第65話 勇者の豪撃
「ぎょわわわーっ!!! 体が焼けるぅ!!!」
勇者の豪撃により魔神の分身達は即座に焼き尽くされ、消滅した。本体も激しい炎で焼かれ、地面をのたうち回っている。
「光の闘気は極めれば邪なる者を激しく焼き尽くす炎の如き力となる。正に太陽。故に勇者の三大奥義も灼熱の力を纏うことになるのだ!」
魔神を炎で焼いたにも関わらず、炎の精霊の力を感じない。あれは炎に見えても炎とは違う概念の物だというのはわかった。光の闘気にこんな力があるなんて初めて知った。
「さて、サギ師の成敗はこれくらいにして、本来の目的に取りかかるとしよう。」
グレートはもがき苦しむアイローネを尻目にして、鬼とガンダーが戦っている様を見つめた。相変わらず両者は激しく戦っている。まさか、あの中に割って入ろうとしているんだろうか?その様なことをすれば両者を同時に相手をする事になるはず。それでも彼は二人の元へ歩いて行った。
「何!? アイローネがやられただと?」
「何奴? 我らの戦いに水を差して只で済むと思うな。」
近付いてくるグレートに二人は気付き、手を止め向き直った。グレートの只ならぬ気配に二人も手を止めざるを得なかったようだ。それほどの威圧感をグレートは放っている。
「只で済むとは思っちゃいないさ。だが、私と鬼ごっこをしてみる気はないか? もちろん、貴様が鬼ということで。」
「冗談にしては過ぎるな。うぬは我の相手として相応しいのであろうな?」
「もちろん。私は捕まるつもりはない。いや、今のお前には無理だろうな?」
「テメエら俺を差し置いて話進めてんじゃねえよ!」
グレートは明らかに二人への挑発とも取れる態度、言動を取った。鬼に対して鬼ごっこを提案し、ガンダーを無視している。只でさえ二人を同時に相手するのは困難なのに、更に焚き付ける様な行為をしている。端から見ていると物凄くハラハラさせられる。
「鬼ごっこの前に起き抜けのガチョウを躾けないといけないな。」
「誰が起き抜けのガチョウだぁ!!!」
グレートの挑発的な態度にガンダーは激昂した。即座にドス黒い黒球を生み出し、グレートに向けて放った。殺意と怒りが最大限に込められた黒球を前に、グレートは臆することもなく剣を逆手に持ち、燃えさかる光の闘気を刃に纏わせた。
「バーニング・イレイザー!!!」
「グワワワッ!?」
放たれた光熱の衝撃波は黒球を物ともせずに消し去り、ガンダーの元にまで到達した。感田の胸は切り裂かれ、そこから激しい炎が巻き起こる。ガンダーは絶叫を上げ苦しんでいる。黒球を相殺したというのに、凄まじい威力だ。
「貴様にはおとなしくしておいてもらう。世界に魔王軍を迎え撃つ準備が整うまではな!」
グレートは意味深な発言をした。世界の準備……? 意味はわからないが、ガンダーが表に出ることを阻止しようとしているのは確かだった。グレートはその間に新たな技の体勢に入っていた。前傾姿勢を取りながら、剣を後ろに引きつつ先端をガンダーのいる方向に向けた。
「バーニング・ガスト!!!」
剣先を突き出しながら突進し、驚くべき早さで間合いを詰める。ガンダーは体を貫かれたままの状態で壁に激突した。
「ぐぼぁっ!!!」
ガンダーは黒い血を吐き出しながら気絶した。ここまでのダメージを受けながら、まだ絶命には至っていない。魔神の生命力の高さがうかがい知れた。
「よくも……やってくれたね。」
豪撃を食らい息も絶え絶えになったアイローネがよろよろとグレートの前にやってきた。太陽の炎で焼かれボロボロの姿に変貌している。先程まで僕達相手に優勢を保っていたとは思えないほど無残な姿になっていた。
「これで撤退せざるを得まい。」
「はは、ボク達に逃げろって言うのかい? 全く、屈辱的だなぁ。」
「私は深追いなどはせんよ。すれば、貴様らの主の性格は熟知しているつもりだ。奴を刺激してしまうのは目に見えている。そうなれば一気に魔王戦役になるだろう。それだけは避けたいのだよ。」
「ハッ、今回ばかりはポジョス様のご威光に感謝しないとな。さすがは我が主様ってね。じゃあ、遠慮なく撤退させてもらうよ。」
グレートは二人を逃がしてしまうつもりのようだ。それはとても危険な行為に思えたが、彼の発言が本当ならば、深追いはしない方がいいのかもしれない。あの鳥の魔王は最も気性が激しいとも言われているのは事実だ。彼が激怒した際には街の四つや五つは簡単に消滅したという話も伝わっているのだ。確かにここで逃がした方が得策なように思えた。
「この借りは必ず返すよ。ボク達、五色羽が揃って謝礼をしに来てやるからな!」
倒れたガンダーを抱え負け惜しみを言いながら、アイローネは転移魔術で消え去った。
「うぬの実力はわかった。我の相手をするに相応しい! 血が騒ぐわ!」
「では、鬼ごっこを始めようか?」
残る脅威はあと一つ。グレートは鬼を相手取ろうとしていた。言動から判断すると、鬼すらもまともに相手にしようとはしていないようだが、果たして……。