第63話 不死鳥の幻影《フランメ・シャッテン》
「さあ、見せてみな。キミの力を。」
アイローネは攻撃もせずにひたすら僕を挑発する。挑発に乗るのは危険かもしれないが、このまま普通に戦い続けても勝ち目が見えないのも事実だ。思い切って新しい戦法を試してみるしかない!
「不死鳥の幻影!!」
追従剣に炎の魔力を纏わせて、自分の鏡像を作り出す。これである程度自分と同じ動きを去ることが出来る。でも難しい魔術なのでどこまで維持できるかわからない。それまでに相手を倒さないと、倒されるのは自分の方だ。
「上出来だ。分身VS分身、どちらが強いか試してみよう!」
一旦停止していた戦いが再開された。今度は合計三人で迎え撃つことになる。只の追従剣が自分の分身に変わったのは大きい。只の剣では押し返され弾かれることも多々あった。それを振るう体があれば踏ん張りが利く。制止力がまるで違う事が良くわかる。
「おお! さっきとまるで違うね! さすがに自分の分身とカミソリ一本じゃ違いが良くわかる! やれば出来るじゃないか!」
「追従剣をカミソリ扱いしないで欲しいな! それを操るだけでもかなりの精神集中が必要になるんだ!」
「ハッ! 何を言ってるんだい、坊や。ボク達上級魔族にはカミソリ程度でしかないって事だよ! キミ達のようなチャチな精神力ではせいぜいその程度だ!」
どこまで行っても魔神は自分たちの方が上だと力を誇示してくる。この激しい戦闘の間でも。僕は最大限の攻撃を繰り出しているけど、細いレイピアで容易く捌いてくる! こちらは両手持ちの大剣、それを受け止めただけでもへし折れそうな剣だというのに簡単に受け流されてしまう。それはヴォルフの繰り出す掌底や蹴りですら同様の方法で制してくる。道化師は幻術だけではなく、剣術も並外れた腕前があると言えた。
「そら、そら! そんな事じゃ、キミ達のお姫様達を守り切ることは出来ないよ! もっと腰を入れてかかってきなさい!」
分身を出してきた当初よりも遙かに相手の動きは俊敏になっている。加えて、合間に攻撃を加えてくるのがいやらしい。こちらも更に勢いを強めようとすると、却って激しい戦い方にシフトアップしようとするのだ。これじゃキリがない。相手の実力の底が未だに見えないのが歯がゆい。
「ハイス・ロット・レーゲン……ドッペル!!!」
分身を出した状態での使用は初めてだ。ハッキリ言って未知の領域だ。どこまで精神力が持つかもわからない。だけどやるしかない。限界まで力を出し切らないと勝つことは出来ない! 最大限の思いを込めて自分の剣に炎を灯した。
「おーっ! ついに来た! 分身を組み合わせた必殺技が!」
攻撃は一体ずつ集中させて一気に仕留める。正面から袈裟斬り、背後から突き。相手はそれを掻い潜るように避けようとするが、袈裟斬りを切り上げに、突きをなぎ払いに変化させて斬りつける。たまらず相手はレイピアで受け流そうとするが、二方向からの攻撃のため切り上げを受け流した際にレイピアごと体をなぎ払ってやった。見事に上半身と下半身が分離し、倒れる途中で霧散し、分身は消え去った。まずは一つ!
「ぎぇ!? 力尽くでぶった切られた! 前からと後ろからなんて反則だ!」
「そっちは四体も分身を出しているじゃないか! 何を今さら!」
文句を言われる筋合いはない! でも、気にしていたら、隙を与えることになってしまう。今度は挟み撃ちにされたことを反省したのか、逆に僕と分身を挟み撃ちにしてきた。今度は一体ずつで相手をしないといけない。
「分身の仇ぃ!」
(ザザザザザザザッ!!!)
恨み口上を口走りながら、アイローネの分身達は素早い連続突きを放ってきた。恐ろしいスピードだ! なんとか直撃は避けてはいるものの、体を何度も掠めてしまうほどには食らってしまった。ここはちょっとしたトリックを使わせてもらう!
「チェストォッ!!!」
体に突きが命中してしまった。分身も同様だ。そこから間髪入れずに両方の分身から滅多刺しにされてしまった……体は瞬く間に消え去る。
「何!? 両方分身だっただと!」
両方とも分身にしておいた。バーニング・ヘイズでもう一人の分身を作っておいたのだ。その間に自分自身は真上に跳躍し、目の前にいる分身へと剣を振り下ろした!
「げあぁっ!?」
頭を縦に真っ二つ。断末魔を上げながら分身は崩れ去った。それを見たもう一体が背後から襲ってくる気配がする。
「死ねぇ!!」
回避は間に合わず、背中にレイピアが突き刺さる……これも分身を残しておいた。その間に自分は相手の背後に回った。
「また分身だとぉ!?」
「雨の終焉!!」
振り向きつつある相手に最後の一撃をお見舞いする。これで三体目の分身を倒せるかと思ったその時、魔神の姿は他の姿に変わった。その姿は……お嬢さんだった……。
「……ううっ!? ジュニア…どうして……?」
間に合わなかった。攻撃を止めることは出来ずに、最愛の人を斬ってしまった。僕はなんてことをしてしまったんだ……。