第61話 パリィなんて余裕です!!
「牛の後継者ちゃんが復活するまでがタイムリミットだろうね。キミ達はその時まで生き残っていられるかな?」
「あなたが倒れた所で終了ですよ。ここから先は僕達が一歩も通しませんよ!」
お嬢さんがMrs.グランデを介抱している間にアイローネを押さえないといけない。命に別状はなさそうだけど、回復魔法で回復できない上に武器を破壊されてしまったようだ。意識を取り戻しても、無理はさせられない。なんとしてでも守り抜く!
「それはないなー。ないない。あり得ないよ。何人死ぬかな? 全滅かな? D・L・Cと同じ末路を辿ると思うよ!」
「その減らず口を動かないようにして差し上げます!」
先手を取ったのはローレッタさんだった。彼女は両腕に仕込んだ刃を展開して、アイローネに斬りかかった。刃が首に到達するかと思われたその時、甲高い金属音と共に攻撃が弾かれた。
「パリィ!!」
寸前でアイローネのレイピアによって阻まれた。それに構わずローレッタさんは矢継ぎ早に攻撃を仕掛けていく。攻撃の度に金属音が鳴り響き、一度も相手の体に掠りもしていなかった。完全に攻撃を読まれている……? いや、違う。よく見るとアイローネの動きは不規則なので、技術的に防いでいるとは言いがたかった。全て反射神経だけで捌かれてしまっているんだ!
「パリィ! パリィ! パリィ! 君の攻撃は見てからパリィなんて余裕で出来るよ! ちゃんと見て防げば当たりはしない!」
「いつまでも悪ふざけばかり! 許しません!」
ローレッタさんは通常よりもスピードを乗せた攻撃を繰り出した。相手はその攻撃にも更に早いスピードで躱し、刃をマントで絡め取った。
「キミに普通の攻撃が効かないのは良く知っている。でもこうしちゃえば反応しない。マントを巻き付けただけだからね!」
アイローネは絡めたマントを引き、ローレッタさんを転倒させようとした。彼女は抵抗したが、それでもアイローネは強引に引いたため刃の付いた腕諸ともねじ切る結果になった。
(バギンッ!!!)
「……くっ!?」
「抵抗せずに地面に倒れていれば良かったのに。大切な腕が取れちゃったよ! まあ、倒れたとしてもそのままの勢い余って止め刺しちゃったかもしれないけど?」
恐ろしい強さだ! 力も早さも桁が違う。恐らく、アクセレイションの使用によるものだろう。あれは魔力の使用量で効果も倍増すると言われている。膨大であればあるほど、常軌を逸した能力を発揮出来るそうだ。目の前にいる魔神は四天王の配下だ。並の魔王以上の強さを持っている事もこれで納得が出来た。
「男子の方はどうした? さっきから黙って見てるばっかりじゃないか? 何人がかりでも相手をしてあげるよ?」
「言わせておけば!」
「あっ! 良いこと思いついた! ちょっと待ってて。儚き羽毛!」
アイローネは頭から羽毛を抜き取り、フッと吹き飛ばした。その羽毛は瞬く間に人の姿になった。いや正確には鳥人間…アイローネと似た姿をしていた。分身と言ってもいい姿だった。しかも、それが四人いる!
「なんかビビリ過ぎちゃってるみたいだから、ハンデをあげよう。キミ達一人一人が相手をするといい。強さは大体、ボクの四分の一くらいの強さだ。勝てたらボク本体が相手をしてあげる!」
ハッキリ言って僕達は舐められている。とはいえ全員でかかっても勝ち目はないかもしれない。ローレッタさんが簡単にあしらわれた上に腕をいとも簡単にねじ切ってみせた。その光景を見た僕達は怯んでしまったのは間違いない。全部見透かされていると言っても良かった。
「赫灼の雨!!」
「おおっと! いきなり大技だね! その調子で来ないと死んじゃうかもしれないよ!」
「火炎祭り!!」
僕は先頭を切って攻撃を仕掛けた。一撃目から倒す勢いで立ち向かう。それに乗ってくれたのかヴォルフも攻めの姿勢で分身達に襲いかかった。とにかく僕達二人が前衛を務めないといけない。ラヴァン先生や傷付いたローレッタさんを危険にさらすわけにはいかないんだ。
「必死だねぇ! でも、どんどんその勢いで来ないと倒せないよ! 本体はもっと強いからね!」
僕達は全力で攻撃を仕掛けても、全くと言っていいほど当たらなかった。僕は追従剣を展開して攻撃を仕掛けているのにだ。実質三人で戦っている様なものだが、相手には余裕で攻撃を躱されていた。これでも本体よりは弱いと言うのだから、とんでもない強さだ。
「そこの赤い剣のキミ! まだ本気を出してないでしょう? さっきのファイアー・バードとの戦いで身に付けた力を見せてご覧よ!」
「……クッ!?」
確かに前よりも強い魔術を使えるようにはなったけど、この道化師に通じるんだろうか? 通用するかどうかはわからない。でも、やってみないと全滅する可能性がある。一か八か……。