第60話 アンネ先生、LOST確定です!
「うぬの力、我に示して見せよ!」
「上等だ! どこの馬の骨かは知らんが、今までの鬱憤を晴らすにはちょうどいい!! 全力の出しがいがある相手じゃないとつまらんしなぁ!!」
鬼とガンダーは狂気じみた声を上げながら戦い始めた。どっちも動きが見えない。信じられないスピードで、バンバンと、腕、拳、脚を互いに打ち付け合ってる。普通の人だったらあの一発一発で死にそうなくらいで、強烈な攻撃の雨あられだった。
「さて、二人はお楽しみ中なので、ボクはキミ達と遊んであげようかな?」
道化師がこちらに狙いを定め、ゆっくりと近付いてくる。すかさずジュニア、リキシィ、ローラがその前に立ち塞がろうとした。それよりも前に出る形でラヴァン先生が走ってきた。その際中に魔術の詠唱をしてるのがわかった。
「スター・バースト!!」
(ズドォォォォォォォン!!!!!!)
「ぎぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
ぶっとい光線が道化師に命中した。光線の中で人影が蒸発していってるのが見える。その一方で声が別の方向に移動していた。見てみると道化師がおどけたポーズで苦しそうな演技をしていた。
「ぎょぇぇぇぇ……なーんちゃって! 危ない危ない! まだ始めてないのにいきなりブッパはイケナイよ! 反則! 通報するからね!」
「馬鹿な! あのタイミングで躱せるはずがない!」
燃え尽きた人影は道化師じゃなかった。躱した上で幻術を使ってやられたフリをしていたみたい。でも光線が収まった後に灰のような物が地面に落ちている。何アレ……?
「ボクには当たらなかった様だけど、Ms.リーマンの火葬は済んだじゃないか。」
「あれがアンネ先生!? いつの間に自分とすり替えたんだ!」
「首だけあそこに転がったままです……。」
確かあの人はローラに首を切られて死んじゃったはず。ローラ本人が指差しているとおり、割と離れた位置に首が落ちている。あの一瞬ですり替えるのは相当動きが速くても無理だと思う。道化師は最初からそういう事をするつもりで準備していたのかもしれない。
「教会に持っていっても蘇生は難しくなったねぇ。成功率は限りなく低くなった。ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ! ……蘇生に失敗しました。LOSTです!」
道化師はゲラゲラ笑って、ウチらをバカにするような態度を取っている。相変わらず趣味の悪いジョークばっかりだ。なんてイヤなヤツなんだ。
「我々をからかう様な真似をするとは許さない!」
「からかう、騙すはボクの十八番なんだからしょうがないじゃない。それに君たちの仲間にもそういう人がいたじゃないか。フェルディナンドの元秘書とか言ってた人!」
あのオジサンって……確か、幻惑さんと呪術の人の二人と戦ってなかったっけ? 幻惑さんは道化師だったし、呪術さんは向こうの方で死んでるし、オジサン自体は姿が見えないし。状況がよくわからない。
「彼も胡散臭いことこの上ないよ。ボクの目を盗んで、いつの間にかトンズラしてたからねぇ。しかも、ボクの筋書きを先読みしてたみたいだし、なんなんだろうね、彼は?」
「我々もよく知らない。彼は本当に逃げ出したのか?」
「僕達が聞いた話では地下100階に行く必要があると言ってましたから……。」
「隙を見てあの方はそこへ向かわれたのではないでしょうか?」
ラヴァン先生、ジュニア、ローラはオジサンの行方について話し合ってるけど、先生達大人はあの人を疑っているみたい。ミミックさんが最初に怪しいって言い始めたからなんだけど。
「キミ達、希望的観測は良くないんじゃない? 彼、結構、腹に一物持ってそうな雰囲気だったけどねぇ?」
怪しい感じはしたけど、強そうだったのは間違いないし、逃げてるとは思いたくない。あれだけ熱く勇気について語ってた人がそんなセコいことしないと思う。
「でも、地下100階の件を知ってたからなぁ。ボクとしても計画は阻止されると困るから、キミ達をさっさと片付けないとマズいかもね?」
おどけた態度から一転、恐ろしい気配を発して腰のレイピアを抜いた。反射的にみんなも構えを取っている。ウチもなんとかしないと! エルるんの無事を確かめに行くところから始めよう。
「キミ達が寄ってたかっても、ボクの相手が務まるかな? 牛の後継者ちゃんが無事なら、多少はマシになるんだろうけども。」
エルるんの所に向かう途中で言われたのでドキッとした。ちゃんと見てるって事のアピールをしている。ウチの行動に対しての牽制なんだろう。
「僕達になめてかかると痛い目を見るぞ!」
「四天王の配下がどれだけ恐ろしいか見せてあげよう。平和な時代に育ったお坊ちゃん達!」
その言葉を合図に激しい戦いが始まった。ウチはそれに背を向ける形になったからどうなっているかはわからない。その間にウチは出来る限りのことをする!