければならんな。お前達は今すぐにこの迷宮から離れろ。この男は私が引きつけておく。」


「極凄螺旋豪!!!」


(ドバァァァァッ!!!!)



 黒い渦の塊をグレートはバーニング・イレイザーで相殺した。それと同時に隙を見て、最初に鬼が空けた天上の穴から上の方へと逃げていった。



「ムウ、あくまで逃げに徹するというのか! ならば地の果てまで追い詰めて見せようぞ!」



 鬼は更なる技を使うための溜めを作り始めていた。今までとは比較にならない、とてつもない暗黒の闘気だ! 両腕を縦方向に広げ、天上に向けて構える。



「四凶奥義、無空絶光!!!!!」


(ドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!!)



 轟音と共に極太の黒い柱が鬼から発せられた! それは天井を穿ち、地上に達しそうな勢いで放出されている! 黒い柱の周囲の壁は見る見るうちに崩壊していく! 次第に黒い柱は収束し、天井の大きな縦穴が露わになった。迷宮に大穴を空けるなんて……。鬼はその穴を使い、地上へと出て行ってしまった。



「迷宮をここまで破壊した人間の話など今まで聞いたことがありません。彼が人間の領域を逸脱した存在なのは間違いなさそうですね。」


「フォグナーさんでもですか……。」


「驚くべき出来事でしたが、私達が無事生還するための切っ掛けを作ってくれたのは事実です。早く脱出しましょう。ラヴァン先生、お願いできますか?」


「この大穴を使って転移魔術を使えば容易に脱出できそうですね。皮肉にも敵が作った物が私達の手助けになろうとは。」



 こうして僕達の任務は終息を向かえることになった。魔王戦役勃発の危機は回避したものの、賢者の石は魔王軍の手に渡り、魔神の封印も解かれてしまった。大変になるのはこれからになりそうだ……。

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